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第3話 ラブコメ的展開の予感

 チャイムが鳴って昼休み。


 皆転校生である彼女の存在には慣れたとでも言うべきか、彼女を直視しようとするものはいない。まれに彼女の方を見たかと思えば、とてつもない後悔をにじませながらすぐにその顔を背けるのだ。絶えず違和感だらけの空間で、俺は原因を探るように過ごしていた。


 彼女は授業と授業の間の休み時間にも話しかけられることはなく、彼女自身もそれが当たり前とばかりに次の授業の準備をしたり、教室や校庭を静かに眺めていたのだ。


「……いくら何でも、おかしい」


 そう呟いたのは中庭でパンをかじっている俺だ。痛いと思われても、結局友達が少ないのだから仕方ない。せめても被害が少なくなるように、こうして人のいない中庭のベンチまで歩いてきて昼食を食べてるのだから、その点は好きにさせて欲しい。


「なんなら十郎とか、ドストライクな気がするんだけどなぁ」


 十郎は別のクラスのヲタク友達と昼飯を食べている。放課後になったら聞いてみるか。唯一と言っても過言ではない友達、十郎のヲタク的趣向はある程度わかっているつもりだった。多少的が外れていたとしても、彼女のビジュアルで行けば最低でも80点は堅い。ところがあの反応は十郎が一番嫌いなコオロギに遭遇した時のそれと同じだった。

 

 これがどうにも腑に落ちない。他の生徒はまだしも、十郎まであれだけ嫌悪感を露わにするのだから、やはり何かがおかしい。


 一種のいじめで無視をするなら理解は出来る。ただ、皆認識した上で各々避けている、そんな印象だった。何より、そう感じているのが俺だけなのではないか、というのがどうにも気持ち悪い。


「変な設定アニメの見過ぎか……それとも長い夢なのか……」


 何度繰り返し考えても、やはり不思議な点しかないから夢ってこともあり得る。それも自分の推しキャラにそっくりの三次元女子が席の後ろに座ったともなれば、使い古された往年の名台詞も言いたくなってしまう。

 だがもし、もしこれがそんな御都合主義のファンタジーで、俺が主人公だとしたら。


「……このまま付き合えたり、するんかな」


「付き合う?」


「流石にそれは、ないか……って、え? う、うわぁっ!!」


 そんな独り言に返す言葉。女子の声に振り返れば、そこにはまさかの彼女の姿があった。


 やっぱりこれはそういう展開なのか! ぐふふ、ラッキーだ。……なんて余裕はあまりない。リアル陰キャは脳内ほど臨機応変に対応出来ず、女子を前にすると素早さと賢さが三十%ダウンする。


「ごめんなさい。驚かせちゃった?」


「あ、い、いやいや! 大丈夫、俺が勝手に独り言言ってただけだから。えっと……」


 おいおい、何早速コミュ障を発揮しているんだ。脳内はそう非難するも、上手く舌が回ってくれない。彼女の姿はやはり変わらず、単純に可愛かった。先ほどまでの疑問は消え失せて、結局可愛いからいいじゃないですかと、思考停止して全てを受け入れそうになっていた。

 

 彼女は表情をあまり変えずに、それでも優しく微笑むようにして。


「あ、私は転校生の椎倉」


「そ、それは分かってる! ほ、ほら、俺はこの通りいつも一人で飯食べてるような感じだから」


「こちらこそ、一人のところ勝手に邪魔してごめんなさい」


「いや、それは本当にいいんだけど! でも、その、どうかした? 何か困ったこととか、聞きたいことがあったとか? 学校のこと、何でも聞いてくれたらわかる範囲では答えるけど!」


 また声が上擦っている。何とも情けないが、これが精一杯。


「あ、うん、ありがとう。そしたら、ちょっと隣いいかな?」


「え? そ、それはもちろん」


 彼女の言葉は何の含みもない。それをわかっていながら頰がほころびそうになるのをこらえる。この邪な本心が見透かされないように祈りながら。ところが、思ってたのとは違う問いかけが彼女から告げられた。


