表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/39

29話 進路・轍

前回のあらすじ


常に虚しさが付き纏う恋塚涼子。柚留木美香に出会ってからは彼女の存在がソレを埋めてくれていた。しかし消息を絶ってからは《QUEST》でしかソレは埋まらなかった。それでも埋まるのは《QUEST》を受けた時だけ、執行中にもソレはあって、クリアしてしまえば余計に虚しさが募る。


いよいよもって1年0組に漂う空気は重い。風紀委員:松浦彩花は恋塚涼に【विशेषビシェシュ】としての役目を解く。言葉にして初めて気付く互いの気持ちと自身の内。増住香の声掛けで思いがけず開かれた女子会に話は弾む。




いよいよ志望校の絞り込み、そろそろ願書提出、受験を間近に控えた那知恒久なちつねひさは、塾の名物冬期講習、現役高校1年生による個別指導を受ける。


日隠ひがくれあすかは志望校A判定ならびに家の用事で冬期講習はパス。時任咲也ときとうさくやは公立高校合格圏内の偏差値獲得ならびに“あーちゃんが行かないなら俺も”との事でパス。


はじめは恒久も2人に流されて冬期講習をパスしようかと思ったが、中学生から高校生へ、変化に対してリアルな意見が聞けるのが、この制度の売りであり《進路・将来》に対して現役高校1年生がどんな答えを持っているのか、答えを持たない恒久には興味津々、冬期講習には1人でも行く事にした。



「那知君の学力なら〇〇高校受けても大丈夫だと思うけど、△△高校にするのは何か理由があるのかい?」

「自転車通学したいんです。電車やバスが苦手で……越猪さんは満員電車とか平気ですか?」


更に偶然か必然か、恒久の担当講師は【越猪崇おおいたかしシロサイ


恒久は担当講師が【विशेषビシェシュ】だとは気付いていない。だが越猪は那知恒久が【グリア】である事は先刻承知済み。


एकीकरणイキーカラン】にとって邪魔な存在である【グリア・シュワン】を越猪は受け入れていた。取り除く障害から、今や立ち塞がる壁となったソレは乗り越えるべき存在であり、試練を乗り越えた先に悲願の成就はされるもの。乗り越える事が出来無いのならば、自らが悲願を成就させる器では無いと考えていた。


「僕も電車やバスは苦手かな。最近は事故のニュースも多いしね。通学に心配があるなら国大附属高校を受けても良いんじゃないかな?」

「国大附属ですか!?」

「部活や学業に専念する生徒の為に寮があるからね。那知君、陸上部だったんだよね?いいんじゃないかな?」

「いや、僕、高校で陸上やるつもりは無いんです。それに、国大附属はレベル高くて無理ですよ。」


学力的にあと少し及ばないのはそうだが、何より国大附属には【विशेषビシェシュ】が集まっている。恒久には色々とハードルが高い。越猪がどのつもりで国大附属を薦めたかは考えず、即座に話題を変えさせて貰った。


「越猪さんは将来の夢とか進路とか決まってるんですか?」

「ああ、勿論。」

「アメフトのプロですか?」

「いや違うよ、世界を1つのチームにしたいんだ。」

「???」


高校ではアメリカンフットボール部に所属していると聞いた恒久は、越猪がその道を目指していると思い込んでいた。


「互いの特色を活かして1つのことを成し遂げる。チームってそういうもんだろ?でも今だに世界は1番を決めようと争っている。色々な歯車が噛み合って動くのに、世界は噛み合う事を嫌っている。そんなのナンセンスじゃないか。」


先進国として、モデル確立の為の国家機密【एकीकरणイキーカラン

それはまさに世界で1番を決める争い。


विशेषビシェシュ】として【एकीकरणイキーカラン】を進める越猪は、自分の発言に矛盾を感じながらも、信念は真っ直ぐであると言い聞かせた。


「だから、出来る事をやる。将来の夢とか進路って答えに対しては漠然としてしまうけど、自分の信念に従って、出来る事をね。」


恒久には意外な答えだった。時任咲也の料理人、日隠あすかのチアリーダー、そういった具体的な職業を決める事が進路だと思っていたが“信念に従って出来る事をやる”そう答えた1つ年上の越猪が、とても大人に感じられた。



「僕も将来の夢とか進路とは違うんですけど、最近、漠然と思うのは、争いとか理不尽とか、無くなればいいなって。だからって何していいか、何を目指せばいいか分からないし、先生とか友達に話せる感じじゃなくて。だから、越猪さんの話を聞いて、目の前の事を頑張ろうって思いました。」


立場で語る教師とも違う、未経験の同級生とも違う、リアルな情報は恒久の求める答えであり、指針として全身に響き、あふれる感情は越猪に伝わって、その素直な清々しい感情に越猪は笑みがこぼれる。


ーやはりグリアとは戦うべきじゃないー


越猪崇は那知恒久が目指す未来が自分と同じであると認識し、那知恒久は越猪崇に対し憧れに近い感覚と興味を持った。



争いや理不尽の無い世界は【एकीकरणイキーカラン】の先にある。



एकीकरणイキーカラン】は各国に先駆けてKWB(Keep the world in balance)を成立させる為の計画。その先には人類の叡智が導き出したCJ(Circulation of justice)が待っている。人類が文明のレベルを保ち、自然を壊すこと無く地球と共存し、争いも迷いも無く互いを助け合う世界。


全ての人に幸福が行き届く絶対数の管理が条件の下で……



「あの、越猪さん、連絡先、教えて貰えませんか。冬期講習が終わっても、多分、質問とか色々と」

「いいよ。」


恒久からの願ってもない誘い。それ以上の言葉は無粋とばかりに越猪は早々と態度で示す。席を立ち、パーテションの裏に置いた私物に手を伸ばすと、学習塾入口から予想外の声。


