日々は続いていくだろう
オートロックのマンションは、便利で不便だ。特に高層階になるにつれて。我が家は禁煙。煙草を吸うのは私だけ。いちいちエレベーターで1Fまで降りて外で一服するなんて、本当に本当に面倒なことだ。だから、角部屋をいいことに、自宅前のドアの奥に、蓋付き灰皿を置いて、そこが私の一服の場所になった。いや「なった」のではなく「した」。35歳を過ぎた大人のやることではないと、頭の中では理解しているつもりだ。だか、面倒なことには勝てやしない。面倒なことはしたくない。
大学を卒業する半年前、突然、電車に乗れなくなった。食事もバナナとヨーグルトしか食べられなくなった。体重は35キロまで落ちた。もともとは48キロあったのに、1カ月で13キロも体重は減った。
理由はわかっていた。
親や親戚から「大学院に行くんだよね」と言われ続け、私は絶望した。私には、選択肢がないのか、と。
すでに専門学校を卒業した私の姉は働いていたし、これ以上、経済的な負担をかけたくなかったから、必死に就職活動と卒論に没頭した。しかし、本音を言えば、大学院に行きたかった。私は小さな頃から、あれこれ考えすぎて、本音を言えない日々を送ってきた。
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電車の踏切の「カンカンカン」という音が聴こえるだけで、胸が心臓が苦しくなり、全身が震え、頭が痛く、踏切をハンマーで壊したくて仕方なかった。
震えた身体のまま、駅前の本屋で、月刊の健康雑誌を購入し、自宅まで走って帰った。
普段は飲めない、水道水をコップに沢山入れて、ゴクゴク飲んだ。ちなみに、普段はヴォルビックだ。自室で月刊の健康雑誌を開いて、隅から隅まで読んだ。まだ、20歳過ぎ程度の人間がこんなにも真剣に、健康雑誌を読んでいるだろうか?まぁ、それは良いとして、どうも私は「パニック障害」という、精神的な病気のようだった。また、身体が震えた。掌は汗と震えで、もう健康雑誌は読めなかった。壁に向けて、雑誌を思いっきり投げつけた。
私か精神病だと?
20年以上、本音を言わずに生活してきた私が?
顔立ちと同じく、性格もキツイと言われてきたのに?
ふざけんな。
大きな声で叫びたかった。
ベッドで横になりながら涙をながして、タウンページで歩いていける心療内科を探した。
女医さんがいいのか?こっちのほうがいいのか?もっと大きな病院がいいのか?
またも得意な、あれこれ悩んで、とにかく自宅から1番近所の心療内科に予約の電話をした。
そう。私は見た目より、真面目すぎるのだ。
面倒でも、最終的には、真面目なほうを自然と選択してしまうのだ。