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話し合いより年度末の仕事が優先

雨続き。梅雨入り前かな。

久々にマックのチキンタツタを食べた。

マックカフェの抹茶フラッペは売り切れ。

残念だ。


           ・


 初めて担当になった、武田さんも来店してくれた。

私より5つ年上の妹さんと一緒に。

「草野さーん、DMありがとう」

「武田様、いつもお越しいただき、ありがとうございます」

ちょうど、春夏用のリキッドファンデとパウダーファンデのリーフレットと見本が到着した翌日だ。

新しい春夏用のリキッドファンデとパウダーファンデは、崩れにくいのに保湿と美白効果があり、艶っぽい仕上がりだ。


「DM届いてね、草野さんに会いたくなって」

DMに、担当の方にはかならず直筆でひと言添えた。

「私も武田様をお待ちしていました。前回は多々、ご配慮いただき、ありがとうございました」

席に案内し、改めてお礼を伝えた。

「全然。たいしたものじゃなくて」

「いえ、お気持ちだけでも本当に嬉しかったです」

「そう?良かった。今日は、妹も一緒に」

「かしこまりました。お時間は大丈夫でしょうか?」

「うん、何時間でも」

お互いに笑い合う。

「ね、草野さん。パック、すごく良いね」

「ありがとうございます。では、武田様からお肌の見直し致しましょうか」

「うん。あと、旦那のスキンケアも前と全部同じのを。メンズ用のボディシャンプーとメンズ用トワレ。いつものボディシャンプーとボディミルク、トワレとパフュームも」

「かしこまりました。では、まずお肌に触れますね。失礼致します」

スキンケアチェックをすると、かなり柔らかくなっていた。

「ファンデーションの使い心地はいかがですか?」

「やっぱり、秋冬はリキッドだね。毛穴落ちしないもん」

「スキンケア、きちんとなさっていますね。それがファンデーションの毛穴落ちの改善に繋がっています」

「もう、あの水分補給パックないと不安なくらい」

「お肌の調子も柔らかく、ツヤツヤしてますね」

「良かったー。パック、また2本…いや、3本、お願い」

「ありがとうございます。かしこまりました」

「あとね、草野さんのメイク、すごく綺麗」

「ありがとうございます。DMで送らせていただいた、新製品になります」

「同じの全部予約するー。他の色も見せてもらって良い?」

「もちろんです。ご用意しますね」

新製品のメイク製品とファンデをリーフレットと一緒に紹介する。

「今回、初めてのハイライトを発売します。ハイライトとしてはもちろんですが、私のアイシャドウのベースにも使っているんですよ」

「だからだ。艶っぽさが綺麗だと思ったの」

「ありがとうございます。アイシャドウもかなり薄付きなので、重ねていけば簡単にグラデーションができます。また、アイペンシルとリキッドライナーを重ねることに、より崩れにくくなりますよ。リップも薄くつきますし、重ねて濃くなりますから。春までもう少しですが、先取りカラーでメイクを楽しんでいただければ」

