表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/66

感情を爆発できる姉が少しうらやましい

 一服タイムのお供を間違えた。やっぱりまだまだ朝晩は冷える。カフェオレにすれば良かった。私が言うカフェオレとは、インスタントコーヒーを少し濃いめに熱湯で溶かし、牛乳をたっぷり入れたものだ。だからカフェオレ、というより、コーヒー牛乳、と言ったほうが正しい。自販機で買った、アセロラ色のビタミンウォーターらしきものでは寒さが増した。ただ、アセロラ色のビタミンウォーターらしきものは、アセロラの味で悪くはない。また買おうか。 


           ・


 姉は、自分の感情をガッツリ表現する。私はそんな姉を少しうらやましく感じていた。

 姉が小学4年生の時、私が学校から帰宅すると、姉と母が喧嘩をしていて、姉は泣き叫びながら

「家出をする!」とリュックに荷物を入れ始めた。

帰宅したら、すでにこんな状況だったので、何が理由かはわからなかったけれど、大声で泣き叫び、壁を叩いて怒りを爆発させていた姉。小学4年生で、家出なんてしたら大変だ。そう思った私は、手も洗わず、キッチンにいた母に

「お姉ちゃんを止めてよ。家出するって荷物をリュックに入れてるよ」

オロオロしながら言った。

「良いのよ。あの子が好きにすれば良いの」

母は怒っていた。

とりあえず、洗面所で手を洗い、姉の部屋と母がいるキッチンとを私は行ったり来たりして、なんとか姉の家出を止めようとしていた。私にできることは、それしかなかった。

オロオロしながらも、姉に

「家出なんてしたらダメだよ」

「もうすぐお父さんが帰ってくるよ」

「今日寒いよ。一緒に寝ようよ」

思い浮かぶ言葉を次々と並べて、なんとかこの状況をやめさせようとしていた。

母はすでにキッチンで夕ご飯の準備をしている。

あぁ……なぜ母は、こんな状況で普段通りなのか?

だんだん私も哀しくなってきて、自然と涙がこぼれ始めた。

「お母さん。お願いだから、お姉ちゃんと仲直りしてよ」

ひっくひっくとしゃくりあげながら、私は母にお願いした。なぜ私が泣かなければならないのだろう?


 単に、私は「家族は喧嘩しても仲直りできる」と当時は思い込んでいたからだ。


「お姉ちゃん、一緒に謝ってあげるから。荷物、元に戻すのやってあげるから、家出しないで」

小学生の遠足リュックだ。荷物なんて、そう沢山入らない。それでも、こんな初めての家出状況は大きな出来事だった。

「もう良いんだよ。家出するの!それに、なんであんたが泣くんだよ」

「だって淋しいよ。お姉ちゃんがいなくなったら、お父さんも哀しくなるよ」

「あんたにはわかんないよ」

そう姉は言って、再び大声で泣き始めた。


 1時間くらいだろうか。理由もわからず、帰宅したらこんな状況で、オロオロしながら、姉の部屋と母がいるキッチンとを私は何度も往復した。

 父が「ただいまー」と玄関を開けて帰宅した。

「なんだか泣いてる声が聞こえるけど」

キッチンで父と母が話している。

父が帰宅したことで、ようやく姉の家出は未遂に終わった。

父がうまく姉をなだめたのだろう。オロオロしている私ではダメだったのだ。

肝心な姉と母の喧嘩の理由は「ムダ毛シェーバーが欲しい」と言った、姉のひとことから始まったらしい。

くだらなすぎる。気持ちはわかるが。でも、ムダ毛シェーバーくらいで家出にまで発展するか?

それでも、週末、父は姉と2人で家電量販店へ行き、電動のムダ毛シェーバーを買ってあげていた。

 姉は「友達が持っているから」という、くだらない理由だけで欲しい物を父に買ってもらっていた。簡単に買ってもらえないとわかると、大声で泣いた。大声で泣くと父がうまく話して、買ってあげていた。

父が姉に買ってあげていたのは仕方ないことなのかもしれない。姉は、私が学校で成績も運動も音楽も上手くクリアしていることで比較されていた。もちろん、私自身は、姉と差をつけようなんて微塵にも思ってなかったし、たまたま勉強も運動も音楽も好きだったからで。比較されていることを知っている父は、姉に甘過ぎても当たり前のことなのかもしれない。

 しかし、母だけは、絶対に姉の泣き落としにはのらなかった。私がそれなりに努力をしていたことを母は知っていたからだ。父と母は、子供の私から見ても、とても仲良くしていたし、良い夫婦関係だと感じていた。

たまに、姉ばかりじゃダメだろうと感じていた父が

「何か欲しい物を買いに行こうか?」と私に言ってきたが

「もうすぐ誕生日だから、誕生日前になったら考える。今は欲しい物ないよ」

気遣う父には申し訳なかったのかもしれないけれど

「友達が持っているから欲しい」

「流行っているから欲しい」

そんな物には、興味がなかった。

本当に本当に、じっくり考え自分で選んだ欲しい物があれば充分だと。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