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  作者: ひじきとコロッケ
初仕事
16/60

報酬

 外に出ると三人はそのまま列に戻らず、どこかへ行ってしまった。


「お待たせ~」

「お帰りなさい、っと」


 リサは立ち上がり、尻をパンッパンッとはたく。別に汚れてはいないのだが。


「どうでした?」

「言うまでも無いけど後ろめたいことは一つも無いからね。信じてもらえるはずだけど」


 ずらりと並んだ隊員を見やるが、動きはない。


「これ、ここで待ってないとダメなんですかね?」

「少し待って、動きがなかったら聞いてみましょ」


 一時間くらい待つかと思ったら、五分も待たずに扉が開いて一人の隊員が入ってきた。物腰からすると、そこそこの偉い人のようだ。


「お待たせしました」

「あ、はい」

「まず、結論から申し上げます。疑ってしまい申し訳ありませんでした。あなた方がターミナル爆破の関係者ではないかという疑いは晴れました」

「あ、どうも」

「お()びというわけではありませんが……」


 そう言って提示してきた謝礼の内容は破格と言って良かった。

 まず、宇宙船の修理をしてくれるという。見た目ではなんともないように見えるが、アームで固定されたまま振り回されたりした関係で少し問題があるらしい。

 そして、修理がてら近くのターミナルまで連れて行ってくれる。環境調整の関係で今いるところ――格納庫だ――からは出られないが、そこは仕方ない。それどころか、ありがたい申し出だ。

 また、請け負っていた荷物運びも警備隊で引き受けることになった。今のままターミナルへ戻ってもそこからの移動は時間がかかる上、仕事を受けたターミナル以外からの出発と言うのは何かと面倒なことになるらしい。

 そして、情報提供料の謝礼として七十万が支払われることになった。借金の帳消しとはならないが、ありがたい。


 推進ユニットは三つが壊れていることが判明したため交換となり、警備隊の技術担当員という人が五人がやって来て手際よく交換していく。


 待っている間は暇である。


「少しいいかな?」

「あ、はいどうぞ」


 スピーカーから突然呼びかけがあった。

 なんだろうと思っていると、扉が開き、宇宙服姿の隊員が数名入ってくる。この船の副長だと名乗った隊員――名前はどうしても地球人に発音できないので諦めた――は、少し込み入った話がある、とシオンを連れて隅の方へ行ってしまった。何かを見せているようだ。


「ぶー、私、また残されてる」


 リサのぼやくのも無理はない。何を話しているのか聞き耳を立ててみるが……


「……って来てください。確認したいので」

「わかりました」

「では、少しお待ちください」


 戻ってきた。神妙な顔で。


「どしたの?」

「まだわからないんだけど……この警備船が近くで漂流していた物を回収しているの」

「え?」

「方角的に私たちがいた方向からの漂流物」

「え?もしかして?」

「その可能性もあるから持ってきてもらうことにした」


 ナオの可能性がある……

 ちょっとだけリサはホッとした。こんな宇宙の果てで寂しく漂うよりも、せめて地球に墓を、と。


 やがて、二名の隊員が何かの乗ったワゴンを押してこちらに向かってきた。普通に宙に浮いているあたり、なかなかの技術力だ。


「う……」


 戦場である程度見慣れたとは言え、身近な人の遺体はちょっと抵抗が……って、あれ?


「シオン……これって?」

「うん?」

「機械の山だよね」

「そうね」


 台の上にはいろいろな機械が乱雑に積まれていた。


 そうだよね、そうそう都合良くは行かないよね、と落胆するリサ。


「よかった」

「え?」

「メインユニットは無事。これなら大丈夫、直せるわ」

「え?え?直す?」

「ええ、直してみせるわ」

「……あの、シオン?」

「何?」

「これって?」

「ナオだけど?」

「へ?」


 この機械の山が?


「あの……シオン、何を言っているの?」

「何って?」

「だって、これがナオさんって」

「そうよ、ほらこことか」


 指さす先は……なんだろうか?よくわからない。


「さ、直すわよ」

「はあ……って、どういうことなんですか?!ナオさんって人間じゃなかったんですか?」

「あ」


 言ってなかった。と言うか見ればわかると思ったんだけど、わからなかったか。


「仕方ない、事情は中で話すから、一緒に運んで」

「はぁ……はい」


 宇宙船の格納庫に運び込みながらシオンはナオについて話し始めた。ナオだけでなく、シオン自身についても。


 人工知能の開発者、川本勝が世に人工知能を発表した頃に試験稼働していたバージョン八。その前のバージョン七は、ある意味川本が思い描く人工知能の一つの完成形となっていた。