「メイク製品、手につけたりしてみても良い?その間に、妹のスキンケアとファンデ、メイク製品をお願いできるかな」

「はい、かしこまりました」

スキンケアチェックをする。典型的な混合肌だ。しかも、頬が乾燥でかたくなっている。

スキンケア製品を並べ、Tゾーン崩れ防止と下地も。

フェイスパウダーをTゾーンに少し多くのせると崩れにくくなるアドバイスも。

ファンデは迷った。

来月には新製品が発売される。

「ね、このファンデ、艶っぽさと薄付きなのにカバー力があるのね。リキッドとパウダー、両方予約しちゃう。もう予約できる?」

武田さんが聞いてきた。

「はい。ご予約を承っています」

「深野様はいかがなさいますか?」

「お姉ちゃん、ちょっと私にも見せてよ」

「うん、アイシャドウもハイライトもカラーライナー、リップも迷うねー」

「全部欲しくなるよね。特に草野さんのアドバイスは、必ず綺麗になるから」

「いえいえ、武田様のきちんとお手入れを続けている成果ですよ」

武田さんと妹の深野さんがメイク製品であれこれ相談している。

「決めた。ハイライトとアイシャドウ、カラーアイライナー、カラーペンシルは全部。リップはこの赤にしようかな。赤とたまには淡いピンクも」

「ありがとうございます。深野様はいかがなさいますか?」

「んーハイライトと…迷うなぁ。やっぱり姉と全部同じで。ファンデもリキッドとパウダーを」

「かしこまりました。ありがとうございます。スキンケアはいかがなさいますか?」

「先程、紹介してもらったのを全部。あと、姉の自宅でボディシャンプーとボディミルクを使って、気に入ったので。トワレとパフュームもお願いします」

「水分パック、絶対2本は買ったほうが良いよ。肌、すごく柔らかくなるし」

「武田様、ありがとうございます。スキンケアは水分パック以外にございますか?」

「うん、前回と同じのを」

「最後のクリーム、いかがなさいますか?軽いジェルクリームも夏場はお使いいただいていますが」

「そうだな。まだ寒いし、春前にスキンケア見直し、一緒にお願いして良い?」

「もちろんです。武田様も深野様も、ご相談だけでもお気軽にいらしてください。サンプルもご用意していますから。では、製品のご用意と新製品のご予約チケットを準備致しますね。先にお会計をよろしいでしょうか?」

素早く会計をし、バックヤードから旦那様の分もサンプルを沢山用意する。武田様用、深野様用のファンデのサンプルやスキンケアサンプルも、沢山。

製品を袋に詰めていき、サンプルのご紹介をする。特に深野様は3日分のスキンケアを。武田様には気に入っていただいた水分補給パックのサンプルをたっぷり。

沢山予約をしていただいたので、オリジナルのメイクポーチも。

「こんなに沢山のサンプル、大丈夫?」

「はい。いつもご予約や継続してスキンケアなどお買い上げをありがとうございます」

「草野さん、妹の面倒も草野さんにしてもらえる?」

「かしこまりました。今後もよろしくお願いします。いつでも、お気軽にお越しくださいね。あともう少しで新製品のファンデーションが発売されますので、武田様と深野様には、ファンデーションも沢山サンプル入れておきますね」

予約チケットを直接渡す。

ショッパーにすべて入れて、お見送りをする。

武田さんがいつものように、小さく手を振る。

カウンターを綺麗に片付け、カルテに書き込む。

バックヤードに行き、旦那様のカルテを出し書き込む。

予約表に予約チケットを貼る。

「のっちんやるなー。担当の方、毎回、購入すごいねー。きちんとお手入れしてるんだな」

「はい、来店されるたびにお肌もメイクも綺麗になっていくのは嬉しいですね」

「そうそう。それ、基本だよね。のっちんは押し付けないし、必ずきちんとサンプルを沢山だし。担当もまた増えるよー」

「担当の方だと、雑談も交えてお話しできる機会なので。どうしても時間がかかってしまい…課題ですね」

「良いんだよー、それで。時間をきちんと聞いて、急ぎじゃなければ、スキンケアやメイク製品の見直しのアドバイスできるチャンスだよ。のっちん、カウンターに入っているとき、ちゃんとお客様を見てるし、聞き上手。的確なアドバイスだから、お客様も実際に使って、リピに繋がる。良いことだよ。そのままで大丈夫」

