再開
「本当ですか?」
「ええ」
「ありがとうございます!」
ステーションで聞いた情報をシオンはすぐに二人に伝える。
「リサ、ナオ!定期便再開だって!」
「やりましたね!」
「早速向かいましょう」
あれから二週間。細かい仕事をちまちまとこなしながら、待ち続けた。これで次の銀河系へ渡れる。
「所要日数、五日間だって」
「地球からアンドロメダよりも近いのね」
地球からは一切観測できない銀河系。各自の母星から観測できない銀河系に関しては命名権が最初の渡航者に与えられる。
「と言うことで、どういう名前を付けるか考えましょ」
「名前かあ」
「どんなのが良いかしらね……」
「アンドロメダって、人の名前でしたっけ?」
「神話に出てくる女性の名前ね」
「人名……んーと」
「私の名前は却下だからね?」
「心が読まれてる?!」
「当たり前です」
「んーと、じゃあM七八「却下」
「何で?!」
「それ、実在するから。地球から観測できるから」
ちなみにオリオン座にある星雲である。
「ま、ゆっくり考えましょ」
「はーい」
定期船の港までは二日。渡航費用もなんとか集まっている。順調に行きたい、と声に出したいが我慢した。うん、フラグが怖い。
港まで順調に進み、搭乗手続きを済ませるとあとは出港を待つだけである。
「何度見てもデカいけど……武装が増えてる感じ?」
「ですねぇ」
テロリストが乗客の中に紛れ込んで来るならば搭乗時にチェックで良いが、ゲートの途中で待ち構えてくるのでは武装して迎撃するしかない。
「……気にしないことにしましょ」
「そうですね」
定期船は予定通りに出港し、順調に航海を続けている。予定ではあと二日で到着と言うところまで進んできたが、ある意味一番緊張するあたりである。
「リサ、絶対に言っちゃダメだからね」
「言いませんよ」
なんとか無事に着けそうですね、なんてとても言えない。
「それはそれとして、向こうに着いてからのこと、決めるわよ」
「はい」
「基本的には今までと同じ。ただし、目的とする星があるから、そこをを目指す」
出来ればもう一つの星には行きたくない。さらに遠くの銀河になるので、時間も費用もかかりすぎる。
「やっぱり、短距離の仕事を繰り返しながら行くんですか?」
「んー、それがね……」
コンソールの内容を全員に見せる。
「目的の星……発音的にはドルトが近いからそれで登録しちゃったんだけど、結構ドルトまでの輸送依頼が多いのよ」
「へえ」
「結構発展してる星らしいから、いきなり行っちゃうのもありかな?って。どうかな?」
シオンが二人の考えを確認する。
「いいんじゃ無いでしょうか」
ナオは賛成のようだ。
「私は反対です」
「理由を聞いてもいいかしら?」
「簡単ですよ。お金がないからです」
「……悲しいことにお金がないのはいつもの事よ?」
「そうじゃなくて」
仮にそのドルトという星に着いたとしても、薬の研究としてお金を要求されたらどうするのか?また、薬が出来るとしてもそれなりに時間はかかるはず。その間の滞在費は?世知辛い話ではあるが、世の中、金である。
「なるほどね。理由はわかったわ」
「それじゃ」
「そうね……」
シオンが続きを話そうとした時、宇宙船全体にドンッという衝撃が走った。
「……え?」
「マジですか……」
三人とも、イヤな予感しかしない、と言う反応をする。
「ナオ、通信を確認して。リサはシートに座ってベルトを」
「「はい」」
そう言うシオンもベルトを締める。まさかとは思うがまたゲート内で飛ぶのは避けたいところだが……これがフラグか。
「機関部で爆発事故、乗客は全員客室待機との指示が出ています」
「事故ね……」
シオンがダンッと操作パネルを叩く。
「人為的に引き起こすのは事故って言わないわよ!」
「あははは……」
「ナオ、いつでも発進できるようにチェックをお願い」
「了解しました」
「リサはナオに代わって船内放送の確認を」
「はーい」
ナオと共にチェックをしながらふと呟く。
「私たちがこれに乗ってることを知っててやってるのかしら?」
「だとしたら怖いですね」
「通常空間では逃げられる可能性があるから、定期船を待ち伏せしたとかいうパターンでしょうか」
「情報がどこかから漏れてる可能性があるわね……はあ」
「どうしたんですか?」
「情報が漏れてるかもって、警備隊に言えばいいって思ったんだけどさ……また会うって事かと思うと……」
「ああ……」
さすがに五度目は勘弁して欲しい。
「あ、でも」
「何?」
「あの警備隊、天の川銀河が活動区域らしいですから大丈夫ですよ、きっと」
「そう願いたいわ」
ズンッと振動が響く。
「状況は?」
「船内放送は何も来てませんね」
「シオン、船外の空気圧が低下しています」
「は?」
「どこかが破損したのではないかと」
「探せ……ないか」
前回の襲撃を教訓としたのか、広い空間をそのまま使っていた格納庫は宇宙船毎に隔壁が設けられ、互いの様子は見えなくなっている。それは同時に、格納庫のどこかが破損しても確認のしようが無いと言うことでもある。
「船内チェックは?」
「完了しています。問題なし」
「リサの方は?」
「客室に待機するようにとの指示がまた出ているだけですね」
「待機待機って、ずっと待機してるわよこっちは!」
「そうですねってうわああああ」
突然、ガクンと大きく揺れた。
「船外空気圧急激に低下」
「一体何がどうな……うわあああ」
揺れが大きく、長く続く。
「ここここのののかか感じっててててももしかかかしててて」
「リサ!舌、噛む、わよ」
言いたいことは何となくわかった。この変な感じは……ゲートの壁に突っ込んだ時の感じだ。まさかと思うが、この定期船丸ごとゲートの壁に激突したのだろうか。
ガクン、と大きく揺れる。
「これ……は……」
「おそらくですが、壁に突っ込んでしまったために戻ろうとしているのではないかと」
「いや、それダメでしょ?!」
ゲートの通路はかなり広いが、大型宇宙船が自由に舵を切れるほど広くはない。仮に、壁から戻るように舵を切り、うまく船首が中に戻れたとしても船尾がゲート内に戻る前に船首が再び壁にぶち当たる。何もないところならうまく操船出来るかも知れないが、ゲートの壁は色々と物理現象がおかしくなっているからまともに舵を切るなんて出来ないだろう。
「ナオ、あなたの考える正解は?」
「壁を突き抜けて外へ。おそらく一番安全かと」
「同意見ね……」
だが、どうすれば、と逡巡した瞬間、また大きく揺れた。
「わわわっ」
「今のは大きかったわね……仕方ない……ナオ」
「はい」
「機関始動するわ。着陸脚の固定フックの解除を」
「了解しました」
「リサ、ちょっと良い?」
「な、何でしょう?」
「こっち座って」
「へ?ってそこ操縦席……」
「いいから」
「は、はい」
リサと操縦席を代わり、ベルトで固定する。
「時間が無いから簡単に言うわ。このレバーが操縦桿。設定を細かめにしたからセンチ単位で動かせるわ」
「センチ単位……って、一体何を?」
「今からちょっとナオと外に出て作業をするわ。だけどこう揺れてると、宇宙船の安全確保も大事なの」
「……浮かせて待ってろ、と?」
「出来れば、搭乗用タラップを良い感じに通路に近づけてもらえると嬉しいな」
「はあ……わかりました。がんばります」




