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24歳

またまたマック。お昼ご飯に。

チキンタツタ、限定しないで欲しいくらい。

ジャンクなものが食べたい気分だ。

自宅でピザとフライドポテト、作りたいな。


           ・


 湘南の海に行った。

「風が強いな」

「でも気持ち良い」

彼が作ったサンドウィッチとカフェオレを飲む。

煙草を吸った。

黙ったまま、波音だけ。

海に行く途中、車の中から友人にメールしておいた。

「このまま…入籍する?」

「うん。おれはしたいけど」

「きっとすれ違うよ、いろんなこと」

「それでも…やっぱり入籍して、挙式と会食、パーティも」

もう1本、煙草に火をつけ、カフェオレを飲む。

この休み期間、私なりに考えよう。

「やっぱりさ、ヴェールに生地つけてもらうの、もうちょい考えるよ」

「ん。明日の誕生日、何か欲しいものは?」

「なんにもない。普通に過ごす」

彼が黙る。

「なんで私なの?」

結婚したい相手が私なのか、わからなかった。

「ずっとずっと、一緒にいたい相手だから。今、大切にしたいだけじゃなく、この先、色々あっても、一緒に乗り越えたい人だから」

「24歳だよ。まだまだ出会いあるよ」

「それでも…大学時代。離れていた期間、どうしてもぽっかり穴が空いたようで…あー、これは他の人じゃ埋まらないって」

「そう」

もう考えるのをやめたかった。

それでも、向き合わないと。

しっかり決めないと。

「そろそろ帰ろう」

「うん。疲れたでしょう。帰り道、寝て良いから」

「ありがとう」

大きく背伸びをした。

少しスッキリする。

帰り道に寝てしまった。

「着いたよ。ね、着いたよ」

「あ、ごめんね。ありがとう」

「疲れさせたね」

「ううん。大丈夫だから」

いつも、大丈夫と言ってしまう。

大丈夫じゃないときも。

疲れていても。

彼も同じだと思うと

つい、大丈夫と言ってしまう。


自宅に入り、お風呂の準備をした。

その間に、サンドウィッチの包みやサーモスのスープジャーを洗って片付ける。

「先にお風呂入るね」

「うん、ゆっくり」

もうすぐ24歳か。

自分の幼さ、寛容力のなさが恥ずかしい。

子供の頃、大人って、みんなしっかりしているように見えた。

たぶん、24歳は、もう大人だ。年齢的には。

まだまだ「大人」になりきれない。

人それぞれとわかっていても

自分が自分を許せない部分が多かった。

自分を愛するとか

自分を大切にするとか

頭では理解できても

たまに心がうまく反応しなかった。

洗面ルームから

「大丈夫?具合わるい?」

こんなに時間が経っていたとは。

「ごめんね。考えごとしてただけ。あがるから」

「じゃあ、冷めないうちに、おれも入るから」

「うん」

私と入れ替わるように彼がお風呂に入る。

スキンケアとボディミルク。

洗濯機でランジェリーを脱水に。

髪の毛を乾かす。

部屋にランジェリーを部屋干しした。

ティファニーのブルーの箱。

そっと開けてみる。

これをもらう価値が私にあるだろうか。

マイナス思考に陥入るパターンだ。

そっと、ティファニーを箱にしまい、洗濯をする。

「いいよ。大丈夫だから。洗濯機で全部洗って良い?」

「うん。じゃあ自分のはネットに入れちゃうから。あと、ハンドタオルとバスタオルも替え持ってきた。それぞれ、ネットに入れる」

洗面所、トイレ、キッチンのタオル。洗面ルームのバスタオル。あと、バスマットも。

「じゃあ、回しておくから。部屋干し、必要なのある?」

「ううん、ないよ」


ソファーに座って、ぼんやり過ごした。

テレビも観たくない。

読書にも没頭できない。

部屋で横になりながら、音楽かけようかな。

眠りたいのに、なかなか眠れなかった。

ベランダで洗濯物を干す音が聞こえる。

起きあがって、ベランダを見る。

「ごめんね、うるさかった?」

「ううん、起きていたから」

ベランダのサンダルを履き

一緒に洗濯物を干した。

「ありがとう」

「全然。明日も天気良いみたいだね」

「うん、そうみたいだな」

当たり障りのない会話になる。

「もうすぐ…24歳だね」

「うん」

「本当になにもいらない?」

「うん」

「これで終わりっと」

「ちょっと飲む?」

「んー…飲みたい?」

「そうだな。一緒に飲みたい」

「じゃあ、簡単におつまみ作るから」