「ありがとうございます。そう言ってもらえると…かなりやる気でます」

笑い合った。

「可愛いなー美人なのに、可愛いのっちん。一家に1人のっちんを」

「それ、ドラえもんのほうが」

また笑い合う。

予約表を見る。うん、メイク製品は全体的に上がってきた。あとはファンデだ。


あ、前回いらした、ホテルのフロントの方だ。

「こんにちは。先日はありがとうございました」

カウンターの席に案内する。

「DM、ありがとうございました。ちょうどメイクが楽しくなりまして。制服のスカーフも色が変わるので」

「こちらこそ、ありがとうございます。かしこまりました。お時間は大丈夫でしょうか?」

「はい。スキンケアの見直しもお願いします」

「ありがとうございます。では、スキンケアチェックから致しますね。どうぞラクにお座りください。荷物は隣の席に」

「なんだか変に緊張しちゃって」

カルテを見る。安藤さん。あ、同い年だ。

「安藤様。私、同い年ですから」

「えー。もっと年上かと」

「申し訳ありません。老け顔なんです」

お互いに笑い合った。

「いえ、綺麗な肌にメイクも素敵ですし」

「ありがとうございます。嬉しいです。お肌に触れますね。失礼致します」

全体的に乾燥している。部分的にかたくなっている。

「お肌のお悩みはございますか?」

「仕事上、どうしても乾燥してしまって」

「そうですよね。スキンケアの見直しから始めましょうか」

「お願いします」

スキンケア製品の見本を並べ、スキンケアがベースメイクに繋がる旨を説明していく。

「私も1年中、乾燥肌なんです。顔も身体も」

ローション、コットン、乳液、角質ケアの美容液、肌がふっくらする美容液、クリーム。それと、水分補給パックを。

「あと、メイク直しがなかなかできないと前回いらした時にお伺いしておりますが」

「そうなんです。乾燥が気になるのですが、Tゾーンはたまに油分が気になっていて」

Tゾーン専用の崩れ防止も紹介する。

「こちらはメイク前はもちろん、メイクの上からもお使いいただけます」

下地も紹介し、新製品のメイクとファンデーションも紹介する。

「今はどれを使っていますか?」

「ハイライトをアイシャドウのベースにも使っていまして。こちらのグリーンと下瞼にピンクのアイシャドウを。赤のアイペンシルとリキッドライナー、淡いピンクのリップです。ファンデーションは新製品の製品になります」

「アイシャドウもリップも薄付きですね。あ、なるほど。アイペンシルとリキッドライナーを重ねると崩れにくいんですね。ファンデーション、艶があり、でも乾燥しにくい、か」

「はい、アイシャドウやリップは重ねていけば濃くなりますから、アイシャドウのグラデーションは簡単にお使いできますよ。リップも薄付きなので、他のリップに重ねたり、単独で重ねる回数を加減できますから」

「カラー、迷いますね。ハイライトは便利そうなので、決まり。淡いグリーンと淡いパープル、リップは赤とベージュと淡いピンク。あとはリキッドファンデーションとパウダーファンデーションを予約お願いします。あと…アイペンシルとリキッドライナーは、ネイビーと赤も綺麗ですね。ゴールドもお願いします」

「かしこまりました。ご用意致しますね。眉、とても綺麗に立体感がありますね。チークもとてもお似合いです」

「前回、購入してから、すごくメイクを褒められるようになりました。ありがとうございます」

「とんでもないです。安藤様が丁寧に、メイクを楽しんでいらっしゃることが私も嬉しいです。スキンケアはいかがなさいますか?」

「スキンケアも揃えたいのでお願いします」

「かしこまりました。ご準備致しますね。先にお会計を失礼致します」

また素早く会計し、バックヤードで予約チケットとサンプルをスキンケアすべて3日分。新製品のファンデーションとオリジナルポーチも。

「お待たせ致しました。こちらがサンプルになりますね」

サンプルを丁寧に説明し、ファンデーションのサンプルも沢山入れ、オリジナルポーチも。袋にバランス良く製品を入れて、サンプルやポーチも。リーフレットも入れた。予約チケットに書き込み、チケットを直接お渡しする。ショッパーに入れ、お見送りする。

