プロローグ
———
俺は、愛されたかった。
平凡な自分に不相応だと分かっていても、主人公のような人生に憧れていた。
そして、彼女も同じだ。愛に飢えていた。けれど彼女は、この世界から嫌われていた。誰からも愛されることはなかった。たった一人からを除いて。
「私、陶磁君に会うために生まれてきたのかもしれない」
そんな言葉一つで彼女に恋をした。この世界が君を嫌うなら、俺だけが盾になってみせる。それが偶然だろうと、今この瞬間君を守ることは、俺にしか出来ないことなんだ。
だが、そう意気込んでいたのも束の間だった。
まるで『お前には不相応だ、身の程を知れ』と言わんばかりに、守ろうとするものが次々と滑り落ちていく。
「なんで、なんでなんだよ……」
あぁそうだ。俺は偶然、彼女の側にいただけのラッキーボーイだ。運命の人でも主人公でもない。結局は平凡な俺の浅い器量通り、この両手を使った所で、たった一人も救えないんだ。
行き着いた先に、俺が選ぶ選択肢なんてなかった。
足元に力なく横たわる彼女は微笑んだ。俺が今にも泣き出してしまいそうな顔を察して。
「私は、陶磁君で良かったよ。ねぇ、陶磁君、私ね」
彼女が目を潤ませると、俺はもう限界だった。
「陶磁君のこと、愛——」
俺にとって初めての、最愛の人。
「忘れないよ」
俺はこれから、俺と彼女のために、彼女を殺さなければならない——
*
陶磁 文也は平凡な高校生だった。平凡といっても平均ではなく、むしろ周りの人間からは劣っていると自覚していた。
けれど、最下層ではない。自分は望んでこの場所にいるんだという強がりもあった。今は中の下、それくらいが自分の立ち位置だと譲歩しながらも、パッとしない日常。押し込めていた自我。このまま何も得られずに月日を浪費していくのかと、劣等感に苛まれる日々だった。
*