 人工知能=難題を解決するあるいは日常的な事柄をこなすコンピュータ


 これが当時の人工知能の認識だったし、川本も当初はそれを目指していたのだが、一方で人間と同様の喜怒哀楽を持ち、人間のパートナーたり得る人工知能が実現できないか模索しており、その完成形と言えるのがバージョン七。そして、それを搭載した人型ロボット(アンドロイド)がナオである。そしてその開発者、川本のひ孫に当たるのがシオンであり、幼少期に川本の研究室に放置されていたナオを偶然起動させて以来、ずっと共に暮らしてきたのだ。


 そんな話をしながら格納庫中央に作業台を出し、回収してもらった部品を並べていくと、なるほど確かに人の上半身のような形になった。


「足がないですね」

「……足なんて飾りよ」

「……」

「……ゴメン、言ってみたかったの」

「で、足はどうするんですか?」

「替えのパーツは色々あるから、何とかするわ」

「何とかって……」

「あ、そうか。言ってなかったわね。私、医大出たあとに義肢の研究に入ったから、ロボットの手足を作ったり出来るの。ちなみに専門は整形外科ね」

「……ロボットの手足って、義肢と同じとは思えませんけど」

「市販されてるものはね。でも、ナオの場合は義肢とそれほど変わらない物を使ってるわ」


 見つけたときには、手足もまともに動かせないほど壊れていたのを直したのは私なんだから、とシオンは心の中で付け加え、ナオを見つけたときのことを思い出していた。


 川本博士が亡くなった後、自宅の書斎を開いた息子達は愕然(がくぜん)とした。室内は文字通り足の踏み場もないほどに研究資料が積み上げられ、試作して一通り研究を終えて分解された機械の部品が散乱していた。幸い、これらの資料は川本が協力していた企業にとって喉から手が出るほど欲しいものばかりだったために、あっという間に回収された。建物自体は頑丈な作りだったためにそのまま残され、彼の孫夫婦が住むこととなった。そして、その研究室は勉強部屋としては最適な作りだったので、娘であるシオンの子供部屋となった。そして、シオンが床板をめくったところに地下室への入り口を見つけ、その奥に保管されていたナオを発見したのだ。頭脳であるメインユニット以外の手足は配線が切れ、シャフトは折れ、指一本も動かせない状態であったが、彼女はどうにかメインユニットの起動に成功し、試行錯誤を繰り返しながら手足を修理。戦争が始まる頃には自立歩行できるようになっていた。


「さてと、修理を始めるわけだけど」

「はい」

「リサ……なんか食べるもの作って」

「へ?」

「ぶっちゃけ、リサに手伝ってもらえそうな事ってあまりないから、むしろそっちの方向で」

「わかったわ。びっくりするようなの、作ってくる」

「いい意味で期待してるわ」


 上に上がっていったリサを見送ると、シオンは早速工具を並べ、どこから分解するかとチェックを開始した。


 リサはと言うと、中断していた料理を再開するにあたり、少しバリエーションを増やせないかと考えて、操縦室からコンソールを持ち出して船外へ出た。ある程度基本的な会話は可能だから、少し調味料になりそうな物を分けてもらえないか、交渉してみよう。



「ふう」


 一通り壊れて外すしかない部品を取り外したところで、シオンは一息ついた。時計を見ると二時間近く経過している。ちょっと根を詰めすぎたかと反省しながら階段を上がる。そう言えばリサの料理は出来たのだろうかと、厨房の前を通り過ぎようとしたところで、ドアが開いた。


「あ、シオン。ちょうどよかった」

「何か出来た?」

「うん、待ってて。部屋まで持って行くから」

「ありがとう」


 自信満々の笑みを信じることにして、自分の部屋に戻る。小さな机の上の荷物をドサッとベッドの上に移したところでリサがドアをノックした。


「どうぞ~」

「は~い」


 トレイの上に湯気の立つ何かをのせてリサが入ってくる。


「はい、これ。見た目までは再現できなかったけど、味は保証するわ」

「……何これ?」


 携帯保存食を加工したのだから仕方ないのだが、皿の上にマッシュポテトのようにすりつぶされて丸く盛られた物と、ちょっと茶色のスープの中にこれまた丸く浮かんだ物。さらにもう一つのさらには平たく伸ばして焼いて焦げ目のついた物。


「まあ、リサが言うなら味は大丈夫なんだろうけど」

「食べてみてくださいよ。一応自信作なんです」


 感想を後で聞かせてくれと言い残してリサは出ていく。とりあえず食べてみるかと、スプーンで丸く盛られた物を一口食べる。米の味がする。

 スープは、丸く浮かんだ物は豆腐の食感の味噌味。

 そして焦げ目のついた物は……


 一通り食べ終えたシオンの感想は……


「こんなところで、アジの開き定食味噌汁付きが食べられるとは思わなかったわ」


 食の革命である。

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