コードネームは『土曜日のひまわり』4402
「なろうラジオ大賞4」の企画参加作品です。全部盛り、のはず。
雑居ビルの裏で百円玉を拾おうとしたボクの頭に後ろから銃が突きつけられた。エージェントになっても貧乏性なところは治らないんだよね。小学生だから給料じゃなくお小遣いだし。だから千円増やしてって言ってるでしょ、所長ぁ!
スカートのひだに隠した四菱ハイユニに手を伸ばすも、撃鉄を起こす音にボクは動きを止める。
「仕込みえんぴつの居合よりこっちのほうが早いぜ。分かるか嬢ちゃん、チェックメイトってこった」
銃を持った若い男はあの国のスパイだろう。先日倒した『ひとり体育祭』の敵討ちかな?
「そういうことだ。あきらめな『土曜日のひまわり』。この『屋根裏デスメタル』からは絶対に逃れられない」
ここがボクの死に場所なのか。天才美少女剣士早乙女おとめ享年10才……くっ! 早い、早すぎるよスレッガーさん!
「ちょっとそこで何騒いでるの? コントのネタ合わせなら他でやってくれる?」
「えっ? ひ、ひらめきちゃん? なんでここに?」
ビルの中からボクらに声をかけてきたのは理系ガールズバンド『量子力学』のひらめきこと比良目量子さんだった。彼女の登場に男が慌てて銃を隠す。
「久々のおふだったからビリヤードに来てたのよ。あれ? 貴方どこかで……」
「は、はいっ! 会員ナンバー12番、剛猛です! あああのデビュー曲の『ミルキーランドセルフハッピー』の頃からずっとフアンでそのあの」
「えー本当に! ハグしてあげようか?」
「いいいえその……じゃあ握手で!」
「真っ赤になっちゃって! あ、サインしてあげようか? どこがいい」
「あっ、ちょうど『ポーカーフェイスの星座たち』のCD買ったばかりなんでこれにお願いします!」
「え、もう新譜買ってくれたの? マジでうれしー!」
「あっ、できれば宛名にモーちゃんへ、って書いてもらえると……」
有頂天になったままモーちゃんは帰っていった。後にはボクと量子さんが残った。
彼女はボクの憧れの人だ。それはアイドルというだけじゃなく。
「大丈夫だった? あんまり無茶したらだめよ、後輩クン。
ねーねー何か飲まない? 缶コーヒーぐらいならおごってあげるわよ」
言いながら量子さんが自販機の前に立つ。じゃあボクは「夏祭りすいかソーダ」で。
「あら? 趣味が合うわね。うれしいわ」
量子さんのもう一方の手には「ほうじ茶スカッシュ」が握られていた。
引退しても『激マズの挑戦者』は今だ健在なのだと知ってボクはうれしくなった。