キッチンに立ち、アボカドを潰し、レモンをかける。クレイジーソルトで味付け。

ノンソルトクラッカーにのせていく。

作り置きしておいた、唐揚げをトースターのオーブンモードで。

カマンベールチーズを切って、お皿に並べる。

小松菜と油揚げの和え物。

「こんなもので良いかな」

「うん、充分」

「あとは…チーズパイも作り置きしてあるから、それも」

「やるよ。トースターのオーブンモードで大丈夫?」

「うん。なんか遅い夕ご飯みたいになったね」

「夕ご飯らしいもの。食べてなかったから」

「なんだ。お腹空いてたんだ」

「うん」

「ほら、ここ。作り置きしてあるから。冷凍室にも」

「ごめん。頭がまわらなかった」

「ご飯も冷凍室に作り置きしてあるから」

「便利だな。考えてくれてたんだね」

「まぁ、一応は…」

冷蔵庫から、彼がヴーヴクリコを出す。

私はグラスを用意した。

「ね、ダイニングテーブルじゃなくて、ソファーで、ゆっくり」

「そうだね。たまには良いね」

お皿をリビングテーブルに並べ、コースターとシャンパンも。

彼がグラスに注いでくれる。

「んー、美味しい。明日、むくみそう」

「そっか。ま、休みだし、むくみなら」

「お酒飲むとき、なるべくタンパク質を食べて。悪酔いと2日酔い防止」

「そうなんだー。これからお客さんにお酒のときは、チーズとかタンパク質を一緒に勧めると良いんだな」

「そう。大豆とか枝豆とか、植物タンパク質でも。お豆腐とかお魚でも」

「お肉も?」

「もちろん。タンパク質を取りやすい、お客さんの好みとか。1番簡単なのはチーズだけど、ひじき煮に大豆も入ってるし、いろんな種類の豆類のサラダあったよね」

「うん、ある」

「あれなんかも便利だと思うよ」

「色々ヒントになるね。ありがとう」

「いいえ。今夜はゆっくり飲もうっと」

時計をみる。もうすぐ11時。

あと1時間で24歳か。

ケータイは部屋に置きっぱなしだ。


「あのさ…本当に申し訳なかったと思ってるから」

「大丈夫だよ。普通にはなしてくれれば良かったな、って。それだけ」

シャンパンをひと口飲む。

「なんていうか…上手く伝え方がわからなかった」

「うん。そういう時もあるよ。みんな」

「タイミングも…伝え方も、気をつけるから。これ、はい」

一緒に住む条件にプラス事項が記載されていた。

「さっき、お風呂に入っている間に書き直した」

「まぁ…良いよ。だって、破いたら、ただのゴミだもん」

「じゃあ、誓約書にする。サインと印鑑も」

彼がパソコンで、誓約書を書き始めた。

「良いって。せっかく飲んでるんだし」

「さっきのレイアウト、使うから。今、プリントアウトしてる」

「…じゃあ、私も書かないとね」

「いらないよ」

「平等じゃないじゃん。ごめん、悪いけど、プリントアウト、もう1枚お願い」

「…わかった。内容は変更なし」

「私に望むこと、約束して欲しいこと、ないの?」

「それも書いてあるから。はい。これ、お互いによんで、サインと印鑑」

彼が作った誓約書を読む。

部屋から印鑑を持って来る。

2枚にサインと印鑑を押す。

彼もサインと印鑑を押した。

「これ、お互いに持っていれば大丈夫。実家用にも作る?」

「私たちの生活だよ。私たちの入籍。実家用にはいらない」

部屋の引き出しに、印鑑と誓約書をしまった。

もうすぐ、12時だ。

「申し訳ないけど、ティファニー、持ってきてもらえる?」

「どれ?全部?沢山もらい過ぎた」

「この前、購入したやつ」

部屋でティファニーの箱を確認する。

指輪3つとピアス。結婚指輪はまだ開封していなかった。

「はい。結婚指輪は開けてないから」

「ありがと。ピアスは大丈夫。指輪だけ」

ダイニングテーブルにティファニーの箱が置いてある。

返して、と言われるのかな。

それはそうでも仕方ない。

カマンベールチーズを食べ、シャンパンを飲む。

冷蔵庫の中身を確認する。

なんか作り置きしようかな。

酔わないし、眠くない。

料理、しちゃおう。

「何か作るの?」

「うん。作り置きしようかなって。マリネとか、ひじき煮とか」

「今夜は良いよ」

「まだ酔ってないし」

「でも疲れてるよ」

「じゃあ、明日作るから。ティファニー、全部返す?」

「ううん。違う。大切にしてくれてるんだなって」

「当たり前じゃん。ダイヤモンドとプラチナだけじゃないよ。1番最初にもらったシルバーのアトラスも。毎回、一緒にお手入れ出してるよ」

