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1番最初の小さな社会は家族

 窓にポンポンと音色を奏でていた雨が、ザーザーと強くなりつつある。車道を走る車が、勢いよく水しぶきをあげる音が部屋にいても聞こえる。災害がないことを願う。唐突だが、私は音楽が好きだ。大学を卒業し、社会人になったくらいまでは、洋楽ばかりだったけれど、子供を産んでからは邦楽ばかりになった。宇多田ヒカルさんがデビューした時には、驚きしかないくらい。すぐに引き寄せられた。宇多田ヒカルさんのある曲の歌詞に「どこにいたって私は私なんだから」とある。苦しくて辛い時、私はいつもこの歌詞を思い出す。ありがとう!宇多田ヒカルさん。同じ時代に生きていられること、沢山のありがとうでいっぱい。ずっとずっと大好き。何があっても。


           ・


 彼、いや、元彼?こういう表現は苦手。とにかく、恋人ではなくなり、女友達のような関係になった彼とは、前よりもずっと良好な状態になった。丸3年は付き合っていたから、もっと空虚感があるかと構えていたけれど、その構えは無駄であった。ただ、共通の友人達は驚いていた。「なんでよ?」そんな直球を投げられたりもしたけれど「私のわがままだよ」と変化球を投げ返し、上手くかわしたつもり。親友という言葉がピタッと合うのかわからないけれど、本当に仲の良い女友達2人にだけは、詳細を話しておいた。心療内科に通院し、薬も服用していることも含めて。その女友達のうちの1人は拒食症だった。類は友を呼ぶ?母親と良い関係を築けず、気付いたら拒食症になっていたらしい。大学に入学してから拒食症を自覚したそうだ。入学し、ずっと仲良くしていたから、もともと細身なんだと私は思っていた。母親との関係を告白してくれたのは、大学1年の冬だった気がする。「母親の作る食事が食べられない」らしく、鍋の美味しい季節は彼女にとって苦痛でしかなかった。彼女は、母親となるべく会わないように生活していた。

女友達2人は、一緒にいて気楽だった。少しずつ食べられるようになってきた私の食事にも付き合ってもらったし、電車は逆方向なのに、何かと理由をつけて私の家まで来てくれたり。お互いに卒論で大学ではなかなか会わないとよく電話で話した。病気のことも通院のことも薬のことも、そっとしておいてくれた。だから、私は私のそのまんまでいられたんだと。


 2週間後の心療内科。前回と同じように、5分前に到着。受付をし、待合室を見渡すと人が少なかった。あぁ、今回は長く話すことになるだろうな、と予感していた。

すぐに名前を呼ばれ、部屋をノックし「失礼します。こんにちは。前回はありがとうございました。よろしくお願いします」頭をさげながら、長い挨拶をした。なぜか私は、きちんと挨拶をしないと、頭をさげないと気がすまない。これだ、この真面目さだ。

「どうですか?前回、処方した抗うつ剤で変化はありましたか?」

「はい。心臓がバクバクしたりしなくなりました。あと、少しずつ、いろんなものが食べたくなるようになってきました」

「良かったです。薬は、合う人合わない人がいますから。抗うつ剤が合うタイプだったんですね。眠気などの副作用はどうですかね?」

「たまに、うつらうつらとすることがありますけど…もともと電車の中や学校の教室などで眠れないタイプなのが、逆にリラックスしているみたいです」

「じゃ、眠すぎて困るというほどではないのですね?」

「そうですね。なんていうか……心身リラックスしているかんじです」

「では、お薬は、このままで様子をみましょうか?」

「はい。お願いします」

ぺこりと軽く頭をさげた。

「えーと…ご家族のことを教えてください」

「両親と1つ違いの姉がいます」

「失礼ですが、ご両親のお仕事は?お姉さんは何を?」

「父は公務員です。県庁に勤めています。今は県の教育委員会にいます。母は基本的に専業主婦ですが、自宅で週に2回ほど、籐を教えています。あと、テニスを習ったり、一緒にお菓子作りをしています。料理も得意なので、母から教えてもらっています。姉は専門学校を卒業して、車の部品メーカーで事務をしています」

「となると…お姉さんは社会人3年目ということで?」

「そうなりますね」

「ご両親やお姉さんについて、何が想うことはありますか?」

「(そうだなぁ)両親はもともと警察官で、そこで同期として出会ったと聞いています。両親とも勉強ができる人らしいです」

「らしい、なんですね」

中年男性らしくない、クスッとした笑いだった。

「まだ、私は産まれていませんからね」

笑いを誘うように、わざと口にした。

「両親は結婚が早かったと言っています。大学卒業して、2年目の24歳で結婚しています。翌年に姉が産まれて。母は姉を妊娠中に退社しました。専業主婦が憧れだったそうです。父は警察の事務にやりがいが持てず、姉が産まれる前に県庁を受験し、今の部署に」

「もしかして公務員家系ですか?いや、お父様が警察から県庁と、公務員から公務員なので」

「はい、そうです。両親の家系どちらも、公務員だらけの公務員家系です」

「自分も公務員にならなきゃ、というプレッシャーは?」

「まーったくありません。この就職氷河期に、一応、外資系の化粧品メーカーから内定をいただいていますので」

そう、私は大学の勉強とは全く異なる、外資系の化粧品メーカーから内定をもらっていた。卒業したら研修が始まる。百貨店の美容部員に私はなるのだ。

「なるほど。病気のことは話してありますか?」

「ええ。母はきちんと調べて理解してくれています。父と姉は、よくわからないみたいですけど」

「ご家族に1人でも、病気の理解者がいることは大切なことです。お母様がご理解してくださっていて良かったです」

「有難いと感じています」

「お姉さんとは、どうですか?年子というと、比較されたり……様々なことがあるご家族もありますが」

心の中で、ビンゴ!と思った。他の人のことは知らないけれど、年子でましてや同性だと色々大変なのだ。

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