「さっすが風紀委員、言う事が立派やなぁ。」

「亮太!?」


突然の招かれざる客の登場にあたりを見渡す越猪。


「俺だけや、誠一はおらんで。」


国大附属高校1年0組・軽音楽部所属・ギターボーカル・磯貝亮太。只今ベース募集中。本日ドラムの野田誠一とは別行動。


「ここで何をしてる。」

「何って、今、自分言うとったやん。信念に従って出来る事っちゅうやつやがな。」


半端に開けられた入口にもたれかかり挑発的な表情の磯貝亮太を真っ直ぐ見返す越猪崇の表情は堅い。


磯貝亮太の目論見は見当がつく【विशेषビシェシュ】の天敵【グリア】の排除。“目の上のたんこぶ”は無い方がいい。だが、現状【एकीकरणイキーカラン】の進行そのものには、僅かな支障しかきたさない。


問題は、既に第二のグリア【シュワン】がいる事。つまり、ベルトの出処なのだ。


国家機密【एकीकरणイキーカラン】の計画に存在しない【グリア・シュワン】はバグ。発生原因が解らなければ、バグは幾らでも出現する可能性がある。


今ここで得た接点、那知恒久を失うのは得策ではない。


何より、常にベルトを巻いている恒久は【विशेषビシェシュ】にとって充分に危険なのだ。



「那知君ごめん、先に英語の過去問やっといて。」


そう言い残すと、越猪は磯貝を入口から引き剥がす。


恒久は明るく元気な返事を返し机に向った。だが此時このときに、磯貝の、【पागलパーガル】の存在を、知っておくべきだった。



「ここで亮太が出来る事は無いと思うけどな。」


毅然とした態度の越猪に抵抗する素振りもなく、腕を引かれるままに足を運ぶ磯貝は、地面に向って薄ら笑いを浮かべながら【विशेषビシェシュ】らしい台詞を吐いた。


「【ベルトの奪取・日隠ひがくれあすかの捕獲】は《QUEST》やで、グリアが1人の今がチャンスやろ?」

「グリアとは戦うべきじゃない、彼には僕達と戦う大義が無い。」


越猪崇には那知恒久を説得できるビジョンがある。


理想の未来に近付く為に、今必要な事、必要であれば覚悟を決める事、どんな事でも未来の為に。それを伝えるには、これ以上【विशेषビシェシュ】を禍々しい存在として認識させたくない。【グリア】の前に姿を晒して良いのは【シロサイ】で、紳士的な会話をするべきであり、その時までに【那知恒久】と良好な関係を築くべきだと。


立ちはだかる壁の乗り越え方は、排除などと云う粗野なモノであってはならない。


越猪は常に矛盾の中にあって、そのたびに信念は真っ直ぐであると言い聞かせる。それは、もう1人の風紀委員:松浦彩花まつうらあやかの“未来を向けばいい”のお陰である。


「なんやそれ。そんなん、どーでもええねん。」


磯貝亮太に一蹴されて尚、毅然とした態度の越猪は鼻から大きく息を抜く。


「それに【グリア】と【विशेषビシェシュ】では性能差がありすぎる。」

「心配せんでも性能差は大して無いから大丈夫やって、グリアには負けんと思うで。」

「何を言ってるんだ?」


磯貝の左肩にだらしなくぶら下がるバックパックは【कोकूनコクーン】越猪はその事実に気付いていない。【विशेषビシェシュ】と【पागलパーガル】を併せ持ち、自律防御行動機能オートガードを搭載した【芋貝アンボイナガイ】は恐れを知らない。


「パワーアップは柚留木だけとちゃうねん。」


地面に向っていた磯貝の顔を視線が引き上げる。


उद्भवウッハブ


音声認識をした【कोकूनコクーン】が磯貝亮太を異形へと変容させる。大小数個の芋貝が二足歩行を形成するその姿は、越猪が知っている【芋貝アンボイナガイ】とは明らかに異なり、嫌な予感が頭を駆ける。


「亮太!待ってくれ!!」

「ほんま、優等生っちゅうのは鬱陶しいのぉ。止めたかっら、力尽くで来いや!」


अंडाアンダ】を握る越猪の右手に力が入る。


「分かってくれないなら仕方がない、力尽くでいいんだね。柚留木さんの事、その姿、亮太の知ってる事は聞かせて貰うよ。」

「そないな事なんぼでも喋ったるわ。勝てたらな!」



不本意、それでも越猪崇は武力行使を決断する。自らの信念に従い、望む未来を迎える為に。



परिवर्तनパリバータン



【KWB(Keep the world in balance)】


先進国会議にて決定。


人類が近現代の生活水準と地球環境の関係を良好に保つために、あらゆる分野から得たデータと、スーパーコンピュータが算出した驚愕の数字。適正人口は15億人。世界の人口は約75億人……


現状では地球がもたない事を知り、世界中で【KWB】は進行している。各国が人口を80%削減するために何かしら行っている。



【CJ(Circulation of justice)】


先進国会議にて決定。


【KWB】を持続させ、永続的に歴史を刻む為の生活様式。全てを自然に還す。そうでない物の精製の禁止。循環する世界の保持。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 越猪くんの潔癖さが思春期っぽくて、読んでいてうわ〜ってなっちゃいました。敵同士のはずなのに恒久くんとどうなっていくのか、一枚岩とは言い難い1年0組はどうなっちゃうのか… 更新を楽しみにして…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