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20話 それでもプレゼントは

前回までのあらすじ


那知恒久なちつねひさ日隠ひがくれあすかと越猪崇おおいたかし松浦彩花まつうらあやかは声を交わすが、何事も無く素通り。“今日は普通の事をしたい”松浦はそう言った。


そして屋上では【タイワンアリタケ】の菌糸によるテロを行う為4人の【विशेषビシェシュ】が吸気口へ


【豹紋蛸・揚心古流柔術】八浪幸四郎やつなみこうしろう

【菟葵・大東流合気柔術】砂月玲奈さづきれな

【蠍・新体操県強化選手】増住香ますずみかおり

【茸・手品師】有働和也うどうかずや


それを阻む

【シュワン・時任咲也ときとうさくや】 

【グリア】が来るまで あと……





有働和也うどうかずやは《QUEST》を諦めた。


シュワンは速い。《鶴翼の陣》は効果的だが、間合とタイミングを計りながら、突破のついでに、あらゆる所からイライラさせる程の石をぶつけられる。誘いどおり砂月の合気道で投げても、自ら跳んで受け流し陣の外へ離脱。菌糸へのプログラムに集中出来ない上に、このままでは石ではなく、シュワンの拳が届いてしまうのではないかと云う不安と焦りに襲われる。


有働を焦らせたのは、八浪を苛立たせシュワンの叫び“グリア!今だ!そのタコやっちまえ!”である。ただのハッタリでは無く、おそらくグリアは来る。なるべく近接戦闘を避けようとする立ち回りはそれ迄の時間稼ぎに違い無い。だとすると膠着状態の維持が戦況を悪くするのは自分達になる。そう考えた有働は是が非でもシュワンの排除を優先させたい。


ーさて、1本しっかりいきますかー


ディフェンスを崩すにはコツがいる。裏を取る、間を抜ける、緩急をつける。そして、苛立たせて連携を断つ。それらを効果的に行うには攻撃する意志を必要とする。突破する気の無いドリブルではフェイントにならなず、気が満ちていれば目線だけでも相手を釣れる。


ディフェンスの嫌がる事をすればいい。


戦闘的な攻撃の意志は無くとも、時任シュワンには【タイワンアリタケ】を吸気口から引き剥がす意図はある。


仕掛けは充分。これ迄の攻め手は中央が5割、右【インドアカサソリ】側が4割、左【豹紋蛸】側からは1割、これに限っては突破では無く全て石を投げた。好戦的な【豹紋蛸】は明らかに苛ついている。【インドアカサソリ】は石攻撃にしか集中していない。右腕に何度か毒針を受け火花を散らしているがダメージはゼロ、突破は比較的楽に行ける。【菟葵マウイイワスナギンチャク】は変わらず冷静だが肩口から、吸気口に背を向けた【タイワンアリタケ】が此方こちらの様子を伺っている。


時任シュワンは、波打つ脚を警戒しつつ【豹紋蛸】に対し外側へ大きく深くゆっくり動く。


【豹紋蛸】は自身のポジショニングが若干前にズレている事に気付いていない。距離にして70〜80cm程度、成人男性の約一歩分。時任シュワンが引きずり出したスペース。


八浪の反応は悪くない、左右の揺さぶり位では振り切れなかった。だが裏への反応は劣る。脚が厄介だが届かない距離は把握した。その為のスペース。そこに入る事さえ出来ればそこは【菟葵マウイイワスナギンチャク】の精神的死角、【豹紋蛸】側からは一度も突破を試みていない、そこへの意識は薄れた筈。加えて【タイワンアリタケ】が《QUEST》を諦め表を向いた、余計な動きをすればディフェンスは更に崩れる可能性が高い。


時任シュワンにはコースが見えている。


【豹紋蛸】の裏へ入り【菟葵マウイイワスナギンチャク】の隙をつき【タイワンアリタケ】を狩る。


慎重かつ大胆に身体を振って外から中央へ、行かず、もう一度外へ。【豹紋蛸】の反応は良い。すり足が上半身をシュワンに向かわせ正面に捉える。だが時任シュワンは更に外へ回り込む、本来その位置はゴールラインを割る。直接上には吸気口が邪魔になり有働への突破経路は存在しない、そもそも左側は【豹紋蛸】の守備範囲、脚の届かぬ突破経路など有り得ない。しかしゴールラインは割らず裏へ入った、脚が伸びて来るが僅かに触れるだけ、引きずり出した80cmのスペースが作る勝機!