「重いのでお気をつけてください。スキンケアもどうか楽しんでいただければ幸いです。来月、またお待ちしております。ありがとうございました」

「こちらこそ。また伺いますね」

「はい。ご相談だけでも、サンプルのご用意がありますので、お気軽にお越しください」

丁寧にお辞儀をする。

その日から、メイク製品の予約、ファンデーションの予約が多かった。

どうにかファンデの予約が全体的に多くなりますよう。


 全体にも個人的にも、メイク製品、ファンデーションの予約がかなり増えつつあり。スキンケアや普段のメイク製品もリピが増えた。

このまま年度末まで。たぶん、3月は予約の受け渡しやスキンケアの見直しで忙しくなる。上手く売上げに繋げたい。


約束の22日。

彼と少し綺麗な格好にし、彼はセルジオロッシの皮のスリッポンに。

「これで大丈夫かな?」

「うん。今日、カシミアのポールスミスにしたら?」

「そのつもり」

私もきちんとメイクをし、ティファニーの指輪を重ねた。ピアスも2つずつ。

両耳が見えるように、髪の毛をきちんとかけた。

彼の車で父と母を迎えに行く。

「こんにちは。後ろで大丈夫ですか?」

「あ、助手席、変わる?」

「ううん、大丈夫だよ。忙しい時期に悪いね」

「まぁ休みだしね。早めに終わらせて、早めに帰ろう。あれ?お姉ちゃんは?」

「うん、まぁ相続だから」

「なんかさー、こんなに急がなくても。急がなきゃダメなの?」

「尚孝が。喪中なのに、来月、式と披露宴やるって。おばあちゃんが反対してるにも関わらず」

「はー。んーなんか見えてきたねー。おじいちゃんの財産目当てか。だって、結納も婚約指輪もおばあちゃんのお金でしょ。尚孝くん、私より2年先に社会人だよ。貯めてなかったのかなー」

「ま、貯めてなかったわよね、きっと。どうやって生活するのかしら?そこも聞かないとね」

「私さ、通夜も告別式も我慢したからなー。言いたいこと言わせてもらうよ。お父さん、良いよね?」

「うん、まぁ同じ意見だしね」

「場所、ホテルだっけ?」

彼が高速でいきますね、と言う。

「うん、ありがとう。で、そのホテルって.まさか式と披露宴するホテル?」

「そう」

「じゃあラクだね。キャンセル、すぐできるよ。キャンセル料、きちんと払ってもらって」

「あなたたちは?来年?」

「んー…式だけだな、やるとしても。あとは食事会。共通の友達がパーティー開いてくれるし。式と食事会、食事会とパーティーのお返し、結婚指輪。あとはドレスと小物類か。それがタイミング良く、こんな、忙しい時期じゃなくて。あとは、お金だな」

