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  作者: ひじきとコロッケ
宇宙へ
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旅立ち

「外気圏を超えました」


 ナオが告げる。


「ついに宇宙に来たわ!」


 シオンが興奮をあらわにするが、レバーを持ったままでは、動きがダイレクトに船体に伝わるので揺れがひどい。


「航路確認」

「確認しました。上に三度、右に二度修正」

「了解」

「修正確認しました。自動航行に切り替えます」


 ナオがいくつかスイッチを操作したところでシオンもようやく操縦レバーから手を離せるようになった。自動航行は大気圏内でも使いたかったが、風や気温などの要因が多すぎて、断念。しかしさすがに何十時間も操縦レバーを握りっぱなしはきついので、宇宙では使えるように間に合わせていた。


「ふう」

「シオン、落ち着いたところで申し訳ないけど、色々説明してほしいな」

「おっけ、いいわよ」


 と椅子を回転させてリサの方を向く。


「んーと、五年くらい前のことね。当時住んでいた町の近くの山に隕石が落ちてきたの」


 リサ同様、シオンもそれほど戦闘のひどくないところで暮らしていたのだが、隕石にはさすがに驚いた。そして、好奇心から、その隕石を探してみよう、と山へ向かったのだ。


「結構大きなクレーターが出来ていたわ」


 AI軍も流れ星は自然現象だから調査に来ることもない。


「で、ただの隕石じゃなかったのよ」

「何だったの?」

「よくわからない材質で出来た、カプセル、とでも言えばいいのかな。一応格納庫に積んであるわよ」

「それで?」

「明らかに人工的な物でね、あからさまに怪しいスイッチがあったから押してみたら、パカッと開いたの」

「それで?」

「中に設計図が入ってたのよ」

「設計図?」

「そう。この宇宙船の動力系――重力制御式の推進ユニットの設計図」

「うさんくさいなあ」

「本当よ、ほらこれ」


 と、キーボードのついたパネルを引き寄せて操作すると、モニターの一つに図面が表示される。


「なんて書いてあるの?」


 見たこともない文字にリサは率直な意見を述べる。


「知らない」

「知らないって、そんな」

「同じ図面で違う文字が書かれている物がたくさんあってね。一つだけ、地球で使われている言語だったのよ」

「ちなみに何語?」

「ドイツ語……苦手なのよね」

「で?」

「他にも色々書かれた物が入っていたわ」

「色々?」

「訳した物がこれ」


 と、モニターに映し出す。


 この文章を読む者へ。この文章を理解し、設計図に書かれた機械を構築でき、さらに他の文明への接触を望む者は我々の用意するワープゲートを通じてこちらへ来ると良い。あらゆる可能性を提供しよう。


 そしてさらに下に色々と数字の羅列がある。


「んー、つまりこれは……」

「はるか宇宙の彼方の高度な文明からのお誘い」

「あらゆる可能性ってのが」

「赤死病の薬が開発できるかも、って勝手に考えた」

「こっちの数字は?」

「『ワープゲート』の開く日程。数式の意味もかいてあったから、苦労して計算したのよ」

「それで?」

「試しに設計図通りに推進ユニットを一個作ってみたのよ。で、試運転したらちゃんと推進力が得られたし、嘘はないな、と」

「それで全体を造ってみたって訳ね」

「そういうこと」

「それにしても、薬の開発なんて出来るの?」

「これでも一応医療従事者よ。医大も出てるし」

「そうなの?!」

「ま、臨床経験無しの研究専門。薬学とかは専門じゃないけど、医に関わる者としては可能性に賭けてみたくてね」

「薬の専門家を連れてくるという選択肢は?」

「医学部時代の友人には声かけたけど、『今』が忙しいから無理だって、断られちゃった」

「戦争中だもんね」

「無事にこのワープゲートを抜けられるかもわからないし、その先で薬を開発できるかもわからない。いつ戻れるかもわからない。現場で動ける医者を連れて行くのはさすがにね」


