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9話 ZUERST

前回までのあらすじ


保護された施設で夜を過ごす恒久、頭の中に今日迄の出来事が巡る。何故こうなってしまったのか、答えは出ない。 しかし、時任と日隠のお陰で日常の大切さを知る。


そして不知火は0組に新たな《QUEST》を全員に依頼するが……




「じゃ!そーゆー事で、ヨロシク! ワタシ、帰る。」

「あっ、松浦さん。私も……」


私は忙しい!全身から放たれる松浦彩花まつうらあやかのオーラに引かれるように増住香ますずみかおりが席を立つ。しかし教室からは出られない。


松浦のオーラは《忙しい》から《不機嫌》に変わり、冷たい視線と言葉が振り下ろされる。


「どいてよ。」


松浦のプレッシャーに眉1つ動かさず着席したまま「परिवर्तनパリバータン」教科書を朗読するように返す。声は2種類、男と女。能力は1種類、猛毒。


出入口を席で塞ぐのは前を砂月玲奈さづきれな【マウイイワスナギンチャク】マウイ島の近海に生息するサンゴの一種。パリトキシンという非常に強い毒を持ち、その毒性はフグの約60倍、青酸カリの約8000倍と言われるほど。この毒が体内に入ると、心臓と肺の血管などを急速に収縮させ、窒息させ死に追いやる。


後を野田誠一のだせいいち【モウドクフキヤガエル】世界で最も毒性の強い動物のうちの1つと考えられる。体長5センチほどの個体1匹で、10人の人間を死に至らしめるのに十分なバトラコトキシンという毒を持っている。バトラコトキシンが体内に入るとナトリウムチャネルが開放され筋肉を収縮させるため心臓発作を引き起こす。


生身では、触れただけで死に至る危険な存在が、そこに鎮座する。


松浦の視線は砂月と野田から教室へ。


松浦が帰ろうとする事は先刻承知済み。アメリカンフットボール部LBラインバッカー、ディフェンスの司令塔に抜かりは無い。


「ちょっと!何なの!」


視線を向けられた越猪崇おおいたかしの表情は真剣だ。


「ブリーフィングだ、相手が厄介すぎる。」

「あんた達だけでやってよ。」

「【グリア】に対しては共通認識が必要なんだ。」

「決まった事だけ教えてくれればそれでいいじゃない。」

「駄目だ!僕達が【विशेषビシェシュ】だからといって安心出来ない、油断出来ないんだ。彩花、君も危ないんだ。」

「崇、私は大丈夫。強いし、風紀委員なのよ。」

「分かってる、分かってるけど。お願いだ……」


越猪崇の瞳は澄んでいて、松浦彩花のターンは美しい。


「ありがとう。」

「香、席に戻りましょ。」


ー松浦さんドラマもいけるわー


ほうけている増住香の袖を引き八浪が座らせる。仕切り直す越猪崇の肩を指先で触れながら松浦は窓際の席へ戻った。


「さぁブリーフィングだ。陣内、どうかな?」

「不確定要素が多過ぎるから、言いづらいな。」



秋岡樹あきおかたつきが苛立つ。


「要するに、分からないって事だろ?」

「違うよ。答えが多過ぎるんだ。」

「1つに絞れなければ同じさ。」


「【グリア】を倒してベルトを奪う。馬鹿でも分かるぞ!」


八浪幸四郎やつなみこうしろうは単純だ、有働和也うどうかずやはこの声を聞くと疲れる、そして疑り深い。


「蜘蛛と蛇より強い【グリア】を生け捕り。駄目ならベルトだけでもよし、装着者の生死不問、おまけに【日隠あすか】誘拐。此等に対しては隠密行動を求めない。滅茶苦茶だ《QUEST》でも何でもない、まるで次に誰が動くか楽しんでいるようだ。そもそも、さっきの人は本当に【不知火さん】なのかい? 」


