乗り換え
「では確かに」
トラベラーズの本人確認が済んだところで運んできた荷物を渡し、中身の確認をしたところで今回の仕事は終了。
「ふう……」
荷物を渡した相手は少々お疲れの様子。宇宙服越しでは表情もわからないが、早々に退散して、私たちとは関係ないところで頑張ってもらおう。
「ではこれで失礼します」
「はい、ありがとうございました」
挨拶もそこそこに部屋を出ると、トラベラーズの窓口ロボットが待っていた。
「えーと……」
「こちらへどうぞ」
リサ達が待っている窓口まで戻ると、ロボットが手続きを進めていく。
「無事終了ですか?」
「ええ。あとは報酬をもらうだけ」
「それでは今回の依頼の報酬ですが……」
説明された内容は大まかに言うと、ステーション内の販売用宇宙船ドックにある内、いくつかの中から一隻選ぶと言う物。事前に確認したカタログはあくまでも注文用なので、全てがあるわけではないので、いわば在庫限り、という形になる。だが、コンソールに送られてきた現在の在庫は以前確認した物とそれほど変わらず、いろいろな選択肢から選べるようだ。
「迷っちゃいますね」
「そうね……実際の船を見ることは出来る?」
「はい。こちらから……」
ドックの場所を案内されたので、三人で歩いて行く。ドックにはまた別の担当――こちらはロボットでは無いらしい――がいるので、詳しい話はそちらで、と言われた。
「それにしても……」
周囲を見渡しながらリサが呟く。
「このステーション、めちゃめちゃ広くないですか?」
「そうね」
他の星のステーションが宇宙船の泊まるドックを除くと直径二百メートルほどの球形なのだが、このステーションは……
「およそですが、直径一キロ程ですね」
「既に調べてあったとは……ナオさんすごいです」
「いえ、それほどでも」
「……ナオは、自分が移動した場所を記録して地図化する機能があるから……」
元々は、子供や老人の面倒を見る、アシスタントAIを目指していたところを、色々出来る汎用型に方向転換したらしく、時々すごい機能が用意されているのはシオンもありがたいと思っているのだが、そのための専用のセンサー類がなかなか調達しづらく、予備がないので何とかしたいところである。
「まあ、この広さは宇宙船を格納しておくための物だから」
「へー」
「大型旅客船も扱ってるらしいわよ。あと一人乗りの超小型船とか」
「一人乗りとか、ちょっと見てみたいですね」
アニメなんかでは定番だが、実際には乗り心地最悪なんじゃ無いだろうか。
「さて、ここね」
指定された場所のドアを開くと、既に職員が待っていて、ご自由にご覧ください、とずらりと並んだ宇宙船の前へ案内してくれた。
「どれが選べるの?」
「えーと……」
「宇宙船の前の案内表示が明るく灯っている物になります」
「あ、これね」
要するに型番とかサイズとか書かれたプレートの明かりが付いている物が選択可能と。
「中も自由にご覧いただけますが、鍵がかかっておりますので、一声おかけください」
「わかりました」
カタログである程度目星を付けておいた物を一つずつ見ていく。表示されている寸法だけではなかなかつかみづらい、実際の大きさを見ながら巡航速度に燃費、メンテナンス性などを実物で確認する。
「シオン、大変!」
「な、何?!」
リサがこっちこっちと手招きするので行ってみると、丸い宇宙船が置かれていた。
「これ、一人乗りだって」
「……マジか」
高さ約二メートル。中は、座るシートがあるだけ。
手足を自由に伸ばすことも出来ない、ただ座っているだけ。風呂はもちろん無いし、トイレはあの吸引する形になっている機械だろう。
「数時間ならまだしも、アレで何日も移動とか、発狂するわね」
「しかも見てください、この値段」
「マジか」
シオンたちが報酬で受け取れる宇宙船よりも高いのか。
「リサ」
「なんですか?」
「乗りたいなら買ってもいいけど、自分で稼いでね」
「乗りませんから!」
そんなやりとりを経て、シオンは三つに絞り込んだ。
小型高速。今の宇宙船とほぼ同じサイズだが、約四倍の高速航行のために機関部が大きく、室内はやや狭い。
中型中速。今の宇宙船と縦横高さが一.五倍ほど。速度も二倍ほどに速くなる。
中型低速。大きさは中型中速とほぼ同じ。速度は今の宇宙船と同じで、機関部が場所を取らない分、居住スペースがかなり広くなる。
「小型高そ「却下!」
「なんで?!」
「よく見たら燃費最悪だったわ」
「じゃ、中型低「それもダメだった」
「なぜっ?!」
「それ、惑星に降りられない。地球に帰るときに困るわ」
「候補に選んでたのに?!」
失礼な。消去法で消して残った三つと言うだけなのに。
念のために中をチェック。格納庫も広く、個室も増えている。これなら、レアな依頼……誰かをどこかまで運ぶ、も請けられるかな?あまりやる気は無いけど。
手続きを終え、自分たちの宇宙船へ戻ると、各自荷物を手に新しい宇宙船へ。
「……感激」
「何がです?」
「だって、見てよ、これ」
「……操縦席ですよね?」
「いままであり合わせの椅子に、ジャンクからかき集めたスイッチ類だったのよ?それがちゃんとした製品として目の前に」
まあ気持ちはわかる。スイッチに付いてるラベルに「あたため」とか「早送り」とか書いてあったからね。
ついでに、トラベラーズのコンソールとの連動も出来るようになり、大きなモニターにいろいろな情報を表示できるようになった。通信も一度スピーカーから音が出てコンソールのマイクが拾って……では無く、いきなり宇宙船の通信機で会話が出来る。
「これが文明ね!」
「よくわかんないですけど、言いたいことは何となくわかります」
荷物運びの仕事も請けているので、早速出発することに。
「出港許可、出ました」
「了解。動力接続、ドック内を微速前進」
心機一転、新たな旅立ちだ。
「シオン、警備隊から電文です」
「な……何かな……?」
さすがに少し焦る。もう何もやらかしてないはずなのだが。
「読み上げます……『あなた方の航海に幸多きことを願う。さらに加えるなら、願わくば今後は我々と関わりの無い生活を送れることを願う』……以上です」
「余計なお世話よっ!」
こっちだって好き好んで警備隊の世話になってるわけでは無いというのに。
「ナオ、返信よ……『ご忠告痛み入ります。其方のお世話にならないよう平穏に過ごしたいと存じます。追伸 私たちの星ではこう言うのを「フラグを立てる」と呼び、また会うことを暗に約束することを意味します』」
「……わかりました」
一字一句間違いないように、ナオが丁寧に送信する。
「さ、行きましょ。航路のセットは?」
「問題ありません」
「では発進~」
少しずつ宇宙船が速度を上げていく。もちろん、規定の速度で。
「シオン」
「何?」
「警備隊から電文が何通も」
「読み上げなくていいわ。だいたい想像つくから」
「そりゃ、あんな返事が返ってきたらあわてるでしょうね……」
「これも売り言葉に買い言葉って言うのかしら?」
「違うと思います、多分」
「ま……何となく、また会う気がするから」
「私もそんな気がします」
まあ、また会う羽目になったらそういう運命なんだろう……と開き直って受け入れることにしよう。
「それにね」
「はい?」
「そこはかとなく、イヤな予感がするのよ」
「え、ちょっと、止めてください、そういうの」
「安心して」
「え?」
「もう手遅れだから」
そう言ってシオンが示す、モニターは警備隊では無いところからの着信を告げていた。
「えーと……」
「ナオ、通信を」
「はい」




