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轢かれて死んで来世は楽しむぞ!と思ったらただの狐だった。 ep.10

北極圏の地獄を抜けた先に広がっていたのは、まさに「食の楽園」だった。


『……え、ちょっと待って。夢じゃないよね?』


目の前には、たわわに実った名前も知らない果実。そして、空を優雅に舞い、枝で羽を休める鳥たちの姿。ノースフォレストでは「動くもの=私を殺しに来る魔物」だったのに、ここには確かな「生命の営み」がある。


(これだよ、これ! 私が求めていたイージーモード・ライフ!)


まずは、目の前の低い枝に垂れ下がっている、オレンジ色の果実に狙いを定めた。


【サン・シトラス】

温暖な地域に自生する果実。ビタミンが豊富で、肉体の疲労回復に特化した効果がある。

※酸味が強いため、空腹時に食べ過ぎると胃が荒れる可能性がある。


『ヘルパーさん、相変わらず一言多いけど助かる! いただきまーす!』


パクり、と食らいつく。

口の中に弾ける強烈な酸味と、それを追いかける爽やかな甘み。ノースフォレストのベリーも美味しかったけれど、この「太陽を浴びた味」は格別だ。


『ふにゃああ……美味しい……。生きててよかった……』


果実を堪能していると、ふと茂みの奥でカサリと音がした。

条件反射で「風の刃」を構えかけたけれど、そこにいたのは凶悪な狼ではなく、ふっくらとした野鳥だった。


(……鳥。そういえば私、今は狐なんだよね。……やるか)


野生の血が騒ぐ。

十数日の特訓で鍛えたのは魔法だけじゃない。私の体そのものが、音もなく獲物に忍び寄る「捕食者」としての動きを覚えていた。


私は姿勢を低くし、一歩ずつ、落ち葉の音さえ立てずに距離を詰める。

そして、鳥が羽繕いをした一瞬の隙――。


――シュッ!!


魔法ではない。純粋な身体能力による跳躍。

気づいた時には、私の口元には確かな獲物の重みがあった。


『……とった! 私、普通に狩りできてる!』


木の実だけでなく、新鮮なタンパク質まで。

綺麗な水が流れる小川も見つけたし、魔力濃度も以前の場所とは比べ物にならないほど濃い。深呼吸をするだけで、空っぽに近かった魔力タンクに、心地よいエネルギーがじわじわと溜まっていくのがわかる。


『ここなら、数日いれば魔力も満タンにできるかもしれない。……あぁ、なんて平和なんだろう』


木漏れ日の下、獲物と果実を並べて、私は久しぶりに心の底からリラックスした。

鳥の肉を目の前にして、私の脳内は一つの欲望に支配された。


『焼肉。……焼肉が食べたい。じゅうじゅう焼いて、香ばしい匂いのするやつを……!』


前世では当たり前だった「火を通した料理」。一度思い出すと、生肉をそのまま食べるのが急に野蛮な気がしてきた。幸い、今の私は魔法が使える。でも、昨日まで「風」と「氷」ばっかり練習してたから、火の出し方がわからない。


『えーっと、火ってどういう仕組みだっけ? 酸化反応? 燃焼の三要素は、可燃物、酸素、あと……点火エネルギー!』


理科の授業を必死に思い出す。

でも、魔法はイメージだ。科学的な理屈よりも、「どういう現象か」を直感的に捉える方がいいはず。


『風は空気を動かすイメージ。氷は冷やして固めるイメージ。じゃあ火は……「分子の振動」? いや、難しく考えすぎかな。もっとこう、**「摩擦」とか、「熱エネルギーの爆発」**的な……!』


私は地面に落ちている乾いた枝を積み上げ、そこに右前足をかざした。


『熱くなれ。激しく、狂ったように、粒子がぶつかり合う感じ。電子レンジみたいに中から熱を……いや、それだと枝が爆発するかも? 集中しろ、一点に熱を凝縮させるんだ!』


ジジ……ッ。


(そう、それ! もっと激しく! 摩擦熱を限界まで高めて、そこに「酸素」を送り込む!)


――ボッ!!


「うわっ!?」


勢いよく火が上がった。

一瞬、毛先に燃え移りそうになって慌てて飛び退く。


『で、できた……! 火だ! 私、火も出せるじゃん!』


魔法に属性なんてない。イメージさえできれば、風も氷も、そして火だって自由自在。やっぱりあの「属性分類」を信じてる人間たちは損をしてるよ。


私は早速、捕まえた鳥をちょっと残酷だけど捌いて、枝に刺して火に翳した。


パチパチ……じゅうぅぅ……


『……あぁ、これだよ。この音、この匂い!』


香ばしい、肉の焼ける匂いが鼻をくすぐる。脂が火に落ちて弾けるたびに、私の期待値はMAXまで跳ね上がった。味付けは……残念ながら塩もタレもないけど、今の私にはこの「焼きたて」というだけで最高のスパイスだ。


アツアツの肉にかぶりつく。


『……んんんんんっ! 美味いっ!!』


外はカリッと、中はジューシー。生肉とは比べ物にならない旨味の暴力。

温かい食べ物が、こんなにも心を豊かにしてくれるなんて。


『……ふぅ。お腹いっぱい、胸いっぱい。……さて』


焚き火のパチパキという音を聞きながら、私はふと考えた。

火を使えるようになったということは、夜の明かりも、暖も取れるということだ。


(……これで生活レベルが一段階上がったね。次は……やっぱり、この肉に合う「塩」とか、調味料が欲しくなるなぁ)


文明への渇望が、少しずつ私の中で芽生え始めていた。

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