5*
暴行表現あります。
閲覧注意です。
「このあいだの・・・」
「はい、なんでしょう」
「いや、なんでもない」
師匠が来た日からアラン様が何か聞きたげな様子だけど、突っ込んで聞かないから同じ問答を繰り返してる。
「今日は街に行かないか」
と思っていたら、突然アラン様に誘われた。
「街、ですか?」
「君がここに来て2ヶ月近く経つが、まだ街に出たことはなかっただろ?」
「そういえばそうですね」
「領主夫人として、街を知っておいても損はないと思うのだが、どうだろうか?」
領主夫人として、私はどこまで役に立てるだろう。
でもやれるだけやらなくちゃ。
「ぜひご一緒させてください」
そう、私は欲張ってしまったから。アラン様とのお出かけだなんて、浮かれてしまったから。
だからこんな目にあっても仕方ない。
いや、と口をつく拒否の言葉なんて聞かれるはずもなくて。
見ず知らずの男に素肌を撫で回され、嫌悪感に吐きそうになる。
私、なんでこんなことされてるんだっけ…?
街に出て、街や人の様子を見て回っていた。アラン様が親しげに領民に話しかけられているのをみて、アラン様は本当に良い領主様なんだと自分のことでもないのにすこし誇らしげにおもったりして。そこまで豊かな土地ではないはずなのに、民の心に余裕がありそうだった。
だから、油断した。言い訳にもならないけれど、王都とは違うこの土地独特の空気に油断していた。
アラン様が仕事の話をしてくる、と言って誰かに連れて行かれてから、護衛の人と街をぶらぶら歩いた。
すこし人通りのない道に入った時、近くで助けてー!と誰かの叫び声が聞こえた。
護衛は動かないでください、と言って声のする方に行ってしまった。自分が言っても邪魔になるだろうから、待っていようと思ったその時。
突然後ろから羽交い締めにされた。口も塞がれ身動きが取れない。
そんな状態でずるずると引きずられ、倉庫のようなところに投げ入れられた。
「いっ…!突然なにするの!」
頑張って体を起こすと、3人の知らない男が自分を見下ろしていた。
「まあ俺たちも仕事なんでね」
「大人しくしてりゃ悪いようにはしねぇよ」
薄気味悪い笑みを浮かべた男達が私の体を押さえつける。
「や、ぁ…!」
「聞いてたよりも初心だなぁ、まあそっちの方が楽しめていいか」
「良い加減大人しくしろよっ、と!」
どうにか体をよじらせる私を黙らせたかったのか、お腹に衝撃が走る。あばらがミシ、と嫌な音を立てた。
「…っ!!!」
今まで感じたことのない、呼吸が止まるような衝撃だった。痛みによる支配はあまりにも強力だ。
一気に身動きが取れなくなってしまった。
「たすけ、て、…アラン、さまぁ…っ」
押さえつけられながら扉に伸ばしたけれど、私の願いは聞き届けられない。
汚い、汚いきたないきたない
あまりのおぞましさに呼吸が止まりそうだった
これ以上汚れたらあのひとのそばにいられなくなる…?
「なにやってる!」
入ってきたのは護衛で、瞬く間に男3人をのしてしまった。
「貴方、優秀なのね。ここがすぐにわかるなんて」
声は、震えてないだろうか。うまく笑顔を作れているだろうか。
「すみませんでした。俺が離れたばっかりに…悲鳴の奴もグルだったみたいです」
護衛は可哀想なくらい血の気が引いた色で、私の事を嫌っていたはずなのに、あの屋敷の人はお人好しばかりねと場違いなことを考えた。
「あそこで助けに行かないような護衛ならその場でクビにしてたわよ」
「旦那様連れてきま…」
「言わないでっ!」
情けないことに、声も裏返って自分で思ってるよりも悲痛な叫びだった。
「絶対に、旦那様に言わないで。私、慣れてるから平気よ。
旦那様に言ったら貴方がメイド長と付き合ってるってバラすからね。子どもいるのに職失いたくないでしょう」
こんな脅し使いたくなかったけど、今は自分のことでいっぱいいっぱいだ。
「わか、りました…街の警備にだけは伝えさせてください、こいつら縛ってもらわなきゃいけないんで」
「…わかった、でも私の名前は出さないで。お願い」
幸いというべきか、見える怪我はお腹を殴られた一回だけなので見えるところに傷はない。
あばらがじくじく嫌な痛みを発しているが、我慢できる。ホコリなどをはたいてなるべく身綺麗にする
(モウ、キタナイノニ?)
嘲笑うような声は、自分の心の声か。
それでもさっきまでと同じようにあの人の側に立っていたいから。
(ゴウマン、ゴウマン)
分かってる!それでも、いたい。一緒にいたいの。
うまく取り繕え。大丈夫、嘘をつくのは得意でしょ。
一呼吸おいて護衛と共にあの人のもとへ戻った。