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あの日からアラン様と食事を取るようになった。

ダニエル様に、もう少し話した方がいい、と助言されたのだろう。

アラン様に申し訳ないと思う反面、食事の時間を楽しみにしている自分もいる。

食事もアラン様と一緒に食べるからか、だいぶ味のついた食事になった。やはり前は嫌がらせされていたようだ、相変わらず使用人たちには凄い形相で睨まれるけど。怖くなるくらい穏やかな時間が流れている。


ある日の朝食のとき。


「君は外に一切でないつもりか?」


まだふてくされていると思われているのか、アラン様がそんなことを聞いてきた。


「部屋の外に出ても特にやることも思い付きませんので」


何より、部屋から出てアラン様に迷惑をかけるのが怖い。


そんな言葉は飲み込んで、そう言った。

するとすこし考え込んだアラン様は、なら、私の仕事をすこし手伝ってくれるか、と言った。


初めてなにか役に立てるかもしれない、そう思うと同時に幻滅されたらどうしよう、と不安にも襲われた。

今更幻滅されたってなにも変わらないかと思い直して、私で良ければ、と返事をした。


早速その日の午後から執務室に呼ばれた。


「早速なんだが、この書類を仕分けてくれ」


「はい」


山のような書類をみて、かつての領地再建を思い出した。

久しぶりの自分の役割に没頭していると、余計なことを考えなくて良かった。


手元の書類がなくなって、アラン様に声をかけた。


「旦那様、仕分けが終わりました。次はなにをしましょう」


「もう終わったのか?」


怪訝な顔で見られたが、終わったのだからしょうがない。書類を見せると、パラパラとめくられ驚いた表情になる。


「完璧だな…」


「それとこちらとこちらの資料、誤字がありましたので訂正しておきました」


そういって差し出すと、アラン様が固まった。

その表情を見て、失敗を悟った。


「よ、余計なことをしました。申し訳ありません」


慌てて頭を下げると、思いがけず優しい声が降ってきた。


「謝ることはなにもない、もっと早く君に頼っていれば良かったな」


そういって苦笑いではあるが、初めて笑顔を向けてくれた。

その笑顔は、恋に落ちたあの日の笑顔に似ていて、遠い昔、蓋をしたはずの恋心が溢れ出してしまった。


ああ、私、アラン様が好きだ


私、なんでこんなに馬鹿なんだろう。恋をしたって無駄だって分かってたから、好きじゃない、好きじゃないって自分に言い聞かせて、気持ちを抑え込んでたのに…


一度自覚したらもうだめだった、どんなに抑え込んでも次から次に増えてきて、胸が押しつぶされそうだった。


これを頼んで良いか、と書類を差し出すアラン様に、受け取りながら心の中で呟いた。


ごめんなさい、好きになってごめんなさい





ある雨の日、師匠がやってきた。


「おう、旅先で人伝に結婚したって聞いてな。ちょうど近くにきたから祝いの一言でもいってやろうと思って」


「ししょー!会いたかった!」


唯一無邪気に振る舞える相手。私に領主業務を教えてくれた師匠。師匠で、先生で、父で、兄みたいな人。

見た目はどう見ても20そこらの青年だけど、立派な40代のおじさんだ。

抱きつきはしないけど、笑顔で駆け寄っていく。


「おいおい、幼児退行か?お前夫人になったんだろう、大丈夫か」


「ほんとに、本当に会いたかったの…」


さすがにアラン様の手前、小声にはなったが、いつもとは違う私の様子に師匠も驚いているようだ。


アラン様が2人でゆっくりするといい、と言って席を外した。


私は師匠にいろんな話を聞かせて聞かせてとせがんだ。昔からいろんな国を旅する師匠の話に、自由に飛び回れない私は想像を膨らませて楽しんでいた。

領地再建の大変だった時の思い出話などもして、久しぶりに声を出して笑えた。


楽しい時間はあっという間に過ぎてしまうもので。


「じゃあオレそろそろ帰るわ」


「ししょーと話せてよかった、これで頑張れる」


笑って師匠にそういうと、


「なあ、ミーア」


いつもはお前とかおいとかしか言わない師匠が、珍しく名前で呼んだ。


「俺の助手、いつでも空いてるからな」


昔、私が助手にしてって言った時はお前みたいな小娘いねぇって言ってたのに。

相変わらず察しの良い人だ。

だけど、


「旦那様は良い人だし、みんないい人だもん。これ以上ない幸せもらってるから。だから、大丈夫」


師匠に言ったのか自分に言い聞かせたのか分からないけど。

幸せだよ、大丈夫。


そう心の中で繰り返した。


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