銀河の外へ
「では、一旦情報を整理しましょ」
ドリスから教わった、ちょっと役に立つ星の一つまで仕事をこなしながら到着するまで約一ヶ月。さしたるトラブルも無く到着できたのは良いことだと思う。ついでにいうと、ここのステーションはトラベラーが多く集まっていたので、情報交換――主にリサのコミュニケーション能力頼みだ――も多く行えていろいろとわかってきた。
「まずは、やや残念ですが……」
「私たちのいる天の川銀河には探している星は無いらしい、ですね」
「はい、リサさん正解。飴あげます」
「それ、この前興味本位で買ったすっごくマズい奴ですよね?」
「おいしくなるように加工してください」
「……わかりました」
「続いて」
「アンドロメダへ渡る方法ですね。大型定期船が就航していて、それに乗るのが一番、と」
「はい、ナオ正解、さすがね。正解したので、リサさんにまた飴進呈」
「なんだかよくわかりませんけど、ありがとうございます」
大型定期船といっても、銀河系同士を結ぶゲートを通るだけである。もちろんそのゲートを普通に通っても良いのだが、シオンたちの乗っている宇宙船でゲートを通るとしたら、計算上は二ヶ月半かかる。宇宙船が大きくなったと言っても、さすがに燃料や食料が保たない。しかも、大型宇宙船による移動ならば、およそ一週間で到着するというから、他の選択肢は無いと言えるだろう。
「では定期船を使う場合の問題は?」
「はい!」
「はい、リサさん」
「料金がアホみたいに高いこと、です」
「はい、飴進呈~」
渡航費用はおよそ百万宇宙ドル。しかも、自分たちの宇宙船に乗ったままで、定期船の客室などを利用しない一番安い費用でコレである。
「現在の手持ちが二十万宇宙ドル」
「定期船の港まで仕事しながら移動して、稼げるかどうかですね」
「ま、とにかく行くだけ行ってみましょ。もしかしたらキャンセルが出ててお安く、とかあるかも知れないし」
そうそう都合良く行くとは思えないが。
「ま、当面の目的地は決まったし、仕事選んで出発よ」
「はい」
シオンが手早くコンソールを操作して受ける仕事を選んでいく。宇宙船が大きくなった分、多くの仕事を一度に請けられるようになった。しかも速度も速くなっているので、期間の制限がある仕事も請けやすい。一方で、燃費が跳ね上がり、補給カードは既に使い切っているため、そこそこの報酬の仕事で無いと赤字になるので、痛し痒しだ。
荷物を積み終えて出発し、予定通りのゲートを通過。あとは自動航行で二日ほど、というところで、居住区にある食堂スペースでリサが披露するのは。
「頑張りました。アジの開き定食です!」
「この才能、他の方面に活かせなかったのかしら……」
「いいじゃ無いですか。料理の楽しさに目覚めちゃったんですから」
「これ、料理と言うより化学実験……」
「ささ、食べてください!」
言われるままに魚っぽくしたかたまりを一口。ダンッとテーブルを叩き、シオンがぷるぷると震える。
「え?あの?」
「……食感以外、アジの干物」
「食感かぁ……ちょっと難しいんですよね」
「……食感の分を引いて七十点」
「うわ、辛口ですね……料理の採点だけに」
現状、一番困っているのが食事である。幸いなことにステーションで購入できる固形食料が問題なく食べられるのだが、パサパサとして歯ごたえが無く、味も塩味や甘い味でも付いているならまだしも、ほぼ味がしないのでそのまま食べるのは精神衛生上よろしくない。そこで、リサが奮闘しているのだが……
「普通に地球で食べてた固形食とかに出来ないの?」
「そんな簡単なの、つまらないじゃ無いですか」
「簡単にできるの?!」
「出来ますよ。でも、食事って、人生にとってとても大事なんですよ。手間をかけられるときはかけましょうよ」
それは同意だが、手間のかけ方が尋常では無いのだよ。
「あ、あとその大根おろし、試してみてください」
「これ?」
「色が黒いのは諦めてください。醤油をかけてあると思って食べれば……」
「んー……!!」
「どうです?」
「……全国の大根農家が悲鳴を上げるかもね」
目隠しをしたら素人の舌では区別が付かない物がそこにあった。
一通り、味の確認を終えると普通に食事となる。ここ最近は平和だったので、毎回こんな感じ。食事の概念の無いナオが少し不憫に思えるが仕方ない。
「そう言えば、気になったんですけど」
「何?」
「ゲートって通過中に外の様子が見えないですよね?」
「見えないというか、真っ暗な空間だからね」
「アレって、トンネルみたいなものなんですよね?」
「一応そうだと聞いてるけど」
「って事は、壁があるんですよね」
「あるみたいね。ゲートに入ったら舵を切らないようにって言われてるから気にしたこと無いけど」
「壁にぶつかったら、グシャッてなったり、跳ね返ったりするんでしょうか?」
「さあ……さすがに試すわけに行かないし」
コンソールで調べても出てこないな。今度誰かに聞いてみよう。
「あ、あとですね」
「うん?」
「私たちがいる銀河からアンドロメダまで、光の速さでえっと……」
「約二百万年ね」
「そうです。すごく離れてますよね」
「そうね」
「間に何があるんですか?」
「は?」
「いえ、途中には何もないのかなって」
「んー、銀河って、星の密度が高い所って位置づけだから、その外側、つまり天の川銀河とアンドロメダの間にも星はあるわよ」
「そうなんだ」
「ただ、ねえ……」
「ただ?」
「ほぼ無い、と思っていいレベルよ」
「ありゃ」
「銀河って、結構な速度で移動してるから、そう言うはぐれものの星を取り込んじゃうらしいわ」
「取り込んじゃう?」
「トラベラーズの資料にも記載が無いから、地球の科学での推測だけど、銀河の中心にはブラックホールがあるのよ。その引力に吸い込まれたら……?」
「逃げられない、と」
「そう言うこと。ま、ぶっちゃけ銀河系の星全体がその引力が作り出す渦でグルグル回ってるようなものだけど」
「銀河の中心には行かないようにします」
「私も行きたくないわよ」
そんな話をしていたら、壁の通信機からコールがあった。
「定時連絡です。各部異常なし。順調です」
「おっけ、ありがとう」
軽く返事をして席を立つ。
「さて、ナオと交代するわ。リサはどうする?」
「食感の再現、頑張ります。一応アイデアはあと三つほどあるので」
「……期待してるわ」
ちなみに見た目以外の完全再現に成功したのはこの三日後である。




