轢かれて死んで来世は楽しむぞ!と思ったらただの狐だった。 ep.6
差し込む朝陽が瞼を焼き、私はゆっくりと意識を浮上させた。
『……生きてる。私、まだ生きてる……!』
体は昨日よりずっと軽い。ガクガクだった足の震えも収まり、どうやら魔力も少しは回復したようだ。
けれど、回復したことで逆に、昨日以上の「猛烈な空腹」が牙を剥いてきた。
『お腹空きすぎて、胃が自分の壁を食べてる気がする……。とにかく、何でもいいから口に入れなきゃ……』
フラフラと樹洞から這い出し、朝の森を探索し始める。
昨日のような狼が出てこないことを祈りながら、雪を漕いで慎重に進んでいくと、一本の低木が目に留まった。
白い雪に囲まれたその枝には、宝石のように鮮やかな赤いベリーが、たわわに実っている。
『……ベリーだ。美味しそう……。でも、待てよ』
私は直前で口を止めた。
前世の知識が警鐘を鳴らす。自然界において、派手な色の実は「毒があるぞ」という警告色である場合が多い。
『もしこれが、食べたら内臓が溶け出すようなヤバい実だったら……? せっかく狼から逃げ延びたのに、食い意地張って自滅とか、笑えないどころか史上最高にダサい転生者になっちゃう』
クンクンと鼻を近づけてみる。
甘酸っぱい、いい匂いだ。本能は「食べろ」と言っているが、理性がそれを必死に止めている。
『……あ、そうだ。私にはこれがあったじゃん!』
昨日の戦いで学んだ、この世界の攻略本。
私は目の前の赤い実に意識を集中し、心の中で唱えた。
(ヘルプ、「この赤い実」!)
【スノウ・ドロップ・ベリー】
極寒の地にのみ自生する低木の実。
糖度が非常に高く、魔力を微量に回復させる効果がある。食用として極めて安全だが、非常に甘いため一度に食べ過ぎると鼻血が出る可能性がある。
『……鼻血が出るほど甘いだけ! 合格!!』
毒がないどころか、魔力回復のバフ付きという最高の結果。
私は喜び勇んで、その赤い実にパクついた。
口の中で弾ける、濃厚な甘みと酸味。
凍てついた体に、じんわりと温かい力が染み渡っていくのがわかった。
『おいしぃぃぃ……! 糖分が五臓六腑に染み渡る……。やっぱり、持つべきものは鑑定スキルだね!』
むしゃむしゃとベリーを頬張りながら、私はこれからのことを考え始めた。
昨日の狼、そして動く死体。この森は「フツーの女子高生」がのんきに暮らせる場所じゃない。
『とりあえず、お腹を満たしたら……もう少し自分の「魔法」を練習してみようかな』
ベリーを口いっぱいに放り込み、胃袋が落ち着いてくると、ようやく頭が回り始めた。
昨日の「あの一発」でなぜあんなにも力尽きたのか。私は改めてヘルプウィンドウの情報と、自分の体の感覚を照らし合わせる。
『……ふむ。やっぱり、私の魔力量が少ないだけが原因じゃないみたいだね』
原因はおそらく二つ。
一つは、この「ノースフォレスト」という環境そのものだ。
『ここ、魔力濃度が絶望的に薄いんだ……。だから回復も遅いし、植物もこんな低木くらいしか育たない』
お風呂の浴槽にお湯を溜めたいのに、蛇口から出る水がチョロチョロの糸状態……みたいな感じだろうか。外にある魔力が薄いから、一度空っぽになった「中身」を補充するのにとんでもない時間がかかる。
(おまけに、濃度が薄いせいで、私の魔力タンクもそもそも満タンまで溜まりきらないんだ。常にガス欠寸前の原付を走らせてるようなもんじゃん……。最悪だよ)
そして、もう一つの原因は私自身にある。
昨日の氷の槍。あの一撃は、まさに「必死」の産物だった。
『イメージの正確さや規模により、威力と消費魔力が変化する……か』
昨日はとにかく大きな槍を、がむしゃらなイメージで放った。
でも、もし「針のように細く、けれどダイヤモンドより硬い一撃」をピンポイントで放つイメージができれば?
あるいは、形を維持する無駄を省いて、もっと効率的に魔力を使えたなら?
(今の私に必要なのは、大火力のロケットランチャーじゃない。少ない燃料で確実に仕留める、超省エネの精密射撃だ……!)
