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オオカミ様の契約婚約者-兄がやらかしたので逃げます-  作者: ととせ@「石の声を聞く後宮の底辺姫~」電子書籍化


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再び蛇!じゃなくて、江奈様登場・1

 あれから桃香を見かけることなく、三葉は無事に一日を終えた。

 と思ったのもつかの間。校門を出たところで見覚えのある車が横付けにされた。

 一緒に下校していた歌子が咄嗟に三葉を庇うように立ちはだかる。


「どなたかしら……江奈様っ」


 歌子が問うと後部座席のドアが開いて、洋装姿の江奈が顔を出してにこりと微笑む。


「あら、河菜家のお嬢さんね。お久しぶり、でよろしいかしら? 三葉さんをお借りしても?」


 問いかけてはいるが、江奈の口調から形だけと分かる。


「ちよっっとお話ししたいだけ、何もしないわ。大神家と縁を取り持った責任もあるから、二人きりで今後の事を話し合いたいのよ」


 警戒する歌子にかまわず、江奈は三葉を手招く。

 その視線は鋭く、まるで狙いを定めた蛇のようだ。


 どちらにしろ江奈にはお礼をしなければと思っていたので、三葉は歌子に頷いてみせる。


「大丈夫よ、歌子さん」

「……仕方ないですわね。吹雪、三葉を命に替えてもお守りするのよ」

「承知」


 三葉は深呼吸をして、江奈の車に乗り込んだ。


***


 連れて行かれたのは、政治家などが利用する名の知れた料亭だった。

 江奈は女将と顔見知りなのか、二三言葉を交わしただけで奥の座敷へと案内される。


「蛇頭家が所有してる料亭なの。気楽にしてね」

(無理ですよ)


 料亭なんて人生で初めて入ったのだ。世間知らずの三葉でも、自分が分不相応な場にいるのは理解できた。


「お食事って時間でもないから、甘味を用意したの。甘い物はお好きかしら?」

「はい、大好きです」


 つい三葉は即答してしまい、頬を赤らめた。


 八畳ほどの部屋には座卓を挟んで座布団が二つ置いてあり、三葉は促されるままに座る。するとすぐにお膳が運ばれてくる。


「これ最近流行ってる、アフタヌーンティー。お口に合えばよいのだけど」


 陶器の皿が三段に重ねられた変わった食器に、それぞれ美味しそうなお菓子やサンドイッチが乗っている。


 香りのよい紅茶が用意され、支度を整えて仲居が下がり二人きりになると江奈は座卓に頭を擦り付けるようにして三葉に謝罪する。


「ごめんなさい、三葉さん。婚約者となるよう迫られているって執事から聞いて、慌てて来たのよ。弘城さんがここまであなたに執着するのは想定外だったの」


 江奈はあくまで客人として、大神家への紹介状を託したつもりでいたらしい。


「そのことなんですが。弘城さんは私との婚約は取引だと行ってました」


 神を奉る家の当主は取引しないといけない制約があることも説明されたと話せば、江奈はため息を吐く。


「それはそうなのだけど。弘城の言うとおり単純に匿うだけじゃなくて、神排からも守るという事なら「婚約者」にしてまうのが安全ではあるのよね」


 現状、羽立野家は完全に神排に乗っ取られているようなのだ。彼らの目的が叔父家族だけならいいのだが、三葉にも何かしら接触を図る可能性は十分にある。

 身の安全を第一に考えた場合、弘城の提案は理に適っているのだ。

 それでも江奈は釈然としない様子だ。


「でもまさか、契約で婚約を迫るなんて思ってなかったわ。本当にごめんなさい」

「いえ、あくまで契約だって分かってますから大丈夫です。それにまだ正式にお受けしていませんし」

「そうなの?」

「私と大神様では、いくら契約だとしても婚約者だなんて恐れ多いです」


 弘城は「いずれ祝言を挙げて狐に守られている三葉と縁ができれば、大神家の利益となる」と言っていたけど、実際は匿われている間だけの限定的な「婚約者」だと理解している。それでも身分差を考えれば、はいそうですかと頷くことなど三葉にはできない。


「あなたの守護狐が目当てだと思っていたけど、三葉さんの性格が気に入ったのね。納得だわ」

「意味がよく分からないのですが」


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