襲撃と書いてまたかと読む
「ただいま」
「ただいまあ」
「お帰りなさい」
宇宙船に戻ると、各々の部屋へ。到着までの間、何か予定があるわけでもないのでそれぞれ好きに過ごすのだ。
「ただ乗ってるだけってのも暇ね」
シオンは特に何があるわけでも無い殺風景な部屋を見ながら呟く。ベッドの上に転がり、天井を見上げる。あと三日ちょっと。このところいろいろ忙しかったし、ゆっくりしよう。
「さて、次はこれね」
色々した処理した携帯食をいくつか持って厨房へ向かう。パン粉っぽい物をどうにか作れたので、とんかつでも作ってみようかなと考えている。豚肉の再現がポイントだ。
「さて、まずは……」
色々と試そうとしたとき、突然船内にアナウンスが響き渡った。
『緊急事態です。速やかに客室にお戻りください。緊急事態です。速やかに……』
慌てて厨房から飛び出して、操縦室へ向かう。途中でシオンと合流。
「な、何が?」
「知らないわよ!」
操縦室に飛び込むと、ナオがあれこれ操作していた。
「状況は?」
「格納庫内の宇宙船は出入り口を閉じるようにと指示が出ています。それから、可能な限りシートベルトを着用するようにと」
ナオの返事を待たずにシートに飛び乗り、ベルトに手をかける。
「他は?」
「わかりません。これ以上の情報が来ていません」
「ナオの予想は?」
「……フラグ回収かと」
「な゛っ……」
それは、シャレにならない。
ドン!と大きな音と共に少し揺れた。
「何?!」
「ナオ、船外カメラ」
「はい」
すぐに正面と左右の映像が映し出される。
正面にあるのは格納庫の巨大なドア。向こうに着いたらそのまま出られるようにと船首を外側に向けていたのだが……
「え?」
またしても、ドン!という衝撃。そして……ガクンと宇宙船が揺れる。
「な……?!」
「ドアが吹っ飛んだ!!」
大きな衝撃と共に穴が開き、その穴から外に吸い出されるように圧がかかり、ひしゃげるようにしてドアが飛んでいった。
ガキン、と言う音がして、宇宙船がゆっくりと前に進む。
「マズい、外に吸い出されてる!」
この状態で外と言うことはゲートの中。ここで放り出されたら自力でどちらかの銀河まで行かなければならないが、ほぼ中間地点と言うことはどちらに向かうとしても一ヶ月はかかる。燃料が持つかどうか、ギリギリだ。
「ナオ!機関始動!」
「機関、始動します!」
「船体制御システム起動……重力制御起動……それから……」
「機関始動しました。あと、レーダーも」
「おっけ。助かるわ……着陸脚は?」
「格納庫の床面の固定具破損。こちらの脚は無事なようです」
「げ……通信ケーブル繋がったままだ」
「外している余裕はありません!」
こうしている間にもズリズリと外に向かって進んでいる。
「動力接続。少しだけ浮上して後退するわ」
「周りの船も近づいてきています。気をつけて」
「レーダーの監視よろしく!……浮上」
ホンの一、二メートルだけ浮上し、少しずつ後ろに下がり、元々止まっていたあたりで静止。だが、格納庫内の空気が急速に吸い出されているせいで時折大きく揺れる。
「だいぶ吸い出されてるはずだけどまだ空気があるの?!」
「空調システムがフル稼働しているようです」
「無駄遣いか!!」
「シオン、もう少し上昇」
「了解!」
上昇させた直後、左右から滑り込んできた宇宙船同士が衝突する。
「うっわ」
「対応できているのは我々の船だけのようですね」
「修理費用とか、想像したくない状況ね」
多分、飛べなくなっている物も多いのでは無いだろうか。火災になっていないだけ幸いかも知れない。
ちょうど正面に大きく開かれた穴を見た瞬間、とてもイヤな予感がしてシオンは一気に操縦桿を左に切った。
「ちょっ……うわっ」
リサの抗議を無視した次の瞬間。扉が大爆発を起こした。いや、正確には外で何かが爆発して、粉々になったのだ。
「ギリギリセーフ」
さっきまでの場所にいたらデカい破片が直撃していただろう。もちろん今は他の宇宙船に突き刺さっている。かわいそうだが、今は自分で精一杯だ。
グン、と前に引き寄せられる。
「く……マズい」
今ので、格納庫と客室を繋ぐ通路のドアが壊れ、そこら中に空気の流れが出来てしまい、格納庫内は乱気流のような状態に。既に何隻かの船は外に流されて行ってしまっている。
「船内アナウンス、文字情報で受信。現在、武装集団による襲撃を受けているそうです」
「何よ、武装集団って」
「例のターミナル爆破をした連中と同じテロ組織のようです」
「うがー!あいつらか!」
だが、どうすることも出来ない。
「続きが来ました。本船は速度を落とし、迎撃を開始します、と」
「速度上げて振り切れよ!」
「向こうは小型の高速船のようです……あの一人乗りタイプの」
「そんなモンに乗ってるから精神いかれるんだって理解しろ!」
「あれ、ストレスしかたまりませんよね」
ひとしきり騒いだが、さてどうするか。
「ナオ、こちらから送信」
「はい」
「格納庫内が安定しないため、船外へ出ます。他の格納庫への収容を、と」
「……送りました……」
「……どうかな……」
「……了解が来ました……」
「おっけ。では外へ出るわ」
「通信ケーブルちぎれちゃいますけど、あとで請求されませんかね?」
「リサ……どう見ても格納庫のこの惨状の方が被害額が大きいわ」
「ですよねー」
若干の抵抗の後、ブチンと切れた感触、そして少しだけ揺れた後、姿勢が安定する。
「よし、出るわ。ナオ、レーダー監視」
「はい」
操縦桿を前に倒し、ゆっくりと外へ向かう。
「外へ出たら左、宇宙船の後方へ進んでください」
「おっけ」
「それと、前方……右側に影が三つ。ほぼ間違いなく」
「テロ組織ね」
一体何のためにこんなことをしているのかと問い詰めたい。
グンッと軽く加速して外へ出るとすぐに宇宙船の後方へ向かう。同時にナオから指示が飛ぶ。
「右……すぐに左、上に」
「ほいほいほいっと」
念のためにバリアを展開しているが、宇宙船のすぐそばを飛び回る関係でバリアの出力は控えめにしているので、攻撃を完全に防ぎきれないのだ。
時々バリアに当たった衝撃でガクン、と揺れるが今のところは問題なし。
「あそこ、ハッチが開いてます」
「飛び込むわ」
少し加速をかけた瞬間、いきなり目の前に小型船が飛び込んでくる
「うわっ」
慌てて舵を上に。
「!!もっと上に!!」
ナオの声のまま、さらに上に。
だが避けきれずに、ガツン、と下から突き上げるような衝撃。
「マズい!」
宇宙船から離れすぎ。一斉に砲撃がこちらに向けられる。
「バリア最大に!!」
「右へ!」
舵を一気に右へ切り、攻撃を避ける。
「……上に」
ナオにとっても苦渋の選択だった。これ以上に上に行ったら……ゲートの壁だ。宇宙船が巨大な分、ゲートの壁との距離が近いのだ。
なすすべ無く、シオンたちの宇宙船はゲートの壁へ突っ込んでいった。