「さて」とシオンが立ち上がる。


「船内、案内するわ。リサの部屋も一応あるし」

「わかった」

「ナオ、何かあったら呼んで」

「はい」


 メーターの確認を続けるナオを残し、操縦室から出る。

 通路の右側、つまり宇宙船の左側には乗降用タラップが折りたたまれている。反対側には、扉が四つ並んでいる。


「手前から私、ナオの部屋。リサは三番目の部屋を使って。一番後ろはトイレ。部屋は狭いけど我慢。扉の間隔が違うけど、広さはほとんど同じよ」

「ほとんど?」

「構造上の誤差レベル」

「了解」


 突き当たりの扉を開けるとさらに左右に扉。奥に階段。


「左はシャワー室。右は厨房。ちなみに厨房といっても、シンクと電子レンジくらいしかないわ。どうせ携帯食料くらいだし」

「シャワーはありがたいわ」

「あと、階段下りた先の格納庫は知ってるわよね?」

「うん、知ってる」

「食事の時間は特に決めてないから、格納庫から適当に持ってきて食べて。賞味期限の近い順に出してね」

「階段下りて手前から、ね」

「あとは床とか天井に作業用のハッチがあるけど、開けないで。普通に感電死するレベルのケーブルがあって、しかも楽には死ねないから」

「わかった」


 返事を確認すると、シオンはリサ用の部屋の扉を開ける。


「簡易ベッドと椅子位しかないけど、そこも我慢。一応電子書籍を持ち込んでるから暇つぶしに読むのは自由よ。あと、壁のスイッチで船内スピーカーに声を送れるから、何かあったらそれで」

「意外にいろいろ用意してるのね」

「ただ、鍵はかからないから。この船でプライバシーなんて期待しないこと」

「大丈夫よ」

「じゃ、ごゆっくり~」


 手をひらひら振りながらシオンが出ていく。

 ごゆっくり、と言われたが、何もすることはない。部屋の中にあるのはベッドと椅子、天井の明かりくらいで窓すらない。操縦室に戻るか。あそこなら外の様子が見える、月とか火星とか見えるかな。


 操縦室に入ると、シオンとナオが相変わらず何かのチェックをしていた。邪魔をしないように隅の椅子に座り、モニターに映る外の様子を眺めていた。どの辺を飛んでいるのかわからないが、星は綺麗に見えるだろう。


「よし」


 チェックが終わったのか、シオンが顔を上げ、伸びをする。話しかけても大丈夫だろう。


「あのさ、ゲートってどのくらいで着くの?」

「予定だとあと四十二時間くらい。ゲートが開くのが四十時間後で、八時間開いてるらしいわ」

「ふーん、ねえ、火星とか木星とかの近く、通るの?」

「んーと、予定だと……土星の近くを通るわね。輪がよく見えると思うわ」


 よし、少し楽しみになってきた。

 モニター越しの星空をボーッと眺めていると、ナオの方も終わったようだ。


「少し部屋にいます」

「おっけ、お疲れー」


 シオンが椅子の上でぐでーっと伸びをしながら手をひらひら振って見送る。


「宇宙船の設計図を送ってきた文明って、何考えてるんだろうね?」


 リサがふと呟いた。


「何って……うーん、文明レベルが違いすぎるから憶測だけど」

「うん」

「多様性の確保」

「多様性?」

「そう。多様性。文明の発達って、結局はある一点に絞って尖っていく傾向がある。私はそう思うの」

「もう少しわかりやすく」

「イギリスの産業革命って、蒸気機関の発達で一気に工業化・大量生産が進んだでしょう?」

「それは知ってる」

「その結果何が生まれたかというと」

「な、何?」

「ウナギのゼリー寄せ」

「マジで?」


 あれが、産業革命の成果?


「料理する余裕がなくなったとか、料理自体をしなくなったとか色々説があるらしいけど、産業革命以前には結構いろいろな料理があって、個性的な味だけどおいしかったらしいわ。でも、産業革命の中心である紡績とか鉄鋼とかに尖っていった結果、料理のパラメータがマイナスになった、と言う説があるの」

「つまり、この文明も『尖り過ぎちゃったから、ちょっと古い別の文明を取り入れてみようかな』って、考えたと?」

「そういうこと。ま、行ってみないと何もわからないけどね」


 太陽系にそれなりの文明があることを知っていて、物を送りつけたり出来る。その上、ワープゲートとか言う、おそらく遠距離移動のための手段を気軽に設置して稼働させる。文明レベルとしては千年どころか数万年以上進んでいるとみてもいいだろう。それだけ進んでいれば、薬の研究なんて、とシオンは考えていた。


「さてと、実は朝から何も食べてないから、何かつまんでくるわ」

「忙しそうだったもんね」

「まあね。じゃ、ちょっと外すけど、スイッチに触っちゃダメよ。いろいろな機能がついてるから」

「さすがにやらないわよ。自殺行為だし」


 クスクスと笑いながらシオンは出ていった。一人になり、リサは改めて椅子の位置を動かして正面のモニターの前に陣取った。一番大きなモニターで、外の様子がよく見える。少しくらい太陽系の中を移動しても、星座の形は変わらない。正面に見えるのは……おお!もしかしてさそり座?なんかちょっと感激だ。左右のモニターもじっくり眺めるとそこそこ楽しめる。もっと星座のこと勉強しておけば、と後悔するが仕方ない。


 そんな感じで眺めていたら、いきなり船体にガクン、という衝撃が走り、操縦室内にブザーが鳴り響いた。


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