お転婆令嬢の日常
久びりの投稿です。
私はタナー侯爵家で使用人をしているサラといいます。私はご令嬢の乳兄弟をしております。
お坊ちゃまは……いけないピエトロ様は世界一格好いいと私は思うのです。
剣術の腕も一流です。欠点あるのかなぁ?寝起きに寝ぐせ?あ、これは口が滑った。
ステファニーお嬢様は、そりゃあ美しいですよ?
容姿は世界一です。でも、性格に問題がありました。
遡る事それはお嬢様が10才になる頃でしたでしょうか?
良家の子女というものは淑女教育に余念がなかったでしょうね。ああ、遠い眼をしてしまいます。
ステファニーお嬢様ときたら、自分のことを「ステフと呼んで」と私に言いました。
さらに、ええさらに加えて、もともとお転婆でしたが、剣術をしたいと言い出す始末…
旦那様は「護衛にかかる予算が減るなぁ。はっはっはっ」とか笑っていましたけど、笑い事じゃありませんよ。良家の子女が剣術などもってのほか!奥様はもちろん反対……しなかったんですよね……。
「それなら、剣術をするときは我が家の家宝のこのブレスレットをしなさい。性別が変わるから。着てる服も同時に変わる優れものよ?」とお嬢様に渡しました。
……そういうわけで、ピエトロ様と言うのはステフお嬢様のもう一つの姿です。
さらに領地経営の勉強などの勉学にも手を出しました。領地経営については、旦那様曰く「いやぁ、ステフのおかげで仕事が捗って助かる。領民も喜ぶ」
……奥様はもう何も仰らなくなりました。
お嬢様は放っておけば見目麗しい女性で、引く手が数多であろうと私は思うのです。でも、本人に全くその気もなく、デビュタントもしてないような?です。興味がないようです。
もちろん侯爵家の令嬢ですから、毎日のように釣り書きは送ってきますが碌に目を通しません。
まぁ、そうですよね。男性化をしたご自分の方が見た目がよく、剣術の腕もよいのですから。
そんなお嬢様たち(?)も貴族学園に入学する年齢になりました。
私も侍女としてついて行く所存です。
入学試験で首席だったようで、ピエトロ様が新入学生の挨拶をするようです。
「今年度より入学することになりましたタナー侯爵家長男のピエトロと申します。俺、ゴホっ……僕の妹ステファニーは病弱でなかなか学園に来れないようですが、来た際には仲良くしていただきたいものです」
などと言っていました。どうやら、兄妹設定のようです。ステフ様は病弱らしいです。今まで風邪の一つもひいたことがないんですけどね!
試験……どうやって受けたのか不思議です。ピエトロ様としても受験し、ステフ様としても受験。どうやったのだろう?
そんなことはステフ様には些事なのでしょうか?後でみっちりお聞きしましょう。
ピエトロ様の演説(?)で、子女はうっとりと目が♡になっていました。まぁ、ピエトロ様の容姿と学力、加えて『侯爵家の長男』というところに惹かれたのだろう。
一方、子息様たちは一瞬殺気が出ましたが(ステフ様にはわかりますよ?)妹も入学してくるという情報で、期待をしているようです。
……超がつくお転婆で知識大好きの容姿の良いステフ様でよろしければですけども。剣術、あなた方よりも強いですよ?
最近は騎士団に混ざって訓練をしているようです。
剣術だけは、騎士副団長直々に指南していただいているようです。他の騎士の方では相手にならなくなりました。騎士団長様からは騎士団にスカウトされています。……無理です、申し訳ございません。
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「ステフ様、入学試験はどのようにしたのですか?」
「あら、簡単よ。午前中はステフが試験を受けるの。午後からはピエトロが試験を受けるの。ね?簡単でしょ?」
私は頭を抱えてしまった。
「旦那様はステフ様がピエトロ様としても学園に通う事をお許しに?」
「いいんじゃない?うちは幸い侯爵家だし、学費に困ることはないでしょ」
私はため息を出す以外なかった。どうしてこんなふうに育ったんだろう?
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翌日より実際に登校し始めた。……ピエトロ様が。
早くも放課後
「ピエトロ様、私お菓子を作って参りましたの。是非食べていただきたくて……」
とりあえず、名前を名乗ろうか?まぁ、サラに探らせるけど?
