轢かれて死んで来世は楽しむぞ!と思ったらただの狐だった。 ep.5
『はぁ……はぁ……もう、一歩も……無理……』
視界がぐにゃりと歪む。
アドレナリンが切れた途端、暴力的なまでの疲労と、芯から凍えるような寒さが襲いかかってきた。
このまま雪の上で倒れていれば、数分もしないうちに今度こそ本当に「死体」になってしまう。
(どこか……どこでもいい。風を凌げる場所……!)
霞む目を凝らして周囲を見渡すと、老木の根元にぽっかりと開いた小さな穴――「樹洞」が目に留まった。
今の小さな私の体なら、すっぽりと収まれそうなサイズだ。
私は這うようにしてその穴へ潜り込んだ。
『……っ、ふぅ……』
中は枯れ葉が溜まっていて、吹き荒れる外気から遮断されている。それだけで、天国のように感じられた。
丸まって自分のふかふかな尻尾に鼻先を埋めると、微かな自分の体温が伝わってくる。
(助かった……のかな。おじさんをアンデッドにしてまで、生き残っちゃった)
目を閉じると、さっきの光景がフラッシュバックする。
氷の槍がぶつかり合う音。肉を裂く獣の咆哮。そして、あの冷たかった男性の遺体。
オタク知識で「転生」だなんて浮かれていたけれど、ここは紛れもない、弱肉強食の異世界なのだ。
『……魔法も、あんなに疲れるなんて聞いてないよ。お腹、すいたな……』
ぐぅ、と小さく胃袋が鳴る。
さっきの干し肉を食べておいて本当によかった。あれがなければ、今頃とっくに力尽きていただろう。
外では、風が木々を揺らす「ゴーッ」という低い音が響いている。
一匹現存、絶滅危惧種の白狐。
武器なし、魔力なし、仲間なし。
『……寝よ。今はとにかく、寝て……魔力を回復させなきゃ……』
意識が急速に沈んでいく。
冷たい木の匂いと、自分の毛並みの暖かさ。
明日、目が覚めたときに何が起きるかはわからない。けれど、今はただ、この小さな暗闇の中で、静かに泥のような眠りに落ちていった。




