表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オオカミ様の契約婚約者-兄がやらかしたので逃げます-  作者: ととせ@「石の声を聞く後宮の底辺姫~」電子書籍化


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

56/58

終幕 1

 倉の中で倒れた三葉は、助け出されて大神邸に運ばれた後も丸一日意識が戻らなかった。

 熱に浮かされていた間、懐かしい夢を見ていた気がする。けれど目覚めた三葉は断片的にしか内容を思い出せなかった。


「ようやく落ち着いたね。熱も下がった」


 額に手を当てられ、三葉はこくりと頷く。

 大神邸の自室のベッドに横たわる三葉は、枕元に椅子を置いて寄り添う弘城を見つめる。彼は三葉を自邸に運び入れてから、ずっと看病していたと執事の水崎が教えてくれた。

 疲れているだろうに、その眼差しは安堵に満ちている。

 医者からは、しばらく静養が必要だと言われたので女学校には休学届を出してある。

 毎日歌子から届くお見舞いの花が室内を彩り、柔らかな香りが三葉の心を和ませてくれる。

 三葉がベッドからゆっくり身を起こすと、弘城が慌てて手を差し伸べる。


「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ」


 水が飲みたいと続ければ、すぐに水差しからガラスのコップにレモン水を注いで三葉の手に持たせてくれる。体が辛くないように背中にクッションまで置いてくれて、至れり尽くせりだと思う。


(もう婚約者でもないのに、弘城さんは優しいな)


 水を一口飲んで、三葉は弘城に問いかける。


「羽立野家がどうなったのか、教えてください」


 衰弱した三葉を気遣い、誰もがその話になると口を噤んだ。寄り添ってくれる吹雪でさえ、その件に関しては陶器の狐に戻って知らぬふりを決め込む始末。

 けれどいつまでも知らないままではいられないと、三葉も分かっている。

 自分はただ一人残された、羽立野家の人間なのだ。


「私には、責任があります」


 弘城を真っ直ぐに見て告げれば彼も真剣な表情になり、彩愛たちのその後を語り出した。


「今の彩愛は、蛇頭家の管理する神社に封じられている。……どうやって邪法を知ったのか、調べなくてはならないからね」


 だが既に彩愛は、半分正気が失われているという。魂を贄にして若さを保っていた反動で、今は老いさらばえ狂気の夢に取り憑かれた存在に成り果てた。


「魂とシエキを繋げた反動と、力を失った現実を受け止められなかったらしい――」


 更に明興も同罪とされ、国家転覆の嫌疑までかけられている。叔父夫婦と桃香は一命を取り留めたようだが、意識は戻らないままだ。

 当主家族と血族の殆どが失われた羽立野家は事実上取り潰しとなり、シエキの振りまいた毒で汚染された土地は大神家の管轄に移された。

 報告を聞くうちに、三葉は胸の奥に重いものを覚え頭を垂れた。


「最後までご迷惑をおかけして……申し訳ありません。どうお詫びをすればいいか」


 しかし弘城は静かに首を横に振る。


「謝るのは君じゃないよ。むしろ謝るのは、私の方だ」


 低い声に後悔の色が滲むの三葉は聞き逃さなかった。問いかけるように見つめれば、弘城が一呼吸置いて言葉を発した。


「君のお母さんが、私を助けてくれなければ私は生きてはいなかったのだからね」

「母の事を知っていたんですか……?」


 声が上ずる。

 三葉の中で驚きと疑問が渦を巻き、どうして今まで黙っていたのかと詰め寄りたくなる。だが三葉は感情に任せて叫びたくなるのを必死に堪えた。

 弘城が誠実な人だと、三葉には分かっている。彼と出会ってまだ短い時間しか過ごしていないけれど、弘城は常に三葉に対して紳士的であったし嘘も言わない。

 黙っていたのは何か理由があるからだと考えて、三葉は糾弾の言葉を飲み込む。


「三葉さん。これから君に、私が知ることを全て話すよ――」


 混乱で胸がざわめくけれど、弘城の落ち着いた声音に三葉は静かに頷いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