時任咲也ときとうさくやは良くも悪くも素直。

有働和也うどうかずやはマジックが趣味。


「ざぁあんねん。こっちから来るって分かってたよ。振り向いたらさぁ、八浪君、ズレてんだもん。使うよね、そのスペース。最初から前向いてたら僕も気づかなかったかな、惜しいね。チャンスはピンチ、ピンチはチャンス。この世の全ては表裏一体。油断大敵だね。」


「畜生!離せ!!」


インドアカサソリ】3対の脚にガッチリ抱きしめられた時任シュワン

タイワンアリタケ】の菌糸が指から伸びて【インドアカサソリ】に繋がっている。菌糸にプログラムを込めずとも直接繋がっていれば対象の身体はコントロール出来る。有働はシュワンが突破経路を左側に絞った事を読んで増住を盾にした。


皮肉にも時任は【豹紋蛸】の影で【インドアカサソリ】のポジショニングが変わっている事に気付けなかった。



ーまずい、このまま第2クオーター終了かよ、なんとかしねぇと。ー


「危なかったよ、君、仲間が来るんだろ?グリア。あのまま何処から突破してくるか分からない状況で時間稼がれたらキツカッタけど、調子に乗ったね。僕に触れると思った?」


《QUEST》遂行からシュワンの排除へ、有働の博奕は当たった。




「お前等!自分達が何やってるか分かってんのか!」



3対の脚の間、もがきわめくシュワンの右腕を毒針で執拗に突きながら【インドアカサソリ】がしなやかに語りかけてくる。


「あなたはサンタさん見た事ある?私は無いわ。居ないって言う人もいる。でも、プレゼントは貰うでしょ?だから居るに決まってる。でも、誰も見た事が無ければ居ないのと同じ。目の前にサンタさんが現れたら疑う人はいなくなるけど。与えるのは知識じゃない、経験なの。実際に経験した事は忘れないでしょ?私達が教えてあげないと、世間は鈍感になっちゃったから。」


シュワンの中、時任が怒りをあらわに顔を上げる。


「世間を鈍感にしたいのが【एकीकरणイキーカラン】なんだろ。」

「柚留木さんから色々聞いてるのね。」


打ち続けた毒針が止まり、増住の声のトーンが変わる。


「そうよ、だからプレゼントするんじゃない《死》を。いつもそばにある。明日にでも自分に来ると分かれば考えるでしょ?生命の使い方、願うでしょ?理想の生き方。ワクワクする毎日、キラキラした人生、素敵だわ。堕落して生命の無駄遣いする奴はサヨナラ」



「平気でそんな事……人の生命をなんだと思ってるんだ!」


「過剰在庫」


即答。


世界の人口は約78億人、理想とされる人口は15〜20億人。75%OFF脅威的な数字が算出されている。恐ろしいのは、そんな算出をしてしまう程、人は人類を持て余しているのかもしれないと云う事、国立大学付属高校・1年0組では《事件や事故を習慣化させ《死》に対して鈍感にさせる。生きる事への執着を削ぐ。夢、希望、未来を語らせない。》そう教育されている。




「生きる価値のない生命に意味を与えてあげるのさ!」


「死をも厭わず生を輝かす。生きる事に固執せず己を全うせすべし!」


「倫理に縛られて、綺麗事並べて誤魔化して、可能性や希望で先送りしている間に汚い現実を濃縮させてしまう……」


狂った感情だが偽りが無い。授業や催眠の進行過程の問題なのか、個人の感性の影響か【एकीकरणイキーカラン】の解釈の仕方に誤差がある。有働は優越と慈悲、八浪は孤高と研鑽、砂月は失意と責務。


それを聞いた時任咲也ときとうさくやは虚無と罰を……


विशेषビシェシュ】がいとも簡単に他人の不幸を築き上げる事は、その身を以て知っている。理解し難い危険な思想も柚留木から多少聞いている。目の前の異形から発せられる声は感情が籠もっている。こんなにも明確な悪がそこに居る。それでも、人の生命を軽んじる様な非道徳的な存在を認めたくなかった。


「馬鹿言ってんじゃねえ!Xmasだぞ!今日は好きな人にプレゼントあげる日だろうが!」


時任シュワンの叫びに閃く《赤いチュニックと明るめのジーンズ》八浪幸四郎やつなみこうしろうの頭に鮮明に浮かぶソレは、増住香ますずみかおりへのソレ。


「だからお前が邪魔なんだ」


《QUEST》を阻害するシュワンの速さ、加勢に来るであろうグリアの存在、八浪の焦り苛立ちは戦況だけが作り出したものでは無い。


今日という日《Xmas》そのもの。


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