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  作者: ひじきとコロッケ
惑星ドルト
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惑星ドルト

「案外殺風景なところね」


 第十七研究センターはドルトのステーションから見て反対側の、周囲にこれといった物が見当たらない荒野のど真ん中にあった。ここまで来る間に地上を見ていたが、大きな都市も見えたのでこんなところへ案内されたのが不思議にも感じる。


「変な感染症持ち込まれたりした時に封鎖しやすくするためかしらね」

「なるほど」


 そんな話をしながら着陸態勢に入る。


「よく考えたら、着陸って初めてやるのよ」

「え?」


 地球を出るときはぶっつけ本番で飛ばしているから着陸のことを考えたことは無い。そして、宇宙に出てからはターミナルやステーションには立ち寄るが、惑星に降りたことは一度も無い。


「知ってる?飛行機事故の七割は離陸の三分と着陸の八分に集中してるって」

「やめてー!」


 いわゆる魔の十一分という奴だが、これって宇宙船にも当てはまるのだろうか?気にしても仕方ないと、着陸……つまり大気圏突入に向けて準備を進める。


「着陸のための数値、届きました」


 ナオが手早くキーを操作し、情報をシオンの近くのモニターへ送る。


「へえ……重力は地球の五%増し、大気成分はほぼ同じ、アルゴンの濃度がちょっと少ないくらい?」

「この程度ならば酸素濃度も問題ありませんね」


 ちょっとだけ薄いが、少し高い山に登ったという程度と考えれば大丈夫だろう。


「では……大気圏突入ルートは、と……」

「計算済みです。三パターン用意していますが」

「さすがのお手並み、全部見るわ」

「こちらを」


 別のモニターに三つのコースが表示される。どれもそれほど違いは無いようだが……


「ナオのおすすめは一つ目よね?」

「はい」


 いくつものパターンが選択出来る場合、ナオはその中で低コスト、高効率の選択肢を三つ選ぶ。そして、最初の一つ目が一番良いと判断した物になると、シオンは理解していた。付き合いの長さという奴である。


「じゃ、それで行きましょう」


 ナオが一つ目のコースをセットしていく。


「さ、行くわよ……二人とも、ベルト締めた?」

「「はい」」

「では、予定コースに沿って、大気圏突入を開始」


 シオンがスイッチを押すと、軽く宇宙船が揺れて自動的に速度と針路が調整されていく。


「大気圏突入開始まであと三十秒」


 シオンが、脇の小さいモニターに地上の第十七研究センターを表示する。まあ、意味は無い。気分的に表示しておきたいだけだ。


「突入開始!」


 ガクンと大きめに揺れると、モニター越しでもわかるほどに高度が落ちていく。まだ空気の薄い高度のため、何の抵抗もなくぐんぐん落ちていく。


「ふわぁ……って、あまり揺れませんね」

「もうすぐよ……ほら、少しずつ揺れ始めた」

「あの」

「何かしら?」

「何かで見たんですけど、こういうときって大気との摩擦ですごい高温になるとか」

「平気よ」

「え?」

「宇宙空間で結構恒星の近く飛んでたでしょ?あの温度に比べればマシよ」

「それと、バリアも展開していますから」


 さすがにシオンの説明では不安と、ナオもフォローを入れる。


「バリア……あ、そうか。エネルギー供給だけで維持されるから、熱を受けても」

修復される(気にしなくていい)、というわけ。多少揺れるけどね」


 揺れを抑えるコースもあるのだが、燃料消費が倍以上になる癖に、多少揺れが少なくなるという程度なので、ナオは最初から選択肢から外していた。


「さて、そろそろもう少し揺れるわ。舌噛まないようにね」

「んぐ」


 シオンの言葉通り、さらに揺れが大きくなる。しかし、想定通りのことなのでシオンもナオも慌てていないので、リサも椅子にしっかり掴まって耐える。少しベルトが緩かったかなとちょっと後悔しながら。


 やがて揺れが収まってきたところで、ナオが告げる。


「高度一万メートル。機首下げ」

「機首下げ……よし」


 全て自動であるが、状況確認は大事だ。


「船体温度正常」

「機関出力良し、バリア出力二十%に」


「仰角十度」

「了解。人工重力オフ」


 ヴン……と言う音がして、少しだけ体が重く感じる。


「これと、これも……よし、と。ナオ、そっちは?」

「問題ありません。到着まであと三分二十秒」

「予定通りね……リサ、もう口を開けても大丈夫よ?」

「ぷはぁ……」

「力入れすぎ。そこまでしなくてもいいのに」

「そ、それはそうですけど」


 たはは、と苦笑い。


「誘導信号、再受信しました」

「おっけ。軌道修正は?」

「わずかですが、風の影響が。左へ修正します」


 やがて、正面のモニターに第十七研究センターの宇宙船発着所が見えてきた。


「減速開始、対地速度三百キロまで減速します」

「着陸までは……あと一分」


 二人とも口に出しはするが、今のところ全部自動である。


「さらに減速。静止まであと二十秒」

「高度三百メートル、と」


 着陸と言っても、飛行機のように滑走路に降りて地上を走ったりはしない。重力制御システムを利用して、空中に一旦停止して、地上へ垂直に降下していく。ごく一部を除けばほとんどの宇宙船がこのような形で着陸する。ホバリングも出来るような宇宙船で滑走するなんて発想はない。


「着陸、と」

「無事に着きましたね」

「ええ。ナオ、念のため大気組成チェック」

「了解しました……通信が入っています。そちらの対応を」

「おっけ」


 コンソールを繋ぎ、通信に応える。


「こちら第十七研究センターです。先ほどステーションから連絡いただいた……」

「はい、そうです」


 トラベラーズの登録番号を伝えて、確認をしてもらう。


「確認しました。地下へ格納しますので、そのままお待ちください」

「わかりました」


 外に出てテクテク歩くことはなさそうで助かる。何しろ、大気の組成は問題ないが、外気温が五十度を超えている。砂漠も真っ青な温度の中は歩きたくない。


 やがて、宇宙船の周囲が丸ごと地下へ降り始め、数十メートル潜ったところで横へスライドしていくと、宇宙船一つがちょうど収まる程度の広さの格納庫で止まった。


「案内その他ありますので、降りてきてください」

「はい」


 通信を切ると、振り向いて二人に告げる。


「行きましょ」

「「はい」」


 こうして三人は惑星ドルトに降り立った。

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