「お金なら、出せるよ、今すぐでも。ま、今年はやめような。喪中だし」

「ね、お父さんとお母さん。籍だけ先に入れても大丈夫?」

「うん。それは構わないわ。ね、お父さん」

「そうだね。籍だけ先に入れるのは問題ないし。式とかは繁忙期以外の時に」

「あつー、聞こえた?だって」

「うん、籍入れるのも来年にしようか」

「なんかわかりやすい日が良いね」

「うーん…難しいな。付き合い長いから、記念日とか意識してないもんな」

「そう。お互い、誕生日くらいだけだもんね」

「あ、ここのホテルで合ってますから?」

「そう、ありがとう」

「おばあちゃんは?」

「兄貴が乗せてくるって」

「ふーん」

4人でホテルに入り、名前を告げると、ホテルの1室に案内された。

「こんにちは。おばあちゃん、大丈夫?ちゃんと食べてる?眠れてる?」

「ばあちゃんは大丈夫だよ。敦くんも来てくれて、ありがとうね」

「いえ。お身体お変わりないですか?」

「うん、ばあちゃんね、孫みたいに思ってるよ。じいちゃんの世話もありがとうね、本当に」

おばあちゃんは、私たち側に座った。

テーブルに向き合うように。

尚孝くんの婚約者もいた。

おばあちゃんが

「これ、銀行に」

ATMのことだ。

父に伝えて、私がホテルの中のATMで印刷してきた。

やっぱり。

すでに誰かが引き出している。

おばあちゃんはそれを確認したかったんだ。

「はい、お待たせ」

それぞれ飲み物を注文する。

叔父さん夫婦に向かって彼を紹介した。

「じいちゃんの面倒も見てもらって。なにもまだ返してなくて、すみません。ありがとうございました」

「あの、私も彼も自分たちがやりたくてやっていたことですから。お返しなどは不要です」

まず、ピシャリと伝えた。

「ばあちゃんは、土地の名義、弟のほうにしたいんだよ。良い?」

「おれは構わないけど兄貴は?」

「うん、良いよ」

「ちょっと、通帳見てもらっていい?」

おばあちゃんが言う。

私は席を立ち、祖父の通帳を見た。

生きている時に見せてもらっていた、と父に話す。

で、ここ。500万、引かれてるけど、誰?

「兄貴さ、亡くなった後に引き出した?」

「…うん。式と披露宴代を…」

「それ、余計にダメだよ。娘と敦くんは、大卒1年目で、もう一緒に生活してるんだよ。車もマンションも家具も家電製品も、全部自分たちの貯めたお金だよ。尚孝と婚約者の方、全部出してもらって、どうやって生活していくの?式やって披露宴やって、その先は2人でどう生活するの?遺産あてにしてるの?」

父が言う。続いて私も。

「ホントにさー。尚孝くんも婚約者の方も、おばあちゃんに結納金も婚約指輪代ももらって。それ、恥ずかしいことだよ。ね、2人とも、私と彼より、ずっと先に社会人になってるよね?実家暮らしだよね?経済的にどうしてんの?ものすごーく、不快だし、違和感だらけだよ」

「ほら、ばあちゃんが言ったとおりだよ」

「尚孝くん。答えなよ」

苛々し過ぎて、足を組み、煙草に火をつける。

怒りがおさまらない。

「まだ、住むところは決めてなくて。ばあちゃんのところ広いし、ばあちゃんの家かなって。仕事はIT企業立ち上げようか迷ってるところ」

「企業立ち上げるのは自由だよ。立ち上げる資金は?」

「それは…まだ決まってなくて」

「はい、終了。お父さん、決まりだね。叔父さん夫婦もご理解できますよね」

アイスミルクティーのお代わりをお願いする。

「式も披露宴もぜーんぶ、自分たちのお金でやんなよ。現状を披露宴でぜーんぶ話して良いなら、勝手にすれば?正直、親戚は誰1人、心の底からお祝いしないよ。おじいちゃんになにもしてないって知られてるからね」

