表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
色命遊戯  作者: 虎龍凛
《黒紅》壱 ――朝早く、まだ暗い内から。
2/36

《黒紅》序 - 壱

「ただ、そばにいて。ずっと生きていて欲しかった」


 誰かの押し殺した様な、溢れ出す感情を噛み殺す様な、そんな声。夢の様な、白昼夢のような。

 それは誰かが、震える声で発する――そう、泣きながら発せられた哀願だという事に、霞がかった黒紅の頭は漸く解を出す。

 このような夢幻は、よくみる。

 人間たちの記憶と記録を管理するこの場所で過ごしていると、よくみるのだ。人間を模した姿をしているからなのか。無防備な意識の中に、人間達の思念や何やらが日が落ちていくが如く、妙に気安く入り込んで仕方がない。

 冷気に体温を奪われないよう、もぞもぞと身を揺すりながら、寝台からずり落ち掛けている毛布を手繰り寄せる。気持ちは微睡の綿海の中、眉間に皺を寄せながらも頑なに、黒紅はその瞳を開こうとはしない。バタバタと彷徨う手だけが、静謐を極めた室内にて、ただ一つ騒々しい。

 暫くそうしている内に、一向に毛布を掴めない違和感に気づいたのか、「ん……」と、薄い唇から言葉が零れ落ちた。寝起き特有の掠れた声が、しんと静まり返った室内に木霊する。

 今しがたまで、はっきりと耳元で発せられたかに感じられた声は、ひんやりと冷え切った部屋の温度と共に、どこかへ霧散して、いつの間にやら消えてしまっていた。

 その頃にはもう、黒紅の脳裏からは、先程の声の事など綺麗に消え去っていた。

 ゆっくりと、思い瞼を持ち上げる。

 黒く丸い月。それを取り囲む、視界一面に広がる青紫の美しい景色が、寝ぼけた頭に響き渡る。それは、月の光に照らされた夜空や海の、上澄みだけを掬い取って閉じ込めたような色だった。無心で眺めていると、その静寂さに飲み込まれそうな錯覚が思わず生まれてしまう程、不可侵の色彩がそこにはあった。

 深く深く、静かな青紫。


「……ん?」


 しかし、黒紅は事の異常さに気づいて声を上げる。綺麗だなぁ、などというありふれた平坦な感想も、瞬時に消え失せる。

 何故、いつもの天井が視えないのか。

 黒紅の内心の揺らぎに反応したのか、視界の中心の黒が、カッと大きく花開いたように感じられた。


「見つけた」

「うっわ!」

「さっさと出てけ」


 それが瞳孔だと気づいたと同時に、至近距離から叱責が飛ぶ。


「ちょ、ちょっと待ってくれ! 誰! 誰なんだきみは!」


 この場所で身体が作られ、目醒めて、意識を持ち出してからは、もう随分と経った。そんな黒紅が、ここにきて初めて抱いた衝動。

 驚きすぎると、身体は動かなくなる。言葉だけが早足で駆けて行って、身体を動かそうとする気持ちを忘れ去ってゆく。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