(a-006)
よろしくお願いします。
「辛くない?」
「…」
「そっか」散歩と表現したが怪我をして欲しくなかったので背負って移動をしていた。
返答が首を縦か横に振るか顔をこちらに向けるかの三択なので、会話どころか意思疎通すら満足に出来ているか怪しいものの暴れたりせずに身を委ねてくれているという事は少なくとも敵意は無いのだろう。
対招来者言語使用資格はとっているのに念の為と言って言葉を交えた会話を禁止していなくても、結果が変わる筈はないと解っていても、関連性のない要因を作っていけば目を反らして平穏を保てると知っているから先延ばしを選択している現状は俯瞰しているつもりではある。
矛盾しているが自分が今現在外出すればある特定の人物群に殺害される可能性を考慮しなかったのは上記した理由があるからだ。
「…」その存在は住宅地のブロック塀と、その奥から食み出す様に植わう木の枝葉の陰になっている所に居た。表情は見えない。背丈は彼と同じくらいで黒いワンピースとパンプスを着用している。
背負う形で移動していた事に安心した。前抱きにしていたら裂かれていたのは私の胸部ではなく彼の全身だっただろうからだ。
彼が覚醒した際に警告として外界の生物が害を加えると言ったが、それは招来者に限った事ではない。強盗や殺人といった犯罪類の他にも事故として捕食本能を制御しきれなかった者が襲ってくるという場合も可能性として十分あり得る。本命はどちらかと言えば後者だったのだけれど、彼女が来ない限りは問題ないだろう。
骨まで達してはいないだろうが、肉は抉られているのは血液の噴出と臓物の漏出で理解出来た。膝をついた後に腕の力が入らなくなった事は僥倖だった。後ろから後退る足音が聞こえたからだ。泥を混ぜ込んでいる様な音がしているのでその方向に視点を移動させると胃の辺りを啄んでいる彼女の頭が揺れていた。
傷が癒える所から口に運んでいるので血溜まりが近くの塀に達している。山中とか、場所は選んだほうが良かったかも知れない。急所は脳だと伝えようと口を開いたが、攻撃と判断されたのか喉笛を千切られてしまった。痛覚は快楽に変換されるので体が動かし辛い。急所を指し示そうと腕を動かそうとした所髪ごと掴まれ、アスファルトに向けて振り下ろされた。持ち上げ、再度。五回程で暗転した後景色が自宅の寝室に戻っていたので舌打ちした。
「体調、どう?」
私を横目に持っていたレジ袋を机に置き、体を起こそうとした私を安静にするよう制した彼女は『 』という。私の知人には珍しい明るく社交的な性格で、派手好きな趣向は染めつつ短く切り揃えた金髪と露出度を高く着こなした制服、両方に複数開けたピアスが示している通りだ。
「少し。あ、ありがと。自由にしててだいじょぶだよ」彼女の後ろで所在なさげにしていた彼に一言いうと、もう一度頷いてリビングの観ていたテレビの前に戻っていった。
「その子は?」
「少し前から飼ってるの」
「そっか」
「…」
「迂闊だった、でいいの?」
「合ってる」
「……ごめん、疑った。最近になって観察期間が増えてきたから若しかしたらと」
「浸食は進行しているけれど、お薬貰ってちゃんと服用もしてるから。有難う」
「どうする?やっぱり、引越しする?」
「追跡されないって話だったけれどね」
「そっか、被害範囲が拡張されるだけか」
「元を絶たないと、なんだけれどね」
「やっぱり、行かないといけない?」
「今の所接触できる手掛りがあの子しかいないから。……じゃあ、頑張るか」
「頑張ろっか」
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