第七話 未来
勇気と結那の奇跡とも言える出会いから、三カ月ほどが経過していた。
「結那、今日のご飯は何がいい?」
「私はぁ…」
結那は口元に指をあて、うーんと考えている様子だ。
「ゆっくり考えていいからね」
「うーん…」
そうしていつも通りに勇気は、小説を描くためにパソコンへ向かう。
──。
「決めたっ!」
突然聞こえた大きめの声に、勇気は集中していたせいもあってビクリと体を震わせる。
「何がいい?」
「ハンバーグ!」
「おお、いいね。 外食…は無理だから、僕が作るよ」
「手作りハンバーグ…!」
いつになくワクワクした表情を浮かべている結那に、勇気はこれまで感じることの無かった和やかな気持ちで彼女のことを見つめていた。
「買い出しは一緒に行こうか」
「行こうっ!」
パソコンに向かっていた勇気は、自身の体を伸ばしつつ外出するための準備を整えていく。
「随分と楽しそうだね」
「うんっ!最近ずっと楽しいことばっかりだからね」
勇気は彼女と出会ってからの中でも、見たことが無いくらいに上機嫌な結那を見て、彷徨っていたころの彼女の面影を感じることも少なくなっていた。
「それはよかった…」
「勇気…?どうかしたの?」
「ん。何でもないよ」
近所のスーパーまでの道のりでも、勇気は結那のことばかりを考えている。
勇気の心配事はたった一つだった。
このまま、結那と一緒に居ることが出来るのだろうか。
出会った頃から感じていた。 結那の心残りが無くなってしまえば、彼女は自分の目の前から消えてしまうのではないか。 何かの拍子で成仏してしまうのではないかという不安が、楽しんでいる結那を見て日に日に大きくなっていくのを感じる。
勇気自身は、彼女に楽しんでもらいたいと思う反面、結那と一緒に居ることが出来なくなるかもしれないという間で、どう行動するのが正解か揺れていた。
「楽しみだなぁ。勇気はどんな味付けが好みなの?」
「そうだな、ハンバーグなら王道のソースの味付けも好みだが…、デミグラスやさっぱりとした和風のおろしソースも捨てがたい…」
「だよねぇ。今日はどれにするの?」
「結那は?結那の一番好きなやつにしよう」
「いいの?じゃあ、ケチャップとソースの甘めのやつで!」
「オーケー。それでいこう」
だが、勇気の性格やこれまでの結那との付き合いで、彼女に冷たく接することなんて到底出来るはずもなかった。
「勇気…?」
「うん?」
「やっぱり何か悩んでるよね」
「あー…。結那には隠し事は出来ないなぁ…」
「初めて会った時から、毎日見てるからね」
「それもそうだね…」
勇気は自分の悩みなんて見透かされていると理解すると、考えを結那へ打ち明けていく──。
「なるほど…確かに私が成仏してもおかしくない状況だよね…」
「そうだよなぁー」
『むむむぅ』といった表情で悩んでいる彼女を見ると、少なくとも今までの中で『彼女の未練』はこうした類の食欲や物欲ではないのだろうと理解できる。
「でも…」
「でも?」
「いつまでもこのまま二人でいることも難しいのかなって…」
「そうだね、私はいつ消えちゃうか分からないけど、今を楽しめているから…幽霊になっても、今の自分に後悔が無いように生きてみたいと思ってるよ」
「結那って、時々大人っぽいって言うか、僕の範疇を超えている考えを持っている時があるよね」
「そ、そうっ?ちょっと格好つけすぎかな…」
そう言いつつ照れている結那を見て勇気はクスリと笑う。
「ああー!また笑ってる!」
「ごめんごめん。出会った頃から色々な結那が見れて、沢山の表情を持っているんだなと思ってね」
「そ、そんなこと言っても許してあげないからっ!」
結那はそう言いつつ、パタパタッと走り出す。
少し離れたところで、こちらへ向き直すと──
「早く行こー!お腹すいちゃったー!」
「はいはい…」
夕日を背にしている笑顔は、照れているのか夕日のせいなのか赤みを帯びて、結那の魅力が最大に引き出されているからか勇気の胸を締め付けていく。
──。
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