分析が完了した。
絶滅危惧種の白狐として、この魔力枯渇地帯で生き残るための生存戦略。それは「魔力の節約」と「イメージの極致」。
『……よし。まずは、小さな氷の粒から練習してみようかな』
私は一粒のベリーを飲み込むと、再び集中を高めた。
昨日のような「死ぬ気の一発」ではなく、もっと繊細に、もっと自分に馴染む力を。
前世の剣道でも、力任せの素振りより、正しい手の内と最小限の動きが重要だった。
私は右の前足をそっと雪の上に置き、その指先に意識を向けた。
『イメージしやすいもの……。定番なら火とか水、土かな?』
火は温かいけど、この極寒の地で燃やすのは「維持」が大変そうだ。水も、放り出した瞬間に凍りそう。土は雪に覆われすぎていて、どこにあるのかすら怪しい。
『……あ、風。風なら、そこら中に吹いてるじゃん』
今も私の白い毛並みを揺らしている、冷たく鋭い冬の風。
昨日、あの狼が氷の槍を放った時も、空気を激しく吸い込み、凝縮させていた。
(風なら、ゼロから何かを生み出す必要がない。今ある「空気の流れ」をちょっといじって、指向性を持たせるだけでいいはず……。これなら燃費もいいんじゃない!?)
私は鼻先を上げ、冷たい空気を大きく吸い込んだ。
肺の中に入る空気の冷たさ。喉を通り、体の中を巡る感覚。
それを、自分の魔力で「さらに速く」「さらに鋭く」加速させるイメージを持つ。
『……よし。目標は、あそこの枯れ木』
数メートル先にある、細い枝。
私は一点を凝視し、自分の周りにある空気を、一枚の薄い「板」に変えていく。
(ただの風じゃない。見えないほど薄くて、氷よりも冷たい……真空の刃!)
前世で振っていた竹刀の、一番速い瞬間の速度を。
そして、あの狼の氷が持っていた絶対的な「硬さ」を混ぜ合わせる。
――シュッ!
空気が鳴った。
目には見えない。けれど、確かな「力の筋」が空間を走り、パキリと小さな乾いた音が響く。
『……あ。折れた』
目標にしていた枯れ木の枝が、何かに叩かれたようにポッキリと折れ、雪の上に落ちた。
氷の槍を放った時のような、意識が飛びそうになるほどの倦怠感はない。
『いける……これだ! 重たい「質量(氷)」を投げるんじゃなくて、元からある「空気」に鋭さを乗せるだけ。これなら今の私の魔力でも、何発か連射できる!』
もちろん、威力はまだ低い。狼の喉首を狩るには、今の数倍の鋭さと速度が必要だろう。『イメージしやすいもの……。定番なら火とか水、土かな?』
火は温かいけど、この極寒の地で燃やすのは「維持」が大変そうだ。水も、放り出した瞬間に凍りそう。土は雪に覆われすぎていて、どこにあるのかすら怪しい。
『……あ、風。風なら、そこら中に吹いてるじゃん』
今も私の白い毛並みを揺らしている、冷たく鋭い冬の風。
昨日、あの狼が氷の槍を放った時も、空気を激しく吸い込み、凝縮させていた。
(風なら、ゼロから何かを生み出す必要がない。今ある「空気の流れ」をちょっといじって、指向性を持たせるだけでいいはず……。これなら燃費もいいんじゃない!?)
私は鼻先を上げ、冷たい空気を大きく吸い込んだ。
肺の中に入る空気の冷たさ。喉を通り、体の中を巡る感覚。
それを、自分の魔力で「さらに速く」「さらに鋭く」加速させるイメージを持つ。
『……よし。目標は、あそこの枯れ木』
数メートル先にある、細い枝。
私は一点を凝視し、自分の周りにある空気を、一枚の薄い「板」に変えていく。
(ただの風じゃない。見えないほど薄くて、氷よりも冷たい……真空の刃!)
前世で振っていた竹刀の、一番速い瞬間の速度を。
そして、あの狼の氷が持っていた絶対的な「硬さ」を混ぜ合わせる。
――シュッ!
空気が鳴った。
目には見えない。けれど、確かな「力の筋」が空間を走り、パキリと小さな乾いた音が響く。
『……あ。折れた』
目標にしていた枯れ木の枝が、何かに叩かれたようにポッキリと折れ、雪の上に落ちた。
氷の槍を放った時のような、意識が飛びそうになるほどの倦怠感はない。
『いける……これだ! 重たい「質量(氷)」を投げるんじゃなくて、元からある「空気」に鋭さを乗せるだけ。これなら今の私でも、何発か連射できる!』
もちろん、威力はまだ低い。狼の喉首を狩るには、今の数倍の鋭さと速度が必要だろう。
反復練習あるのみだね