「ありがとう。寮で大事に食べるよ。食事の量が足りなくてね」
……嘘も方便とはよく言ったもの。良家の子女って厨房に入るか?このお菓子が不審なんだよね。
「サラ、寮にこれを持って行ってくれる?」
「お待ちください!ピエトロ様!私は早く菓子を食べて頂きたいのです」
「えー、今はそんなにお腹減ってないし。せっかくだから味わいたいんだよね。それとも、‘今すぐ’じゃないといけない理由があるの?」
「……」
あるのか……。この令嬢は入学1日で退学だな。多分、この菓子には毒でも入っているんだろう。
「そういうわけで、寮に持って帰るね。あ、これから騎士団に呼ばれてるんだ。行かなきゃ。遅れたら罰がキツイんだよね」
俺は自分の腹筋を見せた。失神する令嬢が現れるなど騒然となった。
「サラ、そんなに俺の腹筋は見苦しいのか?」
「逆です。見事に腹筋が割れてます。一般的に美しいと言われる類の腹筋でしょう」
「そうだろうな、騎士団で日々しごかれてるから」
「ピエトロ様、お嬢様としても生活してくださいね!」
「はぁ、わかったよ。俺はこっちの方が生活しやすいんだけどなぁ」
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騎士団にて
「ピエトロ!遅いんじゃないか?競技場のまわり10周ダッシュだな」
「いつもいつも言いがかりですよ、マークさん」
「ん?お前、何で男のくせにブレスレットなんかつけてるんだ?
「あ、これは……」
マークさん、鬼の首取ったみたいな顔してる。正直見苦しいな。
「曾祖母の遺品です」
俺は、俯き加減伏目がちで言ってみた。効果は覿面だったようだ。
「あー、なんか悪かった。『ブレスレットなんか』じゃないよな?悪い」
二度も謝罪を受けることになってしまった。
「入り口で何だ、騒々しい。ん?ピエトロ、ブレスレットつけてるのか?色気づきやがって。まぁ、それはそうと、手首をガードするのは実践では守備になるからな。それに……みたところ金銭的価値は特にないだろう?手首に重りをつけて日々訓練をしてると思えばまぁいい。それより今日の訓練だ!」
「「はい」」
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「お嬢様……曾祖母の遺品とはまた激しく嘘をお吐きになって……」
「もう、サラは細かいなぁ。いいじゃない。これで追及されないんだから」
「まぁそうですけど、嘘はいけませんよ」
「正直に『これで性別を取り換えていますー』って言うわけにいかないでしょ?」
「そうなんですけど……」
……腑に落ちない。
あ、今は女子寮の中なのでお嬢様はステフ様です。
二人は同一人物なんですけどね。
「あ、それと。みだりに体を晒すようなことはどうかと思います。周りのお嬢様方も失神していたりしましたし。第一女性ならば、肌を露出するなど……考えただけで淑女の振る舞いではありません」
「あー、それなんだけど。私の腹筋はそんなに見苦しかったかなぁ?失神をするほど……」
お嬢様はこれだからいけないのです。
ご自分の体に無頓着なのです!どんなに魅力的なのかを理解していないようなのです。魅力的だから騎士団の輩に今回はからまれ、そのうち彼らの新しい扉を開けてしまうのではないのでしょうか?私は心配です。
「いいえぇお嬢様完璧です。しかしながら、振る舞いは淑女としてはいけませんね」
「ピエトロの時だったもん」
と、お嬢様は若干頬を膨らませて言いますが、その仕草も愛らしく私の新しい扉が開きそうです。危ない危ない。侍女として自重しなくては。そしてお諫めするのが私の役目!
「今後はお気をつけあそばせ。ステフ様が登校する時にピエトロ様はどうするのですか?騎士団も欠席ですよ?無断欠席になるのでは?」
「そこはほら、私が一言「兄は体調が優れないようで、今日は学園を欠席していますの」と言えば騎士団の方も許してくれるんじゃないかなぁ?」
「そうでしょうか?」
そうでしょうね。お嬢様が心配そうな顔をして言えば大抵の殿方は納得をするでしょうね。
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お嬢様は初登校です。
いいのでしょうか?…そこは貴族だからいいのでしょう。私は中級もしくは下級の出身なので出席日数とか地味な事を気にしてしまうのですが、お嬢様は肝が据わっているというか、なんというか……。
私がアドバイスしたようにお嬢様は騎士団で「兄は体調が優れないようで……」とおっしゃいまいた。
そこまで効果覿面とは思っていなかったのですが、普段は陛下に捧げる剣一筋!みたいな脳筋…失礼非常に体格の良い方までもがお嬢様の一言で腰砕けになったようで。「あ、いいよ~」などと軽く言っているのです。
そこは野生の勘というのでしょうか?…を働かせてお嬢様とピエトロ様が同一人物であることを追及してほしいところだと思った次第です。
お嬢様が何やら私に耳打ちをしてきます。
「ねぇ、普段一緒に訓練してる連中に甘くされるとこそばゆいというか、気持ち悪いというか……」
まぁそうでしょうね。
「お嬢様が選んだ道ですので、耐えて下さい」
としか私は言えません。他に何が言えましょう?
