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6話 戦い:闘い=変容:変身

前回までのあらすじ


国立大学付属高校ボクシング部。練習中の巻恵市まきけいいち阿知輪晋也あちわしんやが訪れ、稲葉公太いなばこうたを病院送りにした【グリア】が不都合な存在であり、早々に排除すべきと語り巻に策を授ける。 


そんな事とは露とも知らず、那知恒久なちつねひさ時任咲也ときとうさくや日隠ひがくれあすか、の3人は普段と変わらずコンビニで談笑を楽しむ日々。


そして、恒久の日常は又しても奪われて……




ベルトを握りしめて走る那知恒久なちつねひさ


指定場所の小学校には、スポーツメーカーのフィットネススーツとヘアバンドの似合う男が1人。時任咲也ときとうさくや日隠ひがくれあすかの姿は見えない。


肩で息をしながらキョロキョロと辺りを見回し、2人の名を呼ぶ恒久に巻恵市まきけいいちは苛つきを覚える。


「なんだお前、【अंडाアンダ】はどーした。」


巻は面倒臭そうに持っている金属質なバックパックを見せ、恒久はベルトを上着で隠したまま応える。


「2人を返して下さい。」

「そーゆー訳にはいかねぇよ。」

「何でですか。2人は関係ないじゃないですか。」

「俺は“グリアを呼んで来い”って言ったの、聞こえてたろ?」

「呼んでどうするんですか。」

「消えて貰う。」

「何で、そんな」


行き場を失った感情が片方の目から流れ落ちる。巻は大きく溜め息をついて見せた。


「疲れんな、お前。お前が【グリア】なんだろ?」

「だからって、どぉして。」

「お前は、いちゃあいけねぇんだよ。」

「それはそっちじゃないですか、無闇矢鱈に人を襲って、そんなの!」

「俺達は国の認可受けてんだ、一般人に知られちゃいけねぇけどな。」

「国?何を言ってるんですか?」

「俺達に喧嘩売るって事はさぁ、国に喧嘩売るって事なのよ。」

「㈱Y.F creationのデータ盗んで人を傷付けて、死んだ人だっているのに、そんなの国が認める訳ないだろ! 」

「うぜーな、おめぇ、なんも知らねぇ癖に。誰に何吹き込まれてんだよ。」


あまりにも軽々しい口調で馬鹿にしたように否定をされる。経験のない感情は、理解の追いつかない理不尽の塊に喰ってかかる他、選択肢を奪った。上着を投げ払いベルトを装着し泣き叫びながら駆け出す。


「ちくしょう、チクショウ、二人を返せ!お父さんに謝れ!!」

「何で俺がテメーのオヤジに謝らなくちゃならねぇんだ?ムカツク野郎だな、一回死ねよ!」


向かって来る恒久に対して右斜め後ろに軽やかに退く、上体は低く前屈み肘を閉め両の拳を額につけて隙間から相手を観察。素早くブロッキングの態勢をとるあたり、日頃の練習の賜物だが、やはり巻は慎重派なのだ。


synシン apseアプス


ーベルトで変身すんのかよー



弱虫が無鉄砲に反抗的な態度をみせる、これほど腹の立つことはない。


巻が稲葉に対して不快に思ったのと同じ理由、ひいては自身の経験、この上なく恥ずべき行為、嫌悪感が込み上げてくる。


परिवर्तनパリバータン


恒久は変身の瞬間、巻の姿を見失った。左斜め前に遠ざかる巻を追いかけようとしたタイミングで更に左に流れた巻へ体を向き直したその時、背後を取られた。おぞましい大蛇の牙がグリアを襲う。


【ダイヤガラガラヘビ】

口のすぐ上にある赤外線感熱器官(ピット器官)で獲物の体温を感じ取り、獲物に一瞬噛み付いて毒を注入し、すぐに離れて毒が効くのを待つ。 毒は非常に強い出血毒、また毒量も非常に多くて危険だが、性質は非常におとなしく、よほど怒らせない・身の危険を感じない限り噛むことも少ない。 体長の1/3の距離までなら正確な攻撃が可能。


「流石に硬えな」


アモルファスカーボンファイバー・2層グラフェン・カルビン炭素を主な素材に選び、抗張力と剛性に優れ、衝撃耐性を兼ね揃えたグリアに牙は通らない。だが恐怖は充分に植え付けた。戦闘において重要なのは純粋な戦闘能力差では無い。能力を使いこなす判断・行動に移す決定・それ等を支える精神力。いわゆる心技体が大事なのである。


