三話 察しの悪い俺が恋愛なんてまだ早い
すっかり執筆にハマってしまい、一部に5時間、二部に6時間ととてつもないスピードで過ぎ去っていく時間に驚きを隠せませんw
今回は二部で少し触れた妹の初登場シーンとなりますのでぜひお楽しみに!
おぼろげな頭で朝の訪れを感じる。
「ジリリ カチャ」
毎日のように鳴り響く不愉快な音、しかし今日だけはどこかでこの音を待ち遠しいと思う自分がいた。
「おはよう」
「カッチ、カッチ」
返事などあるわけはなく、しかし秒針が進む音が挨拶に答えてくれているようなそんな気さえ覚えた。
午前八時、今日は渚さんから誘われて出かけることになっている。昨日の出来事を思い出しながら朝食を済ませ、買ったばかりの服をクローゼットの奥から引っ張り出した。
準備を済ませケータイで時間を確認すると桜からメッセージがきていた。
「兄さん、おはよう! うちに来るの忘れてないよね?」
昨日、桜から新作のケーキをとりに来るように言われていて渚さんと一緒に寄るつもりだったのだがどこか今日を桜も楽しみにしているように感じた。
桜に渚さんを連れて行く事を伝えておこうかとも思ったのだが特に人見知りするタイプでもないのでいきなり連れて行って驚かせてやることにした。
「ああ、ちゃんと行くから安心しろ」
「わかった! じゃあ兄さんがんばってね〜」
桜とのやりとりを終えた頃、ちょうど良さそうな時間になっていた。
「じゃあ天使を拝みに行くとしますか!」
近くの駅から三十分程で渚さんとの待ち合わせの場所に着いた、駅のトイレで軽く髪型を整えて改札を出た。
「十時三十分か、ちょっと早かったな……」
約束の時間には三十分程早かったが彼女を待たせるわけにも行かないし、彼女を待ってる時間というのもなかなかに幸せなものだ。
持て余した時間でなんとなくゲームのお知らせをチェックしていると昨日、ユイさんとやったイベントが今日の十九時までになっている事を知った。
ユイさんの衣装は昨日完成したので少しほっとした、リーダーが今日にまわすと言っていたので一応、ギルドグループの方でリーダーに時間を伝えた。
「祐也さんお待たせしました!」
その時、ちょうど渚さんが前から声をかけてきた、白いTシャツの上からグリーンのロングカーディガンを羽織ったスタイルの渚さんを素直に綺麗だと思った。よく男同士の会話でかわいい系と綺麗系のどっちが好みかという議論が行われるが綺麗系でありながらも時々見せるかわいい、一面を持った彼女はきっとその両方を持ち合わせている。
「祐也さんの私服そんな感じなんですね! いつもより大人っぽく見えます!」
「ありがとうw じゃあ行こうか!」
ちょうど買った服があってよかったな思った。
「え……」
「ん? どうした?」
一瞬、渚さんが戸惑った様にも見えたが、行きましょうと後をついて来る彼女は紛れもなく俺の天使だなと思った。
「今日はどこに行く?」
昨日、渚さんに誘われて出かけることになり、何個か行き先を考えてはいるのだが、この場所を指定してきたのを考えるとおそらく行ってみたいお店があったのだろう。
「そうですねー あ、この辺に友達に聞いたお店があるのでそこに行ってみませんか?」
「了解! じゃあ案内よろしくね」
道中に学校の話などを聞いてこんな時間が永遠に続けばいいなと思ったのだがそんな幸せは長くは続かず、五分程で目的地に着いた。
「ここって……」
「祐也さん来たことあるんですか?」
白い外観の店から外に伸びたテラス席、なんだか自分の職場に似ていてどことなく落ち着く気持ちになる。
「実家がこの辺で昔、家族で来たことがあるんだよ、ここのケーキは美味しいんだよ!」
「そうなんですね! 祐也さんのお墨付きなら今から楽しみですね!」
横で期待に胸を膨らませながらそう言う彼女を見て俺も柄にもなくテンションが上がってしまった。まぁ昨日約束をした瞬間からテンションなどとうにMAXなのだがw
店内に入り店員さんに案内された席に座り、さっそく二人でメニューを開いた。
魚介の贅沢トマトパスタ、ミラノ風ドリア、期間限定フルーツミルクレープなどの万人受けするメニューからチキン南蛮を乗せて焼き上げたピザなど少し挑戦的なメニューまで存在していた。
「南蛮ピザか……」