「えっ、そうなの?いつ言われたの?」

煙草の灰をテーブルに尚孝くんが落とした。

おばあちゃんも彼も叔父さんも煙草に火をつけ出した。

「告別式、終わった後。ね、そうだったよね」

父と彼が頷く。

「早く決めよう。尚孝くん、この状況で式と披露宴、やる?」

「だよね。おばあちゃんにお金をまず返して。自分たちでお金貯めなきゃね。時期的にも…」

「なんで、そんなに急ぐの?」

「彼女が…早く結婚したいって」

「それだけ?」

「ホント、それだけ」

「じゃあ200万だよね。結納金と婚約指輪代」

「うん」

ミュウミュウのバッグから、用意していた、誓約書に記載してもらい、印鑑の代わりに母印を押してもらう。3枚。

「はい、あとは?株は?現金以外には、あと株だけだよね」

「株はばあちゃんに任せて欲しい」

父も叔父さんも頷いていた。

「で、現金。とりあえず…叔父さん夫婦が500万もう引き出したから。6000万のうち、半分の3000万がおばあちゃん。遺言書なかったから、話し合いだもんね。

で、本来なら、父と叔父さんで1500万ずつだけど…父が2000万。叔父さんが1000万。はい、これで分配終了。不満がある人?」

「はい」

尚孝くんの婚約者だ。

「私の両親と親戚には誰が説明するんですか?」

どんだけお花畑なんだよ。

「ちょっと。おじいちゃんが亡くなったこと、伝えてって話したよね。延期になるかもってことも話したよ」

「私だけが自分で説明するの?尚孝は一緒に説明しないの?」

その場にいた全員が、はー、という顔をしている。

「この話は、こっちでまとめるから」

「叔父さん、叔母さん。尚孝くんの相手…どうなんでしょうね。おばあちゃんも亡くなったおじいちゃんも、イヤがってましたけど」

「どういう意味?」

私はスルーした。

「あとさ、おばあちゃん、あの広い家に1人暮らしで大丈夫かな?私、それが心配」

「ばあちゃんなら大丈夫だよ」

「でも、実際に布団干しは重いでしょう」

「それなら、自分がやります。おばあちゃんちにマメに通って。借金している分、おじいちゃんに何も世話しなかった分、おばあちゃんにきちんと気持ちを込めて家事などやります」

「約束できる?」

「うん」

「はい、じゃあ誓約書」

またバッグから取り出す。

「はっきりきちんと伝えておくね。おばあちゃんのお金に手をつけないでね。借金が増えるだけだから。あと、お年寄りの1人暮らしに売付けとか来るし、それこそ、おばあちゃんちには銀行関係者がよく来るから。そこも上手くかわしてね」

「もちろん。アドバイスありがとう」

「ううん。今は私も彼も繁忙期でかなり忙しいから、なかなか難しいけど。落ち着いたら、なるべく私も彼も行くようにするから」

「週末なら、お母さんと一緒に行けるから。2人は少しゆっくりして」

「お父さん、ありがとう。そうだね。毎回の休みは無理だけど…2ヵ月に1度くらいなら、ね」

「うん。僕も一緒に、な」

「ばあちゃん、早くこの2人には結婚して欲しいよ。じいちゃんも喜ぶよ」

「まぁ、タイミングが良い時にね。話し合い、終了で良い?」

尚孝くんの婚約者以外は頷いた。

「じゃあ、どうする?帰る?」

叔父さんが

「ちょっと早いけど、お昼ご飯、食べて行こう。お返しじゃないけど…好きな物頼んでよ。申し訳なくて」

「叔父さん。申し訳ないなんて思わないでください。父も母も私も彼も。おじいちゃんを大切にしたかっただけです。私こそ、おじいちゃんに何も…何も返せなくて。ずっとずっと優しくしてもらって可愛がってもらったのに…」

「じいちゃん、喜んでたから。敦くんのことも」

「うん」

彼が、大丈夫?と聞いてきた。

お昼ご飯前だけど、洗面所に行き、涙で滲んだメイクを直し、薬を飲んだ。

「叔父さん、ご馳走様でした。おばあちゃん、送っていきますね。あと、おじいちゃんの仏壇にお供えをお願いします」

車に置いていた餡子の最中を渡す。

「わざわざありがとう。また遊びにおいでね。待ってるから。敦くんも一緒に」

「はい、ありがとうございます。ご馳走様でした」

駐車場で別れ、祖母を助手席に。

すぐ着いた。

「おれ、布団干しちゃうね。シーツとパジャマ、枕カバーは洗っちゃう。乾くの早いよ」

「うん、お願い。ありがとう」

私は車に置いていた餡子の最中とおばあちゃんへのプレゼントを。

まずはおじいちゃんの写真の前に、煙草と最中をお供えし、手を合わせる。

「相変わらず、気がきくな」

父が言う。

「はい、おばあちゃんにプレゼント。グリーンと紫が好きだったよね。開けてみて」

「ばあちゃんが好きなスカーフだよ。つけてみて良い?」

「うん。ちょっと、ここ切っちゃうね」

「これからの季節が楽しみだよ。お金使わせちゃって」

「全然。似合うよ。おばあちゃん、似合う」

「うん、素敵ですよ。お義母さん」

「上手いなー。プレゼント選び」

「だって、いつもスカーフしてるから」


青空に太陽が輝いている。

おじいちゃん、おばあちゃんをよろしくね。

まだまだ、私も彼とやっていくから。

空に向かって胸の中で祖父と会話をする。


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