抜け道
「はい、これで完了になります」
「どうも」
あれから三つの仕事をこなし、目下順調に……借金はほとんど減っていない。補給カードの残高はあるので出費はほぼゼロなのだが、借金の利息を返すのがやっとという状況なのだ。
今のところは惑星の情報も集まっていないので、慌てて返す必要は無いのだが、それでも気を抜くと一気に膨れ上がりそうな借金に追い立てられる生活は落ち着かない。
「なかなか難しいですね」
ラウンジの隅でコンソールを操作し、仕事を探しながらリサが呟く。
遠距離の仕事は収入ももちろん良いのだが、当然ながら時間がかかる。時間がかかると言うことはそれだけ利息も付いてしまうわけだ。
「普通に考えると、こんな借金して返せないと言うことになると、トラベラーなんていなくなっちゃうんだよね」
「そうすると……何か抜け道というか、裏技というか、そう言うのがあるんですかね?」
「……抜け道、か……」
考え込んでしまったシオンはそのままにして、リサはコンソールを操作する。いろいろな条件で絞り込み、並べ替え……何かが引っかかる。何かを見落としているような気がするのだ。
「ねえ、リサ」
「はい?」
「あの人達……ちょっと気になる」
「え?」
五人程の集団が受付カウンターに並んでいる。コンソールを操作しながらのやりとりの後、カウンターの脇に出てきた荷物が積み上がっていく。
「積み上がって……いく?」
「あ……」
「そう言うことか……リサ、コンソールを」
「はい、今やってます……これで」
「ん……これか!」
トラベラーズの仕事について色々と説明を受けていたのだが、その中に『同時に複数の仕事を受けてはいけない』という物は無かった。
同じ星、あるいは同じ方向の星へ行くのなら、同時にいくつも仕事を受けてしまえば良い。それだけのことだったのだ。
「仕事の一覧を目的地までの距離順に並べる。そして、可能な限り同じ星を選べば」
「同時に複数の仕事を受けられる」
「複数の仕事を受けたときにもらえる報酬は、単純に合計される」
「ゲート通過の許可コードは仕事の数だけもらえる!」
二人は顔を見合わせる。
「「これよ!これなのよ!」」
パンッとハイタッチ。早速、良さそうな仕事を探し始める。
「これなんてどう?」
「ちょっと遠いわ。私たちの宇宙船じゃちょっと無理」
「これは?」
「荷物が大きすぎる」
「あらら、じゃこれは?」
改めて探すとちょうどいい仕事というものはなかなか見つからない。
「これ……もダメか」
「これは……?」
「んー、ダメ」
「シオン、これは?」
「距離……いいわね。荷物の大きさは?」
「……結構小さいね」
「報酬……」
「悪くないわね」
「数は三つ」
「つまり……?」
「決まりよリサ!受けましょう!」
言うが早いかシオンはすぐにコンソールを操作し、仕事を受ける。あとはカウンターへ行くだけだ。
「ナオ、出発よ。航路データはこれ」
「はい」
宇宙船に戻ると、荷物の固定をリサに任せて、シオンはナオと出発の準備にかかる。
「運ぶ荷物は三つ」
「三つ?」
「三件の仕事を同時に受けたのよ」
「……ああ、そう言うことですか。同時にいくつも仕事を受けられるんですね」
「そうなのよ。『ダメ』と書いてないと言うことで、試しに受けてみたら出来たのよ。カウンターでも特に何も言われなかったし」
「これなら借金も早く返せそうですね」
「ええ、これからはガンガン行くわ」
笑顔で準備を進める中、リサが入ってくる。
「荷物、積み込み終わりました~」
「おっけ。すぐ出るわ」
「は~い」
リサが椅子に座り、ベルトを締めるとすぐに宇宙船が動き出した。
「別に慌てる必要は無いけど、なんか気が急いちゃうのよね」
「わかるわかる」
ステーションをある程度離れると、後は自動航行に切り替える。
「到着予定は三日後」
「のんびりね」
「ま、そうなんだけど……ちょうどいいからデータ整理をしようかなと思って」
「データ整理?」
「さっきのコンソールを見てて思ったんだけどね」
目的の星を距離順に並び替えたところまでは良かったが、方向までは出てこない。同じ方向にある星もまとめて仕事を受けるというのも手としてはあり。そのために今の手持ちだけでもデータを整理しておこう、と言うわけだ。
「ま、出来るだけやってみるわ」
そう言ってシオンはコンソールを手に自室に戻っていく。それを見送るリサは小さくガッツポーズ。コンソールをシオンが持って行ったのなら、翻訳データの入力作業はない。
「あの、リサさん」
「はい?」
ナオがタブレットを手渡す。
「ノルマ、だそうです」
「え?」
マジか、と驚く。
「……冗談ですよ」
「え……」
「たまにはこう言うのもいいかなと思いまして」
「ナオさんがやると冗談に聞こえないのでやめて欲しいです」
そう言い残して自室に戻る。そして考える。冗談を言うAI。初対面レベルでは人間との区別を付けるのも難しい程人間くさい。もしも地球で人類に戦争を仕掛けたAIが、同じような性質を持っていたら……人間とAIの区別がつかない。性能をあえて落とした川本博士に感謝だ。
「はい、確かに受け取りました。報酬も振り込んであります、ご確認ください」
「おっけ。確認できたわ」
荷物の受け渡しを終えたシオンは、そのままコンソールを操作して依頼の一覧を出す。
「さて、と」
「探しますか」
タブレット片手にリサが応じる。ここに来るまでに色々と調べ上げ、今のところデータを持っていない星の位置も何となく推測して三次元表示できるようにしてみた。
簡単な話である。今いる地点からA地点までの距離が百、B地点までの距離が五十だったとする。そして、B地点に移動してA地点までの距離が百五十になっていたら?最初の地点とA地点、B地点は一直線上に並んでいることがわかる。これを立体的に行うのだ。
コンソールからは『この星のステーションで受けられる仕事一覧』が検索できる。その検索結果に表示される目的地までの距離をひたすらデータとして打ち込んでいく。そして、『その星からの距離』で球を描く。それを他の星を基準に行っていく。いくつかの星でそれを繰り返していけば、描いた球の表面が重なり合う点が出てくる。そこに星があると推測していく。ゲートを通過する場合もあるので誤差があるのは当然として修正していけばいい。
仕事の一覧を表示し、タブレットのデータと照合する。
「これと、これ。あとは、これとこれ」
「シオン、それはダメ。方角が逆」
「じゃ、これ」
「この星も行けます」
「追加」
予想が外れた場合は目も当てられないが、その時はその時だと腹をくくる。トラベラーズが手配している以上、違法物品を運ぶ仕事はないはずだから、間に合えばいいのだ。
「よし、これで受けるわ」
シオンがカウンターへ向かい、荷物の山がその横に並べられていく。
「ここから運ぶこと、考えてませんでしたね」
「盲点だったわ」
ポンコツな二人であった。