「あーあ、明日からまた病弱なステフになろうかな?」
「いけませんお嬢様!少なくとも2日間くらいは“お嬢様”として登校してください!なんだか怠け癖みたいですよ?」
「怠けてるわけじゃないんだけど……。剣を振りたいっていうか……」
そう言うお嬢様は素振りのアクションをする。誰も見ていないといいんですけど……。
「何奴?」
そう言ってお嬢様は石を投げた。もちろん小石ですよ?淑女らしからぬ言動ですので後で厳重注意です!
「「マーク!」様!」
はい。私達の会話が聞かれていたようです。
「どういうことだ?‘明日からまた病弱なステフになる’?素振りの仕草もこなれてるっていうか見慣れたピエトロのものだった……」
ひそひそとお嬢様が耳打ちしました。
「ねぇ、今なら頭を打ち付ければ記憶障害とかなってくれそうじゃない?」
「いけません!私利私欲のために他者を物理的に傷つけるのは!しかもなんて乱暴な!!」
あきれてものも言えないとはこの状態を言うのではないのでしょうか?お嬢様を止めるためにいろいろいいましたけど!
「で、どういうことか説明してくれるか?」
「お嬢様、仕方ありませんね。マーク様にだけお伝えしましょうか?」
「うーん、仕方ないのかぁ。マークは寮で暮らしてるの?」
「いや、実家がここから近いから実家住まいだよ」
「お嬢様、ひとまず侯爵家で話をするのがいいかと思います。失礼ですが、マーク様はどのような本名でいらっしゃるのですか?」
「うーん、それは侯爵家で話すよ」
庶民を侯爵家にあげるのは……という侍女心だったのですが、やむを得ません。
「では、今度の休日タナー侯爵家にて真実をお話しします」
そのようにマーク様には伝え、お嬢様には今度の休日まで……と言っても今日を含めて2日間ですが……ステフ様で過ごされるように伝えた。
お嬢様からは当然ボイコットのような……ことをされましたけど。
うーん、明日は学院を休んだ方がいいかもしれないですね。
猫をかぶりにかぶったお嬢様をこれ以上晒すのも……ですし。
*************
休日に私とお嬢様は久しぶりに侯爵家の門をくぐった。
「ただいまー」
「おかえり、元気だな我が娘よ。この時期に帰宅?なんかあったのか?」
「ただいま戻りました。旦那様、お嬢様が2重生活をしていることが一人の騎士にバレそうです(7割以上バレてると思うけど)。そこで、外では会話ができないので侯爵家の一間をお借りしたい次第です」
「騎士……男か……。当然ステフより強いんだろうな?」
「えー、だいたい五分五分かなぁ」
「お嬢様!お嬢様が騎士団で訓練している時です。実戦ではわかりかねます」
旦那様はお嬢様とマーク様の仲を気にしていらっしゃるようですけど、今回の目的は違うんですよ!2重生活がバレそうですって話をしに来たんですよ!
「だいたい、女が剣を振れないっておかしくない?体がうずうずしちゃって。大変だったんだ」
「大変だったね、我が美しい娘よ」
「旦那様、客人がいらっしゃいました」
あ、久しぶりに会った。執事さんだ。寮にはいなかったからなぁ…。
……でなくて!マーク様がいらっしゃったのね!
「お嬢様も出迎えをするのです」
「えー?マークだよ?いいじゃない、しなくても」
玄関の方から旦那様の声が聞こえてくる。
「スススススススステフ!早急に玄関にお出迎えを!あ、こちらに部屋を用意しております。おい!部屋の準備は万全なんだろうな?」
「はい、旦那様の言うとおりにしてあります」
「違う。我が家で一番豪奢な応接室……いや今の季節なら四阿がいいか?」
「お父様、大混乱ね。マーク、いらっしゃい」
「ステフー‼こちらはマーク=エル=ハイランド様だ‼ お前は馴れ馴れしい!」
遠くから旦那様の大声が聞こえました。
そうですか……あの方、マーク様は殿下でしたか。確か立太子されていたはず。騎士団でちょろちょろしていていいのでしょうか?
