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  作者: ひじきとコロッケ
借金再び
21/60

フラグ

「これでよし、と……お、来た来た」


 目的地が近づいてきたところで誘導信号を要求したら、すんなり応答が返ってきた。誘導信号を受信してしまえば後は半自動である。

 そして一時間後、無事にステーションに入港。荷物を渡す相手は既に到着しており、予定通りに受け渡し。念のための確認後、ステーションを出る。


「それじゃ、ターミナルへ向けて出発」


 宇宙船の操作もずいぶんと慣れてきて、確認もどんどん時間が短縮されてきている。油断は禁物だが、このまま順調にいくと良いなと考えていた。



「どうしてこうなった」


 ステーションを出た直後、警備隊の船にまた(・・)遭遇し、また(・・)収容された。


「我々としてもこう言うケースは珍しいと思っています」

「はあ……はい」


 今回は、銃を構えた警備兵二十名程に囲まれた状態でのやりとりとなった中、シオンはなんとも曖昧な返事しか出来なかった。


「君たちが運んでいた荷物だが、この状況から推察できるとおり、違法な物品だ」

「……そうですか」

「知らなかったのか?」

「全く知りませんでした」

「……犯罪者は皆そう言うな」

「コンソールに翻訳の記録が残っています。確認していただいて構いません」


 あの三人とのやりとりの部分を全て公開する。


『ここから三、いや四日だな』

『そう。じゃ、もう一つ。荷物は、違法な物じゃないよね?』

『ああ、そう言う心配か。それなら大丈夫だぜ。まあ、開けて中を見せるわけに行かないから、そこは信じてもらうしかないんだが』


「……少し、解析にかける。そのまま待て」

「はい」



「災難でしたね……」

「まったくだわ」


 あの後色々と事情聴取を受けたのだが、運んだ荷物の中身を一切知らないと言うことが確認できたと言うことと、トラベラーとしての経験の浅さ――つまり、犯罪組織に繋がる要素が見られないと言うことで牢にぶち込まれるとか言ったことはなかったが、罰金二百万となった。


「翻訳に間違いがあったってどういうこと!?」


 あの会話を正しく訳すとこうなったのだ。


『そう。じゃ、もう一つ。荷物は、やっぱり表に出せない物?』

『だからこうして慎重に運んでいるんだ。おっと、中を見るなよ。この仕事は信用第一だからな』


 一応、誤訳がひどすぎると抗議した結果、罰金は減額され百万となった……トラベラーズに借金しての支払いとなる上、できるだけ早く返済しなければ利息が付いていく。


「こうなってくると、今までの会話も正しく翻訳されていたのか、不安になりますね」


 ナオの心配ももっともだ。


「あいつら、連合標準語を話していたんだけど、いわゆる俗語(スラング)をうまくちりばめたのよ。その辺をくみ取って翻訳しなければならないんだけど、コンソールの翻訳じゃ、そこまでは対応できない。完全にはめられたわ」

「やっぱり、地道にトラベラーズの依頼だけにしましょ」

「ええ、こう言うトラブルを避けるための組織なんだからね。今後一切トラベラーズ以外の仕事は受けないわ!」

「それは少し困りました」

「誰!?」


 いきなり話に入り込まれた。


 声のした方を見ると、宇宙服を着た小柄な人物が三人、こちらに向かってきていた。先に歩く一人、その後に続く二人。他の星の文化や礼儀作法はわからないが、何となく後ろの二人は前の一人の従者のように見える。


「まずは非礼をお詫びします。突然話に割り込んで申し訳ありませんでした」


 向こうのコンソールから声が聞こえる。どうやらこれまでシオンたち――リサの働きが大きい――が苦労してきた翻訳データを取り込んだようだ。


「えーと、どちら様?」

「失礼しました。こちらから名乗るべきですね。ドリス・カールデン、ドリスとお呼びください」


 当たり前だが固有名詞は翻訳できない。そこで、近い発音で文字化するのだが、通常は聞く側が文字を割り当てるところ、先に文字を割り当ててきている。用意周到だ。


「えーと、そのドリスさんが何のご用でしょうか?」

「この状況で頼むのもどうかという所なのですが、荷物を運んでいただ「お断りします」

「そこを何とか」

「それでひどい目に遭ったばかりです」

「さすがに警備隊の船の中で違法な物品の輸送は頼みませんよ」


 それもそうか。だが……


「警備隊の船に乗っているのは警備隊と私たちのように逮捕された者くらいですから、失礼ながらドリスさんも何か後ろ暗い事情があるのではと勘ぐります。結論は一つです。お断りします」

「これは手厳しいですね。ではこれならどうでしょうか」

「ん?」

「運ぶ荷物の中身をお教えすることは出来ませんが、警備隊に中身を確認いただいた上でお渡しします。また、その内容についてもトラベラーズを介した正規な仕事となるように手配いたします」

「手配できるなら、そちらでどうぞ」

「急ぎなのです。トラベラーズへ正規の手配をしていたら間に合いません」


 宇宙服越しでは表情はうかがえないが、かなり困っているようだ。リサ達にも相談するか。


「どう思う?」

「警備隊が間に入って確認してくれるなら良いんじゃ無いかと思いますけど……」

「私もリサの意見と同じです。さすがにここまで堂々と違法な仕事は持ちかけないのではないかと」

「ですよねー」


 三人に向き直り、告げる。


「警備隊立ち会いの下で荷物の受け渡しを。それが条件です」

「わかりました」


 渡された荷物は小さな箱。目的地のデータを受け取ると、宇宙船に乗り込み、航路データを設定。すぐに出発することを告げる。


「おっと、その前に」

「まだ何か?」

「報酬とは別に、これを」

「ん?」


 渡された物は小さなカードだった。


「これは?」

「補給のカードです」

「ああ……」


 ターミナルなどで宇宙船の燃料や食料を補給するには当然ながらお金がかかる。だが、このカードはその一部を負担するプリペイドカードだった。


「残高は結構ありますよ」

「それはありがたいんですが、いいんですか?」

「荷物の輸送の報酬はトラベラーズの規程通りしかお支払いできませんが、緊急で対応頂くと言うことで感謝の気持ちを。まあ、特別ボーナスですね」


 一応警備隊員の様子を見るが、特に(とが)める様子も無いのでありがたく受け取っておく。罰金の支払いのために借金している状況では、出費を抑えられるこれはありがたい。


「ではよろしくお願いします」


 こうして、色々と状況が大きく変わる中、警備隊の船から新たな目的地へ針路を取った。借金返済のために。

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