だが恒久に能力を使いこなす判断力は要らない。グリアが装着者に蓄積されている運動データから最適な行動を選択、行動に移す。決定は装着者の思考を察知し最良な行動を選択、思考の瞬間に行動は終了する。グリアは装着者に負担をかける事無く、その個体の本能・先天性からベストパフォーマンスを引き出してくれる、恒久は戦闘に集中し思考を止めなければ良い。だが恒久の思考は止まっている。拐われた友人の行方、安否、男が発した言葉の端々、闘いに集中出来る精神状態では無い。そもそも恒久は《闘い》であり、巻は《戦い》と捕えている。その認識の甘さが既に負けている。


頚椎への突然の衝撃で敵が背後にいる事を認識。振り向きざまの裏拳、左拳が空を切る。


ーはずれた?後じゃないのか?ー


反応速度は悪く無かった、だがそこに敵の姿は無い。


記録に残っているダイヤガラガラヘビは最大で体長2.36m、体重15.2kg、胴回り11.4cm、変容した巻の体長は約12m。射程距離4m、それが打ち合いの距離。


「おいおい、ボディ、ガラ空きだぜ!」


声と同時に腹部へ下から突き上げる様な衝撃、何が起きたか分からぬまま体は“くの字”に曲がる。眼前に鎌首をもたげ見下ろす大蛇、想像を超えた敵の出現に肝を冷やす恒久の脚が払われる。


ー尻尾?ー


仰向けにダウンしたグリアに大蛇が尾を振り降ろす。間一髪転がり避けて態勢を整えるグリアに、槍の様に襲いかかる大蛇の牙。不格好ながら忍者映画のようにかわし、追加のダメージは回避。だが確実にスタミナは削られる。


ー大きいのに速い、攻撃の軌道も見づらいー


「大した事ねぇなぁ新型。稲葉が負けたのが信じらんねぇな。彼奴あいつはフットワークが良かった、リズム感が良かったんよ、ポイントを取るのが上手い典型的なアウトボクサー。よっぽど綺麗にカウンターが決まらなきゃ相手を倒す事は無い、だがそれで良かったんだ。打ち合いなんか向いてねぇのよ。」


語りかけながらにじり寄る大蛇が鎌首を揺らすコンバットダンス、そこから繰り出される上下左右に振り分けられた縦横無尽な打撃。


「人には“向き不向き”っつーのがあんだろ?グリア!てめぇは世の中に不向きなんだとよ!」


圧倒的な手数と豊富なバリエーション、的確な攻撃4mの射程距離から逃げ切れないグリア。


ークソッ、何とかしないと !?!ー


スタミナ消費を嫌い、防御に徹しうずくまるグリアに光明が刺す。もたげた鎌首の根元、攻撃の支点に的を絞る。手数は多いが癖はある。

① ストレート時の射程距離は4mだが、多方向からの攻撃時には3m、最大で8回の連続攻撃時では2mまで詰めて来る。

② 8回の連続攻撃の前に必ず3連から単発が入り、攻撃の支点を前に寄せる。

ダメージと引換えに手に入れた相手の癖、そこに活路を見出すしか無い。


ー耐えろ、耐えろ、耐えろー


「那知って言ったっけ?そろそろサヨナラかぁ?」


多方向からの攻撃に馴れた頃それはやって来る、多彩なコンビネーションから3連、そして鎌首を少し引き単発のストレート。避けられない、躰を弾かれる、だが狙いどおり大蛇は攻撃の支点を前に擦り寄らせる。その僅かな隙きに飛び込むグリアの矢の様なサイドキック。しかし、これがかわされる。大蛇の横腹を掠めただけ。


「やっぱウゼェな、テメーは」


クリンチ、大蛇が巻き付き絞め上げる。地面から離れた足が僅かに動かせる他、自由を奪われたグリア。


ー不味いー


「さっきのは良かったが、残念だな。そしてテメーは人の事ナメ過ぎだ。他人の心配なんかしてっから、こーなるんだよ!」


実に老獪ろうかい、単発ストレートは大技に入る前の様子見、相手が何かを狙っていると感じて、ラッシュからクリンチに切り換えた。


ー確かに今は2人の事を気にしてる場合じゃないー


このまま絞め上げられては、たとえ耐久性の高いグリアと言えど何が起こるか分からない。《脱出》と《反撃》窮地に立たされてようやく戦闘に意識を向ける、幸いグリアの攻撃は効かない訳では無い。


ー脱出さえ出来れば的はもう1つあるー


思考の瞬間に行動は終える、『Aizietアイヅィエット』激痛と共に大蛇の捕縛から抜け落ちる。強引に肩関節を外し変身を解除した事により、出来た僅かな隙間。抜けた後は恒久の気力の勝負だった、変身を解除した直後は只でさえ自分の躰が不自由に感じると言うのに、関節を外した痛みまで襲って来る、しかし恒久は勝った、変身に必要な動きは最小限で済むように解除しておいた、ほんの少しジョイントカバーを押せば良い、そうする事で辛い思いをする人が減る、ほんの少し、ほんの少しの勇気で。


synシン apseアプス



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