うちのお嬢様も似たようなものか、はぁ。
「四阿は整っていないな、えーと応接室にお通しして…。お前とマーク殿下とサラの会話に私も加わってもいいのか?」
「はい、どうぞ」
「お父様が返事をしなくても……。だってマークよ?」
「だってもへちまもあるかー‼ そうだ!うちの家内も同席させよう。殿下におかれましては多忙の中をわざわざご足労有難き――」
「マークよ?」
「はははっ。ステフは変わらないな。今はピエトロなのか?」
核心をつかれて困る。
「その辺は応接間で話すわよ。手が早い男は嫌われるわよ?」
「私には“殿下”というウリがあるからな」
*************
そして応接間にはマーク殿下と旦那様・奥様・お嬢様と私が揃いました。
「で、ステフ嬢はピエトロと同一人物ということでいいんだろうか?」
うぉう、殿下!切り口が鋭いです。
「それにしては、他人度が高いんだよなぁ……」
はぁ、どこから話せばいいのやら、旦那様も奥様も思案しているご様子。
「僭越ながら、私が説明させていただきます」
私が説明するしかないでしょう。
「えー、お嬢様は…ステフお嬢様ですよ?それは美しくお生まれになりました。しかしながら、剣術に興味を持たれて、しかも才覚を現したのです」
「ほぉ、確かにステフ嬢の剣の腕は強いからな」
殿下は感心しているようだけど、大丈夫かしら?
「因みに領地経営にも興味がおありで、領地経営もお上手です」
「へぇ、それは初耳」
だって、言ってないから。
「妙齢になりましても、婚姻に興味がなく、デビュタントもせずにいました」
「学園では病弱と言っていたようだしな」
それは真っ赤な嘘なんだけど。
「学園に入学するにあたってお嬢様は2つの人格をお創りになりました。一つはまぁステフお嬢様です。正式に作り出したのが、“ピエトロ”様です」
「ピエトロは完全に男性だったが?」
「それは奥様が学園に入学するにあたって渡されたブレスレットですね」
「あぁ、あれか!あれは‘曾祖母の形見’では?」
「あ、不敬にあたりますが嘘でございます。申し訳ございません!」
「いや、いいよ。事情が事情だし」
器が大きいなぁ。
「あのブレスレットは性別はもちろん着ているものも即座に変えることが出来る優れものなのです」
「ステフ、使ってみなさい。どうぞ、殿下お目汚しをお許しください」
ステフがブレスレットを嵌めるとちょっと光ってその場所にはピエトロが姿を現した。
殿下は茫然としている中言った。
「えーと、今はピエトロと呼んだ方がいいんだろうか?ステフ嬢と呼んだ方がいいんだろうか?」
混乱しているみたい。
「お嬢様、ブレスレットを外してください」
そして、ちょっと光ってその場所にステフが姿を現した。
「仕組みはわからないけど、そういうことだな」
「お嬢様は剣術をしてみたかったのです。自分と他者との交流。それはここではできないことですから。できることは、せいぜい素振り?」
「さすがサラね。わかってる!」
「今後はどうするつもりだ?侯爵家のお嬢様が騎士団で訓練をしているとなれば大変だろう?」
「それは貴方様も同じです。一国の皇太子様が騎士団で訓練というのは……」
「そうか……。私は息抜きのつもりだったんだけどなぁ」
「ねぇサラ、今後はどうすればいいと思う?」
出たー!私に丸投げ!
私だって考えるんですよ?なるべく早く答えを出すようにはしてるけど、それだって限界ってものが!!
「そうですね!お嬢様は残念ながら、学園を辞めてマーク様の護衛騎士をするというのはいかがでしょうか?護衛騎士の時はピエトロ様の格好です」
「さすが、サラ!頼りになる~!!」
頼られるのは侍女冥利に尽きますが、いつも丸投げされては困ります。
「うん、それがいいかも。ピエトロの剣の腕前は私が知ってるし。父上に言っておこう。侯爵家の人間というのもポイントになるだろう。…しかし父上には本当の事を言った方がいいな。でないと不敬罪になったら後が怖い」
不敬罪……恐ろしいですね。
「父上にはピエトロの推薦と一緒にステフ嬢の事実を伝えよう。一度父上との面談…面接というのか?があるやもしれないがそれは許して欲しい」
「「殿下の言葉には従います」」
「ちょっと!マークだってば!!」
「お前は馴れ馴れしい」
お嬢様はマーク様に実際馴れ馴れしいんですが、仕方ないですよね。共に騎士団で鍛えられた仲ですし。しかし親しき中にも礼儀あり!です。相手は一国の王子ですし。
「はははっ、ステフ嬢は相変わらずだなぁ。城の中でも私と二人の時はその調子で構わない。私も一人称は“俺”にする。…ん?“なる”かな?堅苦しいんだよな。城の中って。そういうわけで私は騎士団の中に紛れ込んだ。幸いにして“マーク”って名前も珍しいものではなかったしな。はははっ」
殿下は楽しそうだけど、侯爵家は大混乱ですよ?
「マーク、その面談?の時ってステフ?ピエトロ?」
「あとで城への招待状みたいのここに送るからそこに書いておく」
「了解」
もういっそのこと、お嬢様がこのまま王家に嫁いでしまわないかなぁ?と私は思ってしまうのです。
了
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