「祐也さんそれにするんですか?」
「私もちょっと気になってたんで一口くださいよー」
思わず口に出してしまったが渚さんこれ気になったのか……
「そうだなおれはこれにするよw」
「なら私はドリアにします!」
もちろん渚さんに言われたのもあるが調理に携わる者としてこの店のシェフの挑戦を味わってみたくもあった。まぁメニューとして出しているのをみると味には自信があるのだろう。
「すみませーん!」
「はい! お伺いいたします。」
「このドリアとピザを一つずつお願いします!」
メニューを決めた所で渚さんが店員さんに注文をした。
「ミラノ風ドリアと南蛮ピザですね、かしこまりました。 今、カップル限定で苺のタルトもご用意しているのですが食後にいかがですか?」
「か、カップル……」
店員さんには俺らが付き合っているように見えたらしく突然の事に渚さんは動揺していた。
「いえ、結構です。」
実は横の席にいた男女のお客さんに同じ事を言ってるのを先程目にしていて俺は自分達にも同じ事を言うだろうとあらかじめ返答を準備していた。
今日の俺ナイス! 突然言われていたら慌てていただろうが今日だけはそんなミスしてたまるか、昨日お礼にと誘われた時に噛んでしまったのを思い出しながらも昨日とは違う自分が少し誇らしかった。
「あ、じゃあ一つずつお願いします……」
「え、え!?」
まさか頼むとは思ってなかった俺は完璧に戸惑ってしまい先程の自信が数秒で消えた。
「ダメですか?」
「あ、……すみません一つずつお願いします」
「かしこまりました、食後にお持ちいたします。 それでは失礼いたします。」
一礼して去っていく店員さんを見ながら俺は頭をフル回転させた。渚さんも今日はデートのつもりで俺の事が好きなのか?俺から告白するべきなのか?いけるのか?そんな事を考えていると
「祐也さんがここのケーキ美味しいって言ってたので食べてみたかったんですよねー」
「あ、ああ……なるほど……ねー 楽しみだね」
「ですね!」
危ない危ない……危うく告白する秒読みを始めていた俺は自分が言った事をすっかり忘れていた。渚さんは単純に俺がすすめたこの店のケーキを食べてみたかっただけなのだ、でもカップル限定の物を頼むって事はワンチャン?いや、やめておこう。舞い上がっている俺の思考は、ずれているようで今日は自粛しておこうと思うと共に改めて自分が彼女の事を好きなのだと再認識した。
しばらくして注文した料理が運ばれてきて少しずつシェアしながらゆっくりとした時間が流れた。
「美味しかったですねー」
「だな、食後のタルトも美味しかったしすすめた俺としては一安心だったよw」
料理に満足いったようで足取りが軽い渚さんは少し子供っぽく見えた。
忘れる所だった。桜から顔を出すように言われていたのを思い出し、次の行き先を伝える。
「渚さん寄りたい所があるんだけどちょっといいかな?」
「寄りたい所? 全然いいですよー お供しますw」
実家に向かう途中何度か行き先を聞かれたが、桜にも渚さんを連れて行くとは言ってないし渚さんにも内緒にしておくかと思い、着いてからのお楽しみと答えると顔を膨らませてケチとちょっと不服そうだった。
店から出てしばらく歩くと実家のケーキ屋が見えてきた。
「ここだよ」
「ケーキ屋さん?」
驚く桜の顔を思い浮かべながら店のドアを開いた。
「いらっしゃいませ〜 あ、兄さん!」
「おう、久しぶり! 約束通り来たぞ 後、お前に紹介したい……」
「「 え、ええ!!! 」」
店に入り桜に渚さんを紹介しようとすると桜と渚さんが同時に声を上げた。
「どうした?」
「あ、いや……そうそう兄さんがいきなり女の人を連れて来るから彼女さんかなと……」
「あ、私は祐也さんの実家だとは知らず少し驚いてしまいました……」
予想以上に驚く桜を見てやったぜ、秘密にしてた甲斐があったなと思うと同時に渚さんもそこまで驚くとはちょっと悪い事をしたなと反省もした。
「二人ともビックリさせてごめん、こちらは俺の職場で一緒に働いている渚さん」
「は、初めまして いつもお兄さんにはお世話になっています」
「で、こっちが俺の妹の桜」
「兄さんがいつもお世話になっています」
二人ともなんともありきたりの挨拶だな、まぁビックリさせてしまって頭が回ってないのか。
