恐怖はゆっくりと動き出す・2
「三葉さんて、とんでもない家に縁があるのね。吹雪、ちゃんと守ってあげなさいよ」
「無論だ」
「歌子さんのお家も、立派な家系でしょう?」
確かに大神家や蛇頭家に比べれば、河菜家は少しばかり格は低いらしい。だがそれを言うなら神排をした羽立野家など、比較にもならない。
「河菜はあちらとは管轄が違うと言いますか……色々あるのですわ」
守り神関連の内情に関して、三葉は全く知識がない。なので歌子から説明されても、どこまで理解できるか分からなかったのでこの話はこれで止めることにする。
「桃香はまだ学生だから、家の事は分かっていないのではないの?」
両親も兄も、愛らしい桃香を目に入れても痛くないほどに可愛がっていた。だから羽立野家が窮状に立たされても、桃香には何も告げいない可能性は高い。
「……だと思いますけど。今までとは何か違いますのよね」
「違う?」
「あの子、学校では無邪気で取り巻きのお嬢さん達と騒ぐだけだったでしょう? でもこの数日……つまりパーティーの後から、何かこう、引っかかるのですわ」
その引っかかりがなんなのか、歌子自身も感覚でしか捕らえられないらしい。しかし三葉からすれば、少しばかりはしゃぎすぎているという印象だけで、特に気になる事はなかった。
(学校ですれ違っても、ずっと無視されてきたから気にすることはないのだけど……桃香はいつもの桃香だったわ)
冷めた目で三葉をねめつけ、何も言わず視線を逸らす。
家の中で偶然顔を合わせたときには、これに嫌味と罵倒が加わるがそれだって三葉からすれば日常だった。
「歌子さん、三葉さん。極秘情報を入手しましたわよ」
歌子の取り巻きである女生徒が駆け寄ってきて、三葉の隣に座る。歌子が三葉にあれこれ気をかけてくれているので、歌子の取り巻きは特に三葉には親切だ。
「特に三葉さんにとっては、重大な情報よ」
小首を傾げる三葉に、彼女は大スクープを手にした記者のように胸を張る。
「三葉さんのやらかしたお兄様の婚約者が、近いうちに転校して来るそうです。どうです、歌子さんも初耳でしょう?」
「でかしたわ! あなた、諜報員一級に昇進ですわよ」
歌子に褒められ、やったーとバンザイする女生徒だったが、すぐ真顔になって声を潜める。
「彩愛様と仰る方よね。神排に深く傾倒していると、父から聞いてます。私、余り神排とはお近づきになりたくないのですけど……三葉さんはなにかご存じ?」
不安な気持ちはよく分かる。けれど三葉も彩愛に関しての情報は全くないのが現状だ。
「ホテルで明興お兄様が紹介されたときに、初めてお顔を拝見したの。だからどんな人かも良く分からなくて」
「やんごとなきお家の息女。だけですものね」
歌子が青菜を食べ終わった雀に囀る。
するとすぐに雀は、開け放たれた窓から飛び立った。
「羽立野家の動向と一緒に、彩愛も見張るように命じましたの――」
嫌な予感が当たらなければよいのですけど、と、歌子が呟いた。




