轢かれて死んで来世は楽しむぞ!と思ったらただの狐だった。 ep.15
換金所で期待に胸を膨らませた私に、山羊耳の鑑定士さんは申し訳なさそうに天秤を片付けた。
「いや、済まないねお嬢さん。全部が全部氷晶石だと思ったんだが、よく見たら他の石はただの綺麗な小石だ。魔石として価値があるのはこれ一つ。それと、この鳥の羽もまとめて……」
ジャラリ、とカウンターに置かれたのは、鈍く光る銀貨1枚と、少し赤みがかった銅貨1枚。
現在の所持金:51,000円(銀貨1枚+銅貨1枚)
(……ああ、そうか。エジソンの言う通り、世の中そんなに甘くないってことだね。金貨ザクザクの成金ライフは一瞬の夢だった……)
でも、冷静に考えればこれでも大金だ。
日本円にして約5万1000円。ノースフォレストでタダで拾った石と、その辺で捕まえた鳥の羽が、新卒の初任給の4分の1くらいになったと思えば十分すぎる。
「……うん、いいです。ありがとうございます、おじいさん」
「おっと、期待させて悪かったな。だが銀貨1枚あれば、この街ならしばらくは遊んで暮らせるはずだ。気をつけてな、白いお嬢さん」
私は銀貨と銅貨をポケットにしまい、換金所を後にした。
(さて……所持金は51,000円。そしてギルドの登録料(身分証発行代)は、ちょうど50,000円(大銅貨5枚分)……)
……。
…………。
(残金、1,000円(銅貨1枚)になっちゃうじゃん!!)
身分証を作った瞬間に、私の手元には牛丼1杯分くらいの余裕しか残らなくなる。今夜の宿代(約1,000円)を払ったら、明日の朝ごはんは抜きだ。
「……迷う。正直、屋台の香ばしい匂いに魂を売る一歩手前だった。けれど!」
私は、ぐぅぅと抗議するお腹を片手で押さえ、決然と顔を上げた。
(ここで一時の食欲に負けて宿代まで使い込んだら、私は一生路地裏のモフモフで終わってしまう。まずは社会的地位。そして継続的な収入源だ!)
お腹の虫を「魔法で黙らせる(ただの精神統一)」という荒技を使いつつ、私は街の中央に鎮座する、ひときわ頑丈な造りの建物――冒険者ギルドの門を叩いた。
内部は、外の喧騒とはまた違う、独特の熱気と鉄の匂い、そして濃密な魔力が混ざり合っている。
壁には無数の依頼書が貼られ、筋骨隆々の獣人や、鋭い眼光を放つ狩人たちがたむろしている。
(うわ、ガチなやつだ……。あ、ヘルパーさん、翻訳フォローよろしく!)
【了解】
ギルド内の案内表記、および規約書等のオーバーレイ表示を強化します。
受付カウンターは正面。空いている右端の窓口が「新規登録」用です。
私は白いローブの裾を整え、背筋を伸ばして(人間歩行にもだいぶ慣れてきた!)窓口へと進んだ。
担当の職員は、クールな印象の猫耳のお姉さんだ。
「……新規登録? 未成年……には見えないけど、随分と綺麗な毛並みね。登録料は大銅貨5枚、あるいは銀貨1枚だけど、払えるかしら?」
「はい。これでお願いします」
私は、手に入れたばかりの銀貨1枚を、未練を断ち切るようにカウンターへ置いた。
銀貨がカラン、と音を立てて私の手元から去っていく。
これで、私の所持金は銅貨1枚(約1,000円)。文字通りの背水の陣だ。
「確かに。では、この魔導感応水晶に手を置いて。あなたの魔力適性と、犯罪歴の有無、それに属性の……まあ、形だけの測定よ」
(犯罪歴!? あ、密入国未遂はカウントされてないよね? 属性も全部できますって出たら目立つかな……)
少し緊張しながら、私は水晶にそっと手を触れた。
すると、水晶が淡く、けれど深い透明に近い白に輝き始める。
「……あら? 特定の属性に偏りがない……無属性、いえ、全適性? でも反応が静かすぎるわね。魔力の質が良すぎて、逆に測定器が追いついてないのかしら」
お姉さんは不思議そうに首をかしげている。
どうやら、私の「特訓で洗練された魔力」は、この街の基準からすると少し規格外だったらしい。
「まあいいわ。名前……は、そこの羊皮紙に書ける? 書けなければ代筆するけど」
(ヘルパーさんの翻訳のおかげで、ミミズ文字の書き方もパターンで理解できる! いけるぞ!)
私はペンを取り、流れるような(少し震える手で)名前を書き込んだ。
……そういえば、この世界での私の名前、決めてなかったな。
「……私の名前は、シロ……シロネです」
前世の名前を少しだけ混ぜて、私はそう名乗った。
「シロネ、ね。……はい、これがあなたの冒険者証よ。紛失しても再発行にはまた銀貨1枚かかるから、死ぬ気で守りなさい」
手渡されたのは、鈍く光る金属製のプレート。
私の魔力波形が刻まれ、そこには確かにランクF(初心者)の文字。
(やった……。ついに手に入れた、この世界の公式チケット!)
でも、ご飯どうしよう。そろそろ夜も近いし、クエストを受けようにも…