「実は桜も渚さんと同い年で同じ学校に通ってるんだよ! 前に面識ないって言ってたから近くに来たついでに紹介しとこうかと」
「あー そうなんですね、桜さんよろしくお願いします」
「なるほど〜 こちらこそよろしくお願いしますね渚さん」
二人とも心ここにあらずで思ったよりも話が弾みそうにない。やっぱり事前に伝えておくべきだったか……
仕方ない……用事済ませてさっさと退散するか、この事態を招いた張本人である俺が耐えかねないのだ、桜と渚さんからしたらさらに複雑な心境だろう。
「で? 例のケーキは?」
「あ、そうだった、兄さんちょっと待っててね」
そうだったってこいつ本来のを目的を忘れる程に混乱していたのか、バタバタと奥の厨房に引っ込んでいく桜を見ながら大人になったのは見た目だけかと思った。自分の妹ながら渚さんに負けず劣らずの容姿で兄としては誇らしくもある、栗色の長髪が人目を奪い幼い顔からは安心感を感じる。
「渚さん大丈夫? ビックリさせて本当にごめんねー」
「あ、いえ、色々と驚きましたが大丈夫です!」
「色々って?」
「あ、あー いや、ここが祐也さんの実家だったのとか妹さんが同じ学校だったのとかとか」
どうも桜と同様に渚さんもかなり混乱しているようでやはり早急にここを出るかと決めた。
しばらくして箱を二つ持った桜が奥から出てきた。
「これ、よかったら渚さんもど〜ぞ」
「あ、桜ちゃんありがとうね」
少しは打ち解けてくれたような二人を見ながら安堵しつつ、このまま学校でも仲良くなってくれればいいなと淡い期待も覚えた。
「で、今回は何を作ったんだ?」
「結構自信作だよ〜 フルーツをふんだんに挟んだミルクレープを作ってみました! 私なりにちょっとアレンジを加えてね!」
そうとう自信があるらしく胸を張りながら説明する桜を見て食べるのが楽しみになってきた。
「でもこれ、相当原価かかってそうだな……」
「お父さんとお母さんにも同じ事言われたよ〜……」
「そういえば二人は?」
「兄さん達が来る十分くらい前に出かけたよ〜 そんなに遅くならないって言ってたけど」
「げ、じゃあ二人が戻る前に帰るわ またゆっくりしてる時に帰ってくるから」
「は〜い 兄さん体には気をつけて」
短く挨拶を済ませてそそくさと退散した。あの状況で父さんと母さんが帰ってきたら空気がさらに重くなるような気がした。
「渚さん、俺の用事は済んだけど、どうする? てか今、何時だろ?」
「あ、ちょっと待ってくださいねー 今は十五時過ぎですね? ん? えっ!!」
「どうしたの?」
「すみません、私この後用事があって早いですけどこの辺で解散でもいいですか?」
時間を見るなり慌てる彼女を見て彼氏と約束でもあったのかな?てかもう解散か……まぁ元々ご飯にって事だったし仕方ないけど……
少しいや、物凄く寂しいし名残惜しくはあるが用事があると言う彼女を引き止めるわけにはいかず諦めてお開きとする事にした。
「わかったよ! 美味しいご飯も食べれたし今日は解散しようかー」
「すみません、また今度お礼しますので!」
「いや、今日のがお礼だったし今日のお礼って永遠にお礼の繰り返しになっちゃうよw」
「ですねw ではまた明後日お店で会いましょう!」
「気をつけて帰ってねー」
もちろん進展など期待してはいなかったがここまで何ごともなく終わってしまうとは……
帰りの電車で今日の反省をしながら揺られているとケータイがメッセージを受信した。
「マジか、バタバタしてて全く見てなかったわ! ヘヴィ昨日の続き頼めるか?」
俺が今朝、送ったメッセージにリーダーが返信したようだった。ユイさんもだけどリーダーもそうとう衣装集め好きだな……
「分かりました、今外なので帰ってからでもいいですか?」
「助かる! じゃあよろしく頼むよ!」
最近の俺、素材集めしかしてないなと苦笑しながらもユイさんに会える事を祈りながら家に帰った。
「やっぱり俺の天使はユイさんだけか……」
最後までご覧いただきありがとうございました!
いやー桜のような妹が私にも欲しかった…
そんな事はさておき今回は祐也のリアルが少し発展する事となりました。
後一、二話で急展開を迎える予定ですので今後とよろしくお願いしますw