「そうだね。さっき、片付けの時、悪いかなってティファニーは袋のまま、部屋に置いたから」

「じゃあ、大切にまたしまうから」

「ありがとう」

飲み終わったグラスを洗う。

「食洗機、かけとくから」

「これくらいの量ならもったいない。洗うから」

「そうか…なんか家事やるって言いながら…量とかわかんないで食洗機使ってた」

「基準は簡単だよ。洗い物が食洗機の半分くらいなら、食洗機。こうして、数枚なら、手洗い。あと、グラスは手洗いかな」

「なるほどね。炊飯器の釜とかも?」

「うん、食洗機で洗えるから。あの収納場所に、電気製品とかの説明書、ファイルしてあるから」

「…ごめん。家事やらせていたのはおれだね」

「別にイヤイヤやってないし。やれる時にしかやってないよ。ただ、読んでおくと使いやすかったり、光熱費もおさえらるから」

「うん、そうする」

「あと、まな板と包丁、使うものによって違うから。それは、お母さんからのノートに書いてあると思う」

「わかった。ありがとう」


 翌朝。とは言っても、11時。

ものすごく寝てしまった。なかなか寝付けなかったせいか。

リビングに行くと、テーブルに

「ちょっと出かけてきます」

そう、彼からのメモ書きがあった。

天気良さそうだな。キッチンに陽射しが入っていた。

「ダメだなー。まだ寝よう」

スッキリ目覚めたのとは違う。

身体がスッキリしていない。

ケータイに、誕生日お祝いのメールが届いていた。

そうか…24歳か。

ベッドに潜り込んで、自分で祝う。

今日はずっと寝ていたい。

ずっとベッドから起きたくない。

料理したいけど、明日か今夜で良いや。

「プレゼントはダメダメない私。至福のベッド」

独り言。

結局、夕方の5時にベッドから出て、やっと目覚める。

洗面ルームで洗顔とスキンケア。

洗濯物は乾いていた。

洗濯物も取り込み、部屋で畳む。

タオルをしまったり、彼や自分の服も畳んだ。

夕暮れだ。

ベランダで、部屋着にスッピンのまま、カフェオレと煙草を。

「さてと」

独り言を言いながら、キッチンで料理をしようとした。

玄関のドアが開く。

「ただいま。あ、洗濯物ありがとう」

「ううん、乾いていたから」

「何か作るの?」

「夕ご飯と作り置きを」

「これ。お母さんに教わりながら、夕ご飯作ってきたから。あとシャンパンとケーキ」

「ありがとう。なんだろう?何作ってきたの?」

「じゃあテーブルに並べるから」

キッチンで温めたり、冷蔵庫にいれたりしながら、ランチョンマットとコースターを並べる。

「お皿、用意しようか」

「大丈夫。今日は誕生日でしょ。全部やりたいから」

キッシュ、キノコ類のマリネ、ミートパイ。カマンベールチーズ。コーンフレークを砕いた唐揚げ。

「実はさ、作り置きも教わって作ってきたから」

冷蔵庫にも色々入れている。

作り置きしておこうと思った餃子。

ハンバーグ。お弁当サイズも。

パプリカのマリネもあった。 

いろんな豆類のサラダ。豆類のマリネ。

「時間かかったでしょう」

「でも、お母さんに同時に作る方法、教えてもらったから。アボカドとマグロは、明日ね」

母に電話をする。

「もしもし。うん、私。ありがとう。24歳、一緒に祝ってくれて。うん。うん。初めてだよ、彼が全部作ってくれたのは。そうだね。お母さんもありがとう」

ゆっくり受話器を置く。

「ローストビーフもお母さんが焼いたバケットも、明日ね」

「明日もお祝いみたいだな」

「えーと、最後にサラダ作っちゃうから。もうちょい待ってて」

レタスとトマトに小さく切ったお豆腐に豆類のマリネを。

「はい、どうぞ。あ、シャンパンだね。グラス用意して…はい、どうぞ。24歳、おめでとう」

「ありがとう、嬉しいよ」

「いつも作ってもらうほうが多いし。なるべく、おれもやっていくし、楽しいのがわかったから」

「いただきます。うん、シャンパンも美味しい。どれから食べて良いか迷うな」

「シャンパンはまだあるから。ゆっくり食べよう」

「そうだ」

部屋から、ティファニーの婚約指輪を2つ重ねた。

ピアスも。

彼が笑顔になる。

部屋着にスッピンだけど。



仲直りっていうわけでもないし。

きっと、入籍してもすれ違いはある。

譲れる部分、相手を想う気持ち。

きちんと言葉にしていこう。

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