第6話、野球部
裕也との熱い勧誘に押された俺は野球部 つまりグラウンドソフトボール部に入部することになった
6月 大会まで1ヶ月となった そんな時期に俺が入部して通用するのか?
「まぁボールは大きいし簡単そうだな」
そう思いながらも初日の練習に挑むのであった
「おーいここだぞー」
裕也が声をかけると俺はそこらへんに向かう
正式にはグラウンドソフトボールだがわかりやすいように次から野球部と表記する
野球部は俺を含め部員が10人とギリギリ飲みやすい人数だがここ近年で一番強いチームだ
夕月先輩ともう一人の3年生である野球部の部長、山田太郎をはじめ高等部から続けてきた経験豊富な専攻科の先輩、中学部から野球部に在籍していた裕也とここ数年でも最強といえた
俺はまだ右も左もわからないのでとりあえず同級生である裕也のもとについていく
「とりあえずキャッチボールからしてみるか」
裕也がまずは優しいボールを俺に投げかけた
「お!意外に硬いんだな」
グラウンドソフトボールのボールはいわゆるバスケットボールのような大きさでそこにソフトボールの縫い目がある感じだ
ボールは大きくて見やすいが当たるとめちゃくちゃ痛そうだ
裕也と一通りキャッチボールをしたところで裕也が話す
「いいぞ!うまいぞ!バッティングもしてみるか」
「まぁ卓球よりは簡単そうだな」
言われるがままバッティングへと移る
ピッチャーは3年生の山田先輩だ
(アイシェードをした状態で本当に真ん中に投げられるのか?と思ってしまう)
俺は今はアイマスク無しの状態なのですぐにわかる
俺はバットを持ってバッターボックスに立つ
山田先輩が大きく振りかぶって玉を転がす
「ドーン!ストライク!」
「え~~めちゃくちゃ速い」
「ボールを転がしているのになんであんなに速いんだ」
ストライク!
あっという間に追い込まれる
いや俺も今は目がよく見えるんだ!当てるくらいなら
山田先輩が大きく振りかぶって投げる
「よし!いける!」
シャルシュル
急にボールが外側に曲がりだす
「え?なんだこれは!」
俺のバットが空をきった
遊撃手である裕也が話し出す
「今山田先輩が投げたのはカーブだよ」
「カーブ?」
「手のひらを外側にこめることで回転してボールが曲がるんだ」
「強い!こんなの打てるわけない」
俺はあっけなくっ三振になってしまった
「まだ最初だから仕方ないよ」
「これ裕也も打てるのか?」
「あぁ、いいときの山田先輩のカーブは難しいけど打てる 他の専攻科の人たちはまず打てないな」
練習するにつれてボールも余裕で打てるようになった
だが改めて目隠しをした状態でストライク投げれる山田先輩はすごいと思った
「おいおい!お前もやるんだぞ?」
「え?マジ?」
「言ったろお前は中レフトだってな」
中レフトはアイシェード、つまり目隠しをして守備を行う
「まじかよ!絶対無理だわ」
「とりあえずやってみようぜ」
俺はアイシェードを付けて守備ポジションに向かう
アイシェードヲしているため全く見えない
「こんなんでボールがつかめるのかよ」
「パンパンパンパン」
前から手拍子が聴こえてきた
「おーい!聞こえてるかぁー」
「あーはい!
前から聞こえてきたのは専攻科の渡辺さんだ
「この手拍子で前を把握してサードとの距離を保つんだ」
普段は絶対にないポジションである中レフトはサードとレフトの間のポジションだ
そのため双方の距離感がとても重要になってくるのだ
「よし!次は中レフトのノック行くぞー」
俺の出番きた。めちゃくちゃ緊張している
パンというバット音から放たれたボールが徐々に近づくのがよくわかる
サード「右!」
「え?右?」
シュルシュル
あっという間にボールが通り過ぎる
「次は左ー右ー」
何度も大きな声で合図してくれるが全くわからない
これが真っ暗な世界なのかなにもできない俺に愛想が尽きる
「最後の行くぞ!」
バットの音、ボールの転がる音、次は右だ (よし!右に思いっきり飛び込む)
するとボールが手のひらに触った感触があった
勢いでボールを弾いてしまったがその感触は残りボールの音が鮮明に響く
俺はボールの鳴る方へ走った
「ノープレイだ!」
裕也の声が俺には届いておらず一心不乱にボールを追いかけた
あわてて先生が俺を受け止めた
アイシェードを外すと目の前には鉄格子の柵が目の前に立ちふさがっていた
「何やってんだもう少しでケガするところだったんだぞ!」
今まであんなに遠かった鉄格子が目の前にある もしそのままぶつかってしまったら取り返しのつかないことになってしまっただろうか
そんな恐怖が頭から離れなかった
目が見えないということは自分の空間に入ってしまったらどうすることもできない
俺はしばらくの間 澄明な大空をぼーっと立ち尽くすしかできなかった
しばらくして気持ちを取り戻した俺は裕也とともにベンチで座っていた
「すまなかったな、まだ言ってなくて」
ノープレイはこれ以上進むなという合図だ
ファールボールの奥にあり全盲者がケガをしないように作られた危険ゾーンというわけだ
「野球嫌いになったか?」
裕也が問いかける
裕也「スポーツっていうのはそういうもんなんだ、なんだって危険なときと楽しみがある
それは野球にかかわらずどんなスポーツにだって言えることだ」
俺はその2つの陰陽を噛み締めながら真剣に野球を取り組むことを決めたのであった