少し自信の無い越猪。視界を窓側に向けると松浦が黙って頷いてくれる。


「雰囲気は違ったけど、間違い無い。」


「【グリア】を早急に排除、それは納得出来るんだけどね。」


陣内は端末に送られてきた戦闘データを眺めている。稲葉と巻、共にボクシング部。蜘蛛と蛇は弱くない。何故負けたのか、何故正面からの殴り合いを挑んだのか。やはりそこに違和感を覚える。《本人以外の意志》【विशेषビシェシュ】であれば個人差はあれど持って当前なのだが……


「僕達0組の性能を整理しておこう。各自が勝手に行動するとお互いの目的を邪魔しかねない。」


背の低い陣内は椅子を引きずり黒板へ。


▶▶▶


越猪崇(おおいたかし)【犀】(シロサイ・硬い) 

✡破壊工作・防御力と突進力に優れる


松浦彩花(まつうらあやか)【極楽鳥】(フキナガシフウチョウ・飛行)

✡破壊工作・2本の飾り羽を操り、あらゆる物を切断



秋岡樹(あきおかたつき)【鷲】(イヌワシ・飛行・視力)

*索敵・追跡


荒牧陽祐あらまきようすけ【犬】(ボーダーコリー・嗅覚・走力)

*索敵・追跡 



柚留木美香ゆるぎみか【蛾】(ハチノスツヅリガ・聴力)

*索敵・盗聴


巻恵市まきけいいち【蛇】(ダイヤガラガラヘビ・熱感知・神経毒ファシキュリン)

*索敵・潜入

☆毒殺・絞殺


稲葉公太いなばこうた【蜘蛛】(カバキコマチグモ・神経毒モノアミン類)

☆血圧上昇〜死


八浪幸四郎やつなみこうしろう【蛸】(ヒョウモンダコ・擬態・神経毒テトロドトキシン)

☆呼吸停止、数分で死亡 


磯貝亮太いそがいりょうた【芋貝】(アンボイナガイ・神経毒ニルヴァーナカバル)

☆銛で一突き、麻痺〜即死


野田誠一のだせいいち【蛙】(モウドクフキヤガエル・神経毒バトラコトキシン)

☆心不全 数秒で即死


砂月玲奈さづきれな【菟葵】(マウイイワスナギンチャク・神経毒パリトキシン)

☆心不全 窒息死


増住香ますずみかおり【蠍】(インド赤サソリ・神経毒α-toxin)

☆心臓血管異常 呼吸麻痺


有働和也うどうかずや【茸】(タイワンアリタケ・中枢神経系寄生)

★菌糸による人体操作  

通常、大脳から小脳へ送られる信号を変換。

例)危険を感知すると向かって行くetc

1つの菌糸に1つのプログラム、胞子は10℃〜25℃で活発化・同プログラムで増殖。55℃以上で死滅 


陣内元じんないはじめ【蝿】(ツエツエ蠅・睡眠病)

★倦怠感〜睡眠障害〜昏睡

1匹で3人を睡眠病に感染させる人工蝿を5千操る。



恋塚涼子こいづかりょうこ【姫蜂】(ヒメバチ・捕食寄生)

*★宿主の頸椎に卵を産み付けるヒメバチをコントロール。

孵化、捕食寄生、増殖後、宿主を操る。通常、増殖後分散し新たな宿主を探す。

5日に1回しか卵を生成出来無い。

増殖はクローンなので5日で消滅、卵は産めない。

1cycleで平均1500〜1600人の被害・運動機能障害

卵の生成の段階で増殖後の展開を決めておく。


◀◀◀


恋塚が自身の性能を書き出されると、人差し指に前髪を巻き付けながら声を張る。


「私はテロ専門だから今回は活躍の場は無し。いつも通りの《QUEST》待ちね。」


ふてぶてしい態度で八浪が声を張る。


「俺にやらせろよ。」

「八浪ぃ〜、お前みたいな何も聞いてない考えてない奴がいて、話が長くなるって分かるから、松浦さんが帰りたがるんだよ!」

「いいんじゃない。」

「ほらみろ!いいんじゃな……い?!」


「八浪君が【グリア】と戦うのを主軸に考えるのも。」


松浦は帰りたい。どんな作戦を立てようと、不知火から目標の破壊率を100%まで許されたのであれば、刻んで終らせれば済むと思っているからだ。つまり、“いいんじゃない” は “どうでもいい” なのだ。


