深淵は口の中で
頭上で凄まじい音が鳴り響く。
「何の音だ?!」
「...やばいかもしれないね...」
見上げると大きな黒い生き物が赤い目を光らせていた
それは軽々と俺の働いていた巨大な工事現場を気にもせず崩し歩いていた。
「あれはなんだ?!」
「あれは...第一帝が持つハイファラス」
「ハイファラス?!」
彼女はそれを見続けたまま何かを悟ったように話の続きを語りだす。
「人工生命体とプラット9の技術を合わせた戦闘機だよ。あれを僕だけのために使うなんて...」
それの赤い目は俺たちを捉えたかのように近づいてくる。
「まずい!!」
「えっ」
彼女は壁に捕まっていた手を離し、空中に身を委ねる。俺達の体はますます深淵に吸い込まれていく。
赤い目が遠ざかり、今度は渓谷の口へと流されて行っている俺の体は抗えずただ目を瞑るほかなかった。
水の音が耳元で聞こえ意識を取り戻す。
「目覚めたかい?」
「...おかげさまで最高の目覚めだよ」
「助けてあげたのは私だぞ?♡」
どうやら渓谷の最下層までついたようで、薄気味悪い湿度に暗闇が広がっていた。ほんの月明かりだけが頼りのここは周りに何があるか分からない。
「...親父が危ない!」
そうだ。さっき親父が働いている場所を壊されていたのだ。大丈夫だろうか。
「今更行っても無駄じゃないかな?」
頭に血が上る
「...どういうことだよ」
「あれの前じゃ勝つ術なんてないよ。僕達はただ息を潜めた方が賢いね」
「見殺しにしろっていうのか?」
「親子の墓を建てるのは勘弁なんでね」
だめだ。こんなところで感情を揺さぶられている暇はない。どうにかして一人の力でも上がらないと。
「危ないよ?そんな奥にいっちゃ」
俺は彼女の助言を無視してどんどん突き進む。
「おーい。明かりがないのに大丈夫かい?」
確かに何にも見えない。だが前に進むしかなかった。
何かにいきなりぶつかる。もう少しずれていたら棘のようなものに刺さっていたかもしれない。
「何か見つけたのかい?」
「うるさい」
「はぁ。まぁ、僕に任せてよ」
彼女はポケットから小さな月を出して歩き寄せてくる
そしてそれは俺の前の恐ろしい壁を照らした。
「これは...」
「...この星の戦争の歴史だろうね。」
「描かれてるこれって...」
「血だろうね」
「そうじゃなくて、これってもしかして」
俺は一つだけ大きく描かれた物体を指さす
「ハイファラスをこの星は持っていたのか」




