轢かれて死んで来世は楽しむぞ!と思ったらただの狐だった。 ep.14
「……あ、詰んだ。第三の詰みだわこれ」
意気揚々と街に繰り出したものの、私は看板の前で石像のように固まった。
ベーカリーらしき店の看板も、ギルドらしき建物の門柱も、そこに書かれているのはミミズがダンスを踊ったような未知の記号。
(そうだった……異世界転生の定番トラブル言語の壁! しかもこれ、喋るのはなんとなく聞き取れるし喋れるのに、文字が全然一致してないタイプだ!)
前世で洋ゲーをプレイしていた時、字幕が文字化けしていた絶望感を思い出す。
街の地図すら読めない。これじゃ美味しいお店に辿り着く前に迷子になって、行き倒れる美少女狐になってしまう。
「……ヘルパーさーん! 助けて! AIの自動翻訳機能とか、ないんですか!?」
脳内で叫んだ瞬間、視界の端に「ピコン!」と馴染みのある通知音が響いた。
【言語・文字解析プロトコル:起動】
対象言語:リバティ公国公用語。
翻訳レベル:AI適応翻訳(意訳・ニュアンス補正込み)。
※「ヘルパーさん」という呼称を認識しました。以降、視覚情報のリアルタイム・オーバーレイを開始します。
「おぉ……!? 文字が、文字が浮き上がってくる……!」
看板のミミズ文字の上に、うっすらと半透明の日本語が重なって表示され始めた。
『こんがり麦亭:本日のおすすめ・干し肉のハニーマスタード和え』
『鉄の槌ギルド:武器・防具の修理ならお任せ』
『リバティ中央図書館:※魔導書閲覧には資格が必要です』
「ヘルパーさん様様! あなたこそ私の翻訳神だよ! まるで高性能なARゴーグルをつけてるみたい」
おかげで、街の情報が洪水のように流れ込んでくる。
どうやらここは「リバティ公国」という国の、商業が盛んな都市。そして、人々が「ケモミミ」なのはやはりこの土地の魔力と関係があるらしい……といった噂話程度のテキストまで、周囲の掲示板から読み取れる。
(よし、これなら情報の収集効率が段違いだ。文字が読めるなら、まずはこの世界の常識とお金の価値を調べないとね)
私は心の中でヘルパーさんに心の中で親指を立て、翻訳された文字を頼りに、まずは人だかりができている掲示板へと向かった。
「……ん? 『新種の魔獣目撃情報:北の森より白銀の影……』。……あ、これ私のことだ」
どうやらノースフォレストでの爆走は、しっかり事件として記録されていたらしい。
私は苦笑いしながら、自分の正体がバレないようにフードをさらに深く被り直した。
「ヘルパーさん、ギルドで身分証発行とか、魔法でちょちょいっと偽造……じゃなかった、作成できたりしない?」
淡い期待を込めて脳内で問いかけると、ヘルパーさんはいつもの冷静なトーンで、けれど心なしか呆れたようなニュアンスを込めて答えてくれた。
【回答】
個体識別証(身分証)の魔法による物理的精製は可能です。
しかし、本都市のギルド身分証には『固有魔力波形』と『中央管理魔導器』との同期による認証魔法が組み込まれています。
「見た目だけの偽造」は、検問器に触れた瞬間に警報が鳴り、公文書偽造の罪で即刻「詰み」となるリスクが98%です。
「……ですよねー。知ってた。異世界のセキュリティ、意外とガチだわ」
やっぱり、力押しやズルは禁物のようだ。
ヘルパーさんの解説によると、身分証を発行するには、正式にギルドの窓口へ行き、能力測定や登録料の支払いといった正規のステップを踏む必要があるらしい。
【提案】
マスターの現在の魔力保有量および精密制御能力は、本都市の「Bランク」相当に該当すると推測されます。
正攻法での登録を推奨します。なお、登録料として大銅貨5枚が必要です。
現在の所持金:0円(0ルグ)。
「うっ、正論が痛い。しかも一文無し。……あれ、さっき門番さんにサービスしてもらったのは、あくまで『入国』だけだったんだね」
文字は読める。力はある。見た目も(変身のおかげで)整っている。
でも、圧倒的に「金」がない。
(……待てよ。お金がないなら、作ればいいじゃない。魔力から服を作ったあの要領で、金貨とか銀貨とか……って、これも偽造通貨で捕まるやつだよね)
【補足】
通貨の偽造は、身分証の偽造よりも重罪です。
代わりに、ノースフォレストから持ち出した**「魔力を帯びた小石」や、道中で狩った獲物の「素材」**を売却することで、初期費用を調達できる可能性があります。
「なるほど。錬金術師っぽく素材売りからスタートってわけね。……ふふん、それなら得意分野だよ!」
【リバティ公国の貨幣価値】
貨幣の種類 円での価値(約)
鉄貨 10円
大鉄貨 100円
銅貨 1,000円
大銅貨 10,000円
銀貨 50,000円
金貨 100,000円
白銀貨 1,000,000円




