轢かれて死んで来世は楽しむぞ!と思ったらただの狐だった。 ep.9
……なんて、かっこよく決めてみたけれど、実はこの練習中に、前方不注意で氷の塊にツッコミそうになったのは内緒だ。
あまりの風圧で目が開けられず、涙目で前が見えないまま時速百キロオーバー。危うく「転生二週間、自爆で完結」という伝説(失笑モノ)を作るところだった。
『一日中、目が痛くて樹洞でうずくまってたなんて……誰にも言わない。絶対に』
そんな「黒歴史」を糧にして編み出した気流バリアも絶好調。
風を切り裂き、雪原を跳ねるように進むこと、およそ一時間。
『……え?』
視界の端に、違和感を覚えた。
地平線の向こう、永遠に続くと思っていた「白」が、少しずつ混じり始めている。
最初は土の色、次に枯れ草の茶色。そして――。
『緑……。緑が見えるっ!!』
そこには、針葉樹の深い緑が、雪を被りながらも力強く息づく森が広がっていた。
あの殺人的な寒風も、いつの間にか、頬をなでる程度の冷たさに変わっている。
私は少しずつ加速を緩め、柔らかな土の感触を確かめるように着地した。
『あはは……! ついに、ついに抜けたんだ、あの極寒の地を!』
一時間で数百キロ。
私の反発加速は、想像を絶する距離を稼いでいたらしい。
ここから先は、もうあんな命がけの爆走をしなくても良さそうだ。
私は立ち止まり、深く、深く息を吸い込んだ。
肺を満たすのは、凍てつく冷気ではなく、土と、草と、生命の匂い。
『……ここなら、ベリー以外にも食べ物がありそう。魔力だって、あの森に比べればずっと濃い気がする』
足元を見ると、雪はもう、うっすらと地面を覆う程度だ。
私は一歩、また一歩と、自分の足で大地を踏みしめて歩き出す。
『よし。ここからは徒歩でゆっくり、人間の気配を探してみようかな』
昨日までの必死なサバイバルとは違う。
私は、ようやくこの世界の「入り口」に立ったのだ。
しっぽを上機嫌に揺らしながら、私は緑の混じる新たな領域へと足を進めた。




