表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オオカミ様の契約婚約者-兄がやらかしたので逃げます-  作者: ととせ@「石の声を聞く後宮の底辺姫~」電子書籍化


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

44/58

神排の正体

「あの羽立野の馬鹿息子……もとい、明興の婚約者が怪しいのは分かっていたの。ただ彩愛(あやめ)がどこで何をしているのか、さっぱり分からなかったのよ」


 蛇の探査能力を以てしても、こんなことはあり得ないのだと江奈が語気を強めた。

 それに歌子も頷く。


「わたしの雀達も見つけられなかったのよ。それだけ神排の力が強いということなのでしょうけど……腑に落ちませんわ」


 歌子の使役する雀達は、この帝都内を縦横無尽に飛び回る。力は弱いけれど、呪いや結界の気配に敏感なのだ。

 そんな雀達の目を欺くならば、余程強い結界を張らなくてはならない。


「シエキを頂いたと桃香は話してました。蛇の骨のように見えました。それが関係しているのかもしれません」

「使役……じゃなくて「シエキ」? ……神排の式神なのかしら」


 聞き慣れない響きに、歌子も首を傾げている。

 しかし神を遠ざける神排をした者が、式神を使えるのか疑問だ。


「あれは死と疫病を合わせた彼らの作り出した言葉。「死疫(しえき)」よ」

「江奈様はご存じだったんですか」


 歌子の問いかけに、江奈が頷く。


「シエキもそうだけれど、神排だって実体は邪法に手を出しただけ。ご大層な思想なんてないわよ」

「そもそも神排は、奉っていた神を捨てた者が作り上げたものでしかない――」


 神を奉るには、様々な作法がある。例えば同じ狐を奉るにしても、家ごとに作法やしきたりが伝わっており、それらは神の力が強ければ強いほど複雑化する。

 神を迎えることは簡単だが、維持するのは手間がかかるのだ。


「その分、受ける恩恵も大きいのだけれど。人は楽な方に流されやすいからね」


 弘城の言葉に三葉ははっとする。


「だから家には沢山神棚があったんですね」

「羽立野の家には、幾つ神棚があったの?」

「……立ち入りを禁じられていた場所もあったから、正しい数は分からないけど。多分五十と、少し」

「五十っ?」


 悲鳴のような声を上げる歌子だが、江奈もそこまでとは思っていなかったらしく目を見開いている。


「三葉さんは見つけることのできた神棚を全て掃除して、手を合わせていた。だから吹雪も付いていこうと決めたんだよ」

「まあでもそれなら神排に目を付けられたのも理解できるわ。奉った最初のうちは、恩恵があるけど、当然掃除をしたり御神酒を上げたり。季節ごとの祭礼も欠かせないわ。でも羽立野家はやるべきことを投げてしまった」

「でも恩恵は保ちたいから、新しい狐を迎え入れる。……を繰り返したのですわね。それは当然、見限られてしまいますわ」

「けれど私、祭礼なんてしたことない……作法だって、基本的な事しかしてないのに」

「三葉は十分俺達を助けてくれた。信仰は神にとって、何よりの糧となる」


 小さいが、はっきりと吹雪の声がする。


「うん。だから狐たちは、三葉さんを主に決めたんだ。――羽立野家が傾いた原因は、本来の当主である三葉さんのお父さんを排除した事に起因する。正式に当主の座を譲る儀式をしていれば問題はなかったけど、それでも神を蔑ろにしていれば、神排でなくとも遠からず事業は傾いただろうね」


 弘城が続けると、江奈も同意する。


「つまり当主弟の羽立野家乗っ取りが公になるのを恐れて、三葉さんに嘘を言い家に留め置いたという事ね」

「じゃあそれも、神排の人達がそう仕向けていたということなのかしら?」

「でしょうね。あの馬鹿達がそこまで頭が回ると思えないもの」


 次期当主の資格を持つ三葉の訴えがなければ、いくら大神家でも手が出せないのは以前弘城から聞いている。


「確かに叔父一家にとっては、私は目障りな存在だった筈です。なのに外聞があったにしても、家に置いていたのには理由があるということでしょうか」


 疑問に反応したのは弘城だった。


「理由……そうか、神排達は三葉さんが必要だった」

「ああ、繋がったわ」


 ぽつりと江奈が呟く。

 その声は暗い。


「彩愛の実家も、元々は蛇を奉っていたの。でもいつの頃からか蛇の力だけでは物足りなくなったのでしょうね、邪法に手を染めるようになって――蠱毒(こどく)を作っていたのよ」


 蠱毒とは、邪法の一つだ。


 基本は百足、家守、蛙、蛇、蠍。それらを一つの壺に入れて殺し合いをさせ、生き残った一匹を呪いの媒介に使う。


 しかし彩愛の一族は、より強い呪いを作ろうと考えたのだろう。

 数々の蠱毒を壺に入れただけでは飽き足らず、本来奉っていた蛇を壺に押し込めた。

 更には親族の家から奉っている蛇神を盗み、同族同士で殺し合いをさせ、最後は残った蛇さえも身食いさせたのだという。


「よくそこまで考えたものだ」


 禍々しい呪いは、聞いているだけでも気分が悪くなる。


「強い蠱毒を使役し、維持するには相応の対価が必要になるわ」

「まさか、対価って……生け贄とかですか?」


 歌子の問いかけに、江奈は表情を変えずに頷いた。


「彩愛の一族は多くが病死したとされてるけど、墓がないの。おそらく神排を信奉する者達から生け贄を選んで呪いに捧げていた。と考えるべきかしら」


 そしてその最終的な生け贄が――


「三葉さんだったのよ。神憑を生け贄にすれば、憑いている狐も取り込める。そこまで考えて、彩愛は計画していたのよ」

「江奈さん。君は言葉が強すぎる」

「弘城は黙って。こういうことは、はっきり話すべきなのよ。曖昧にぼかしたって、いずれは真実を知るんだから。それに女はそんなヤワじゃないわ」


 江奈が妖艶な笑みを浮かべて三葉を見遣る。


「私は蛇頭家の者として、彩愛と彼女の力を利用した羽立野一家を許さない。三葉さん、あなたの気持ちは定まった? 私で良ければ、復讐の手伝いをするわよ」

(復讐……)


 全てを知った今、父と思っていた相手は両親の敵だ。義母や腹違いだと教えられてきた兄と妹も、三葉を虐げ存在をないものとして扱ってきた。


「私はただ、悲しくて悔しいんです」


 単純に憎しみと言い切ってしまうには、感情は複雑だ。


「叔父さん達のしたことは許せません。でもまずどうしてか知りたいんです。何故父を殺し、間接的に母を死に追いやったのか。跡継ぎになりたかったのなら、まず親族を説得するべきでしょう? それに逃げた母まで追いかけた理由も知りたいんです」

「三葉さんの気持ちは分かったわ。こちらとしても、何故そんな馬鹿げた事をしたのか知りたいの。ただし全て吐かせたら、彩愛の身柄はこちらに一任させていただくけどよろしくて?」


 微笑む彩愛はの瞳は、獲物を前にした蛇のように鋭く冷たい。


「彼らのしたことは許されない罪なの。わが蛇の一族は、罪人の血脈が尽きるまで呪うわ」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