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色命遊戯  作者: 虎龍凛
《黒紅》壱 ――朝早く、まだ暗い内から。
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《黒紅》序 - 漆

 泣き崩れる振りをする司書を無視し、黒紅は重い腰を上げて寝台から降りると、近くに備え付けてあった壁に設置されたベルを鳴らした。

 チリン、と涼やかな鈴の音が一つ。

 次いで「コンコンコン」と等間隔のノックが三回。


「どうぞ」


 黒紅が、扉の向こうに声を掛けると、音もなく一つの影が侵入してきた。司書とは正反対の黒を基調とした、質素なドレスを着た人型。頭部は黒のベールに覆われている為、表情は読めない。

 その「影」が大層大事そうに、絹織物一式が抱き抱えて黒紅へと近づく。


「あっ、着替えるのねん。じゃあ、お姉さんも手伝っちゃおうかしらん」

「出てってください」

「そうだぞ、出てけ」

「きみもだ」

「は? 此処、瑠璃の部屋――」


 何か続けて言おうとした瑠璃と「やだぁ~!」と文句を垂れる司書の背を押し、黒紅は二人を部屋から追い出す。その際、瑠璃が何かを言ったが無視をした。

 漸く元の静寂を取り戻した室内で、溜息がこだまする。小机に置かれた時計を見る。まだまだ時間には余裕があるが、また先程のような不測の事態がいつ訪れるのかわからない。さっさと着替えをすませ、自身の仕事場である「書物庫」へ向かうのが吉だ。


「すみませんが、お願いします」


 自身の言葉を合図に、「影」はいそいそと絹織物を広げていく。

 眼を閉じる。

 寝間着を脱がされる幽かな音が耳に入る。


『言い忘れていたが』

『見た目も好みじゃない』


 瑠璃が部屋から出ていく際、最後に言った言葉をふと思い出す。


「この場所で自分の姿が好きなヒトなんていないさ」


 自分がどのような見た目をしているのかなど、分からない。

 だから、いくら容姿をけなされようが心が揺れ動くことはない。その反対もそうだ。

 ポン、と肩を叩かれる。着替えが終わった、という合図だ。

 眼を開くと、もう「影」は音もなく自身の前から立ち去っていた。

 備え付けられた鏡を見る。

 視たくもないものが映る。

 直ぐに眼をそむける。

 この図書館で働く職員に鏡が好きな人間(ヒト)なんていないだろう。

 そして、黒紅は窓に眼を遣る。


「あれ、そういえば……今日はやけに水の色が――」


 黒紅色の瞳が、本質を見抜くかの様に、鈍くその色を輝かせた。

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