後始末
通信は映像付きだった。さすがに通信越しならば宇宙服を着る必要も無いので、顔を直接見せている。見た感じは地球人によく似ているが、髪と瞳の色は緑。地球では普通に見かけない色だ。
「どうも、こんに
ブツン
「ひどいじゃないですか、通信をいきなり切るなん
ブツン
「あの、出来れば話を聞い
ブツン
「懲りないですね、ドリスさん」
「今度は切らないでくださいね」
「前向きに善処します」
「それ、あなたの星では『検討を放棄して何もしない』という意味ですよね?」
「よくご存じで。ではそういうことで」
「だから、切らないでください」
仕方ない、話を聞くか。
「まずは、今回の依頼、ありがとうございました」
「……そう言うお礼を聞く必要、ありませんよね?」
「いえ、それだけでは無いんです」
「へ?」
なんか話の方向がおかしい気がする。
「まず、多分想像できていたと思いますが、私は王族……王位継承権を持つ人間です」
「あ、そう」
ぶっちゃけ興味が無い。
「我々が元々住んでいた星は、数百年前、恒星の膨張に飲み込まれ、消滅しました。その前になんとか逃げ出すことが出来た者が、以前お会いしたあの星に移住して、小さな国を造って暮らしていました」
スケールの大きい話だが、よくある話らしい。宇宙は広いな。
「星の環境は我々に適合しているわけでは無いため、最近になって国内の意見が三つに分かれてきました。それで色々と問題になってるんです」
一つ目は現状維持。環境が合わないと言っても、住居などの中は整えられるし、外に出たら即死するというわけでもないので、現状のままでもいいだろう、と言う穏健派。
二つ目は他の星への移住を検討すべきと言う意見。なんとか環境の合う星を探し出して移住しようというのだ。環境が合う無人の惑星を探すというのはなかなかに大変だが。
三つ目は強硬派。惑星の元々の住民を武力で制圧し、惑星改造をして自分たちの惑星にしようという、元々の住民にして見てれば理不尽すぎる過激派だ。
「私は他の星への移住を検討すべきと言う派閥です。そして、王位継承権争いで少しだけですが優位に立っていました」
「ほう」
「しかし、盤石というわけではありませんでしたので、色々と手を尽くしている中の一つが、今回運んでいただいた荷物……ぶっちゃけて言うと手紙で足場をしっかり固めようとしたんです」
「通信で無く、手紙としたのは……?」
「国外に信頼できる人脈があると言うことを見せつけるのが主な目的ですね」
「私たち、あなたの駒ですか」
「言い方は悪いですが、そう言うこ
ブツン
「だから切らないでください」
「駒扱いされて切られないとでも?」
「悪い言い方だとそうなりますが、良き協力者だと思っています」
「協力者、ねえ……私たち、駆け出しの色々問題のあるトラベラーですよ?」
「少なくとも、武力でどうこうすることが出来なかった協力者と認識されているようです」
「それ、私たちが今後狙われ続けません?」
「そうならないように手配していますので、大丈夫ですよ」
「本当に?」
「……まあ、少しご迷惑をかけてしまうかも知れませんが……」
「ナオ、全速力。通信も切りま「待ってください」
はあ……面倒事ばっかりだとため息が出る。
「そこでです」
「はい?」
「何でも、惑星を探していらっしゃるとか」
「まあ……そうですね」
「我々もそれなりに惑星のデータを持っています。その範囲内ではありますが、条件に合致する惑星のデータをお渡ししようかと思いまして」
「そこまでするメリットは?」
「この程度で、国内をまとめ上げて平和的に物事が解決できるなら安い物です。それに貴方たちにとってもメリットは大きいのでは?」
「まあ確かに」
と言うか、メリットだらけのような気がする。
「ま、もらえる物はもらいます」
「ありがとうございます。それで、どのような惑星を探しているのでしょうか?」
「えーとですね……」
シオンが条件を伝えると、ドリスが誰かに伝え、検索を始めたようだ。
「医療技術の発達した星、ですか……」
「ええ」
「詳しい事情はわかりかねますが……結果が出ました。お渡しできるのは五つですね。データを送ります。我々の情報が役に立つことを祈ります」
「ありがとうございます……七つ?」
「二つは、ちょっと役に立つ星の情報です」
「役に立つ?」
「大きくて科学技術も発達している星です。トラベラーも多く訪れますので、いろいろな情報収集に役に立つのでは無いかと」
二つとも今までに行ったことがないので、行ってみるのもいいだろう。
「それではまた」
「いえ、または無いです、または」
最近はフラグ立てが流行っているのか?
何だがクダグダになった通信を切ると、送られてきたデータを確認する。
「医療技術の発達した星……」
「どんな星です?」
「これは……遺伝子治療ね。先天的な病気の治療どころか、そうした病気の子供を作らないために親の遺伝子を操作とか、いろいろ出来るみたい」
「倫理的にギリギリですね」
「こっちは……再生医療ね。首だけになった状態から全身再生も理論上は可能だって」
「完全にSFとかファンタジーですね」
曖昧な条件だったから仕方ないが、この二つはとりあえず除外かな。
「あ、あと三つはいい感じかな、ウイルスとか細菌に対する薬の研究がメイン」
「そこですね!」
「そうね。今の輸送が終わったら……って、これ……」
「ん?」
「一つとして、天の川銀河に無い星なんですけど」
「え?」
「そうですね。ついでに言うなら、残り二つは地球から観測できない位置にある銀河ですね」
ナオもデータを確認しているが、位置的に他の銀河系の向こう側にあるので、地球から見えず、当然だが名前も付いていない。
「あの」
「何?」
「天の川銀河って何?」
「そこからか」
天の川銀河は言ってしまえば、地球のある銀河系のことである。織り姫と彦星で有名な天の川は銀河系をいわば水平方向に見ることによりたくさんの星が密集して見えるという物で、銀河系の特徴を表していることから、天の川銀河と呼ぶ。宇宙連合としての正式名称はあるようだが、自動翻訳は天の川銀河としてある。
「つまり、今まで言った星よりも遙かに遠いということ?」
「そう言うことになるわね」
「どのくらい遠いんですか?」
「一番近いのが……これは……アンドロメダ銀河だから……」
「あ、それ聞いたことあります」
「およそ二百万光年」
「えーと……どのくらいかかります?」
「それはこれから確認ね」
銀河系を出ることになるのは予想していなかったので、その手段については何も確認していなかった。後で色々調べることにしよう。
「とりあえず、今の輸送を終えたら、役に立つ星ってのに行ってみましょ。そこからアンドロメダに行く方法を探して……」
そこでシオンが口ごもる。
「これ、私たちが生きてる間に行けるのかしら、主に寿命的な意味で」
「光の速さで二百万年……長生きしないとダメですね」
「長生きってレベルじゃ無いけどね」
そう言って二人はナオを見る。
「いえ、さすがに私もそこまで長期間の活動は不可能かと思います」
「ですよねー」
「ま、そのあたりも確認していきましょ」
他の銀河系の星の情報を渡してきたと言うことは、他の銀河系に短期間で移動する手段があるはずだ。問題は費用がどのくらいかかるかだが……今は気にしないことにしよう。




