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第二話 天地

 先ほど、お風呂の中で遭遇した恐らく幽霊であろう女性とお風呂から出て、改めて彼女のことをよく見るとかなりの美人だということが分かった。

 日本人らしい顔立ちだけども目鼻立ちは整っていて、肩甲骨あたりまで伸びている髪は淡い栗色に染まっていて、しっかりと手入れされていることが見ただけで理解できるほどだ。

 出会った時こそ人間には無い特徴が多く見られた彼女だが、それ以降は普通の人間と特に変わっている様子もなく、本当にそこに一人の女性がいるような感覚を勇気は感じている。


「それで…自分の名前とか分かる?」

「はい、私は結那です。時田結那」


「ときたゆいな…」

「……?」


 勇気はどこかで聞き覚えのあるような気もしたが、思い出すことは出来なかった。


「時田さんは…その、人間?」

「結那って呼んでください」


「わかった。結那さんだね」

「敬称も無くていいです」


「うーん…。じゃあ、結那も敬語無しね?」

「えっ…」


 勇気はしてやったりといった感じで、とても可愛い女性と一気に距離を近づけていく。


「それで、結那は何者?」

「分かりません…。でも、人間ではないのかも…」


 勇気は、さっき出会ったばかりの結那に感じていた違和感の正体を確認する。

 思った通りというか、やはり結那は人間ではないみたいだ。 俗に言う幽霊なのではないかと予想している。


「どうしてここに居るか分かる?」

「…落ち着く場所を探していて……?」


「なるほど、その途中で僕を見つけたと」

「うん…」


「そう言えば、どうして僕を見つけることが出来たの?透視も出来るとか?」

「あ、あれ…?どうしてだろう…。いつもはそんな感じではないはず…?透視できたこともない…」


「なるほどなるほど…」


 勇気は自分の気になっていることの多さを押し殺して、少しずつ結那のことを調べていく。

 結那自身も自分のことについて知らないことが多いみたいだ。


「その、落ち付く場所は長い間探してるの?」

「気付いた時からだから…一カ月くらいかな…」


「気付いた時って?」

「それより前のことが思い出せなくて…気付いた時には、今みたいになってたの」


「なるほど…」


 勇気は思案する。

 結那は最近に、今のような状況になったらしい。 そして彼女は『落ち着く場所を探して──』そう言っていた。 つまり、その期間彷徨い続けているのではないか…。


「もしかして、家とかも分からない感じ…?」

「うん…。ずっと彷徨ってて…」


「そっか…。せっかくだしここに居る?」

「いいの?私、多分幽霊だけど…」


「もちろんいいよ。僕も結那に興味があるから、他に行きたいところが出来るまでここに居るといいよ」

「興味…」


「そ、その…。僕は物語を作っているんだ。その取材と思ってもらえたら」

「なるほど!私みたいな特殊な状況の人は少ないよね」


 勇気は疑われそうな言動をしてしまい、慌てて大切な情報を付け加える。

 それに勇気は、幽霊とはいえ結那のことをこのまま放っておくことが出来なかった。


「えっと、勇気…は幽霊とか怖くないの…?」

「ん-…。ホラーは好きでも嫌いでもないなぁ。それに、こんなに可愛い幽霊なら僕は大歓迎かな」


「かわいい…」

「普通、よく聞く幽霊のイメージって、大抵の場合で美人に設定されてることが多いよね? だから、そんなに美人なら僕も会ってみたいって、ずっと思ってたんだ」


「だから私が見えても驚かなかったんだ…」

「いや、驚いたよ?体は光ってるし、いきなり目の前に居たし、可愛いし」


「また…」

「ん?」


 先ほどから結那は『可愛い』という言葉に反応しているようだ。

 照れているのか、嬉しいのか、まだ出会って数十分の勇気に、彼女が考えていることを予想するのは難しいらしい。


「他の人からは驚かれたりしたの?」

「そもそも見つかることも無かったから…」


「ん-…、何か分からないことばかりだね…」

「私も何が何だか…」


 二人は、お互いに自分たちの状況を理解出来なくなって笑い合った。


「とりあえず、これから?よろしくね」

「うん!よろしくおねがいします!」


 ──。


 それから一週間ほど経過した。


「ふむふむ」

「また何か分かったの?」


「うーん…そうだね…」

「また集中してる…」


 勇気はこの一週間、結那のことについていろいろと研究している。

 取材と称して、自分の聞きたいことや知りたいこと、可愛い彼女のことをいろいろと調べていた。

 一般的に見ると、犯罪にも捉えられそうな勇気の行動の結果はメモ帳にまとめられている──


 幽霊のこと

・壁を貫通できる

・物には触れられるものとそうでないものがある

・睡眠はとる

・少しの間なら浮遊できる

・記憶がかなり曖昧で、自分の名前くらいしか思い出せない

・憶測だが習慣や癖をもとに行動しているみたい

・食事は必要ない

・多少なりの人間と同じ感覚がある

・お風呂に入るのが好き(効果自体はない、気分がいいみたい?)

・彼女の性格や行動から、怨霊や呪いの類ではないと予想


 結那の性格的な部分は出来るだけ除外して、幽霊のことについてまとめられていて、一体何に使うのかといった感じだ。


 本来の勇気の性格であれば、女性相手にここまで積極的な行動を起こすことは出来ないだろう。

 社会人生活の中で、男女問わず人間関係というものに疲れてしまった勇気からすれば、会話や行動には男性以上に気を使う必要がある女性には、どこか苦手意識というものがあったからだ。


「ねぇ、結那…?」

「ん?どうかし──」


 勇気が結那に真剣な表情向けて何かを伝えようとした時に、大きなインターホンの音が鳴り響く。

 思わず飛び上がりそうになった勇気は、いつもの癖のように反射でリビングの入り口に設置されているモニターへと駆け寄る。


「はい」

「岸田様のお宅でしょうか?お荷物届いてます」


「すぐ出ます──」


 そのままの流れで、勇気は玄関へと向かい荷物を受け取る。


「何だろう…。何か頼んだ覚えはないんだけど…」

「…?」


 勇気の受け取った荷物は、ポストには入らないだろう少し大きめの封筒のようなものだった。

 勇気の行動を疑問に思っているのか、結那は首をかしげながら勇気の様子を窺っている。

 勇気は手早く荷物を開封していく。


「あ…」

「……?勇気…?」


 封筒の中から見えた紙を確認した勇気は、瞬く間に顔色が悪くなっていく。


「どうしたの…?」


 心配そうに彼の名前を呼ぶ結那の声は、勇気の耳には届いていないみたいだった。


「ゆ…うき…?」


 彼女の呼び止めは空を切り、受け取っていた荷物を床に落として勇気は寝室へと入って行く。

 結那は明らかにおかしい勇気の様子を見て、彼が落とした書類を確認することにした。


「これって…」


 ──。


ありがとうございます!

これからもよろしくお願いします!

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