「陶磁くんは、私のことを気持ち悪いって思わない?」


「え? い、いやそんなわけ」


「後ろから見てたから、分かるんだ。流石に、陶磁くんも気がついてたんじゃないかなって」


「え、っと……それはつまり……」


「つまり、私が皆から嫌われているってこと」


 彼女はその言葉を、まるで教師に問題を当てられて答えるみたいに、整然と答えて見せた。急展開に脳の処理が追いつかず、一瞬目眩のように視界が歪んで。


「……んーと、なんとなく」


 そう答えると、彼女は途端に表情を変えた。まるで少女漫画のヒロインが告白をOKされた時みたいな、パッと表情を明るくして、嬉しさを露わにしていた。


「そうだよね。ふふ、よかった。陶磁君は、なんとなくでもわかってくれると思ってたよ」


 美少女が喜んでいるのは、それだけで喜びが伝染してくるものだ。だが、今回ばかりはそうとも言っていられず、ただクエスチョンマークが増えるばかり。


 彼女は俺のことを知っていたのか? いや、少なくともそれはない。彼女が嫌われていると認識してるのが、俺だけだってことを彼女も理解してるのか? それはまあ、半日経てば分かることではあるけれど。


 けれど彼女はそれを聞くと、満足だという顔ですっと立ち上がって。


「これで今日は午後も頑張れそう。ねぇ、陶磁君」


「は、はい」


「よかったら今日は一緒に帰ってもらえないかな?」


 その言葉に、心臓が加速する。美少女からの殺し文句が死角から飛んできて、思わず倒れそうになる。


「え!? な、なんで?」


「だって、陶磁君からも聞きたいことあるんじゃない? 私ばっかり聞くの、悪いよ」


「ん、まあ……」


 聞きたいこと、頭に引っかかってることはあった。けれど、だからって、いいのか?


「それに、私にだって友達がいないこと、分かるでしょ?」


 俺に友達がいないことは認定済みなのか。なんて、やさぐれてる場合じゃない。だってこれは、二人で帰るってことだろ。でも、そりゃ。


「椎倉さんがいいなら……俺は全然」


「じゃあ、決まりね。良かった、一人で帰ることにならなくて」


 それじゃ、戻るね。また放課後。彼女は言い残して、美少女特有の雰囲気のまま去っていった。はぁと溜息をついて脳内でリプレイを再生してみるが、もはやただのオタクが美少女に揶揄われてるみたいだった。

 

 惨めなやりとりだったと猛省しながらも、少しずつ会話を辿っていく。あれ、そういえば昼食どうするんだろう、とか思っても既に手遅れ。


「……美少女転校生と、二人で下校?」


 やばい、これなんてエロゲですか? いやいや、そんな邪な考えは本当にないんですって。けど、ないにしたって、ちょっとした恋愛脳になったっていいよな。許されるだろう、この展開なら。

 

 なんて、百%浮き足立てるなら、それはそれで幸せなんだろう。だが美少女との好感度アップイベントより、その美少女の謎の方が気になってイベントに集中出来そうにない。


 俺の中では、彼女は嫌われている。だが、彼女はそれが当たり前と言わんばかりに、むしろ嬉しそうにして天邪鬼な反応だった。かといって嫌われるのが好き、なんてわけもなさそうだし。普通の人間なら。

 

 俺のヲタク的中二病が再発したのか、それとも元々の気質なのか、俺は随分と気が重くなっていた。


「……もうハプニングは懲り懲りなんだけどな」


 結局うまく行くわけないと、心の奥底で確信があった。だって、この俺が主人公になるわけがない。けれど、下心がないかと問われると困ってしまう。


 そうだ、謎なんて俺が一日二日で解明出来るわけでもない。今日の帰りだけでも幸せなラブコメディを満喫して思い出にしよう。それ以上は何も期待しない。そう決意してから残りのパンを口に詰め込んで、複雑な心境のまま教室へと向かった。



———


いつもお読み頂きありがとうございます!

全30話前後を予定して、毎日2話投稿です。

応援・フォロー・⭐︎が励みになります。読んで頂くだけでも感謝感激です!

今月完走しますので、引き続き宜しくお願いします。

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今月完走予定ですので、引き続き宜しくお願いします。

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