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大神家(おおがみけ)に行って頂戴」

「かしこまりました」


 再び運転手に指示を出すと、江奈は手にした懐紙を折りたたむ。

 そしてそれを、強引に三葉の手に握らせた。


「あなた、大神家はご存じよね? これを持って、堂々とお入りなさい」


 告げられた家の名に、三葉はぎょっとする。

 大神家は政財界に多大な影響を及ぼすと噂される、狼を奉る総本家だ。確かに大神家に女中として上がることができれば、衣食住の不安は解消される。


「本当は付き添ってあげたいのだけど、私これからすることがあるから」

「することって……」


 三葉に最後まで言わせず、江奈がにこりと微笑む。

 その笑みは背筋が冷たくなるほど美しく、三葉は思わず身震いした。


「早くお行きなさい」


 気付けば車は、大きな門の前に停車していた。

 江奈に急かされ、風呂敷と懐紙を手にした三葉をは車から降りる。


「頑張ってね」


 呆気に取られている三葉を残し、江奈を乗せた車は走り去った。角を曲がって見えなくなる寸前、三葉は我に返り深々と頭を下げる。


(今度お目にかかる機会があったら、お礼を言わないと)


 夜道に一人取り残された三葉は、一呼吸置いて改めて大神家の門に向き合った。

 実家の羽立野家とは大分離れているとはいえ、大神家も同じ帝都内。

 家族に見つかれば連れ戻される可能性は十分にある。

 しかしここまで来てしまったら、大神家に行くしかない。


(折角江奈様の紹介所を書いてもらったんだもの。それに江奈様の言うとおり、見知らぬ土地で生きていくのは難しいのは事実だし)


 せめて、ある程度纏まった資金を稼いでからでなければ、帝都を出たところで悪徳業者に捕まって売られるか、行き倒れるかのどちらかだ。

 三葉は意を決して表門を叩く。


「あの、夜分遅くすみません」


 すると、すぐに門の横にある普段使い用の扉が開いた。


「羽立野三葉様でございますね。お待ちしておりました。こちらへどうぞ」


 顔を出したのは、女中とおぼしき女性だ。

 招かれるまま門扉をくぐると、門衛の男が三葉に頭を下げる。


(この人達、私が来るのを知ってたみたいだけど。どうして?)

「あの、これ」


 先程江奈に書いてもらった紹介状を差し出すと、女中は首を横に振る。


「まずはお屋敷に入りましょう。さあお早く」


 先に立って歩き出す女中に、三葉は着いていくしかない。


(うわぁ)


 女中が足もとを照らす提灯を持っていない理由は、すぐにわかった。門から屋敷まで続く道には真っ白な玉砂利が敷かれ、ガス灯が幾つも立っているのだ。


 大きく曲がった道を抜けると、その先に大神家の本邸が見えてくる。

 実家と違い、それは完全な洋風の建物だった。


(これが、大神家のお屋敷……ここで働くんだ)



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