「ちょっと待ってくれ。それじゃあ、公太や巻と変わらないじゃないか。」


「一緒にするな。あいつ等は弱い、俺は負けない。」


「そういう問題じゃないだろ。ベルトの奪取が最優先、戦いは避けるべきなんだ。」


越猪は矛盾している。ベルトを奪いに行けば戦闘は避けられ無い。そう思うからこそ、不知火に破壊率を質問したのだ。破壊率は一応100%まで許された。いざとなれば松浦がいる。無駄な戦闘は避けたい。【グリア】を含め被害は最小限に留めたいのだ。だからこそ《ブリーフィング》にムキになっている。だが、まどろっこしい事が嫌いな八浪の導火線に火をつけてしまった。


席を立ち、越猪に近寄る八浪。八浪から視線を外さない越猪。


「戦いを避ける理由は何だ。」

「ハッキリとは言えないけど、嫌な予感がするんだ。」

「ビビってるだけじゃねぇか!」

「不用意な事はすべきじゃない!」

「急を要するんだろ?」

「何かが可怪しいんだ!」

「知るかよ!」


177cmの懐へ165cmが猫の様に潜り込みむと、俊敏な回転と腰の跳ね上げ、充分な引き込みの見事な《袖釣込腰》に越猪が宙を舞う。「परिवर्तनパリバータン」咄嗟に【अंडाアンダ】を掴んだ越猪が【犀】に姿を変える。


「お前に勝てなきゃ【グリア】にも勝てねぇか、परिवर्तनパリバータン


八浪が【蛸】に姿を変えると、聞き慣れない高音と同時に目の前の机が真っ二つに切断される。


「あんた達何がしたいの。」


【極楽鳥】の飾り羽


フキナガシフウチョウは頭に2本、触角のような長い飾り羽をもつ。その飾り羽は小さく連なり、万国旗のようでもある。

松浦のソレは触覚部分でも充分な殺傷力のある金属の鞭であり、尚且、羽は1枚1枚が高速振動しており、およそ切断出来ぬ物など無いに等しい。【विशेषビシェシュ】の装甲といえど、末路は机と同じである。


वापसीバップスィ


教室から数人の声。【極楽鳥】以外は人に戻った。


「崇、後で連絡ちょうだい。あたし、帰る。」


松浦は【極楽鳥】のまま窓から飛んで行ってしまった。


松浦を追いかけて増住が慌てて教室を出る。何も無かったかの様に砂月も席を立つ。


「誠一、行こか。」


磯貝が野田を誘い教室を出る。


「とりあえず《早いもの勝ち》かな。一応作戦は幾つか考えておくから、気になる人は言ってよ。」


「すまない」


陣内の提案に越猪が力無く応える。


「今日は部活の後に道場に行く《QUEST》は無しだ。俺は誰にも負けられない。悪いな。」


八浪も出て行った。


「らしくないな、越猪。」

「すまない。」


声をかけたのは荒牧。


「謝るなよ。皆の為だろ?だけど熱くなったら司令塔失格だぜ。」

「そうだよな。どうしても【グリア】に関しては引っかかるんだ、本当に、よく分からないけど。」

「それでも《QUEST》だろ?迷う必要は無い。」


彼等【विशेषビシェシュ】は、約束された未来と奪われた過去の為に現在を迷う暇は無い。荒牧の表情に曇りは無いが瞳にも光は無い。


「《早いもの勝ち》か、暫く様子見した方が良さそうだな。」

「助かる」

「何だよ、もっと嬉しそうにしろよ!俺が見張ってやるんだ、何も見逃さないさ!」


秋岡の表情は明るく爽やかで、頼もしい。



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