警備隊の尋問
「停船命令?」
「宇宙船を停めろ、と言う命令ね」
「それはさすがにわかるってば。どういうことなのかな?それに宇宙連合警備隊って?」
「宇宙連合の警察ね」
「いえ、それもなんとなくわかるって。停船を命じるってどういうこと?」
「さあ?」
「あ、でもこれで助かりますね!!現在位置とか教えてもらえればゲートにも行けるし」
「そう言う考えもあるわね」
事態が悪化する可能性もあるけど、と心の中でシオンは付け加えた。
「さて、通信には応答しないとね」
通信機の前に座り、なんと答えたものか考える。
「とりあえず……『通信を受信しました。停船命令に従います。こちらは現在全ての動力を停止して慣性航行中です。相対速度調整の指示をお願いします』こんな感じかしら」
「いいんじゃないですか?」
聞かれたリサも正式な応答方法なんて知らないので、なんとも言えない。
「送信、と」
しばらくすると返事が来た。
「えーと……『状況了解した。こちらから接近し、回収するため、現状のまま待機せよ』だって」
「『せよ』って、ちょっと威圧的ですね」
「いや、そこは多分機械翻訳のせいかなと」
そんな会話をしている内に左側に巨大な宇宙船――長さ数百メートルはあるだろう――が近づいてきた。
「でかっ」
「んー、あちこちに武装っぽいのが見えるわね」
「全部こっち向いてますね」
「大人しくしてようね」
「は~い」
しばらく見ていると、宇宙船の一部が開き、そのままシオンたちの乗る宇宙船を中に格納していった。
「広いね」
「これ、着陸しろ、って事かな?」
「かな……」
「待機っていってたけど、このくらいはいいか」
着陸用の足を伸ばし、ゆっくりと下に降ろす。文句は言ってこないので大丈夫なのだろう。やがて、開いていた扉が閉じたが、空気で満たされているとは思えないので、待つことにする。
「お、通信が入った……『空気の調整が完了した。全員、ゆっくりと出てくるように。なお、翻訳のためのコンソール以外は何も持たないように』か……」
「かなり警戒してますね」
「んー、まあとりあえず従いましょ」
「はい」
「受け答えは私がするから、リサは喋らないようにね。翻訳の精度がまだイマイチだから中途半端に声を拾うととんでもない訳になりそうだから」
「わかった」
一度、服装をチェックする。大丈夫だとは思うが、念のために胸ポケットに挿してあったペンも外しておく。
そして、二人で操縦室を出て、ハッチを操作して開く。プシューという音に少し緊張したが、空気は確かにあるようだ。
そして、指示通り、ゆっくりとタラップを降りていく。
サッカーコート二面くらいはありそうな広さに、高さは数十メートルはありそうな空間。そしてずらりと並んだ、銃を携えた二十名近くの宇宙人達――と言っても、全員宇宙服を着込んでいるのでその姿はよくわからない。手足は二本ずつあるようだが。
「○#!$%&」
「え?」
「あ、音声認識が入ってなかった」
「ちょ、ちょっと……」
「△□◎¥%#!……止まれと言っているのがわからんのか!撃つぞ!」
「失礼しました。翻訳機のスイッチを入れ忘れていました。止まりますので撃たないでください」
蜂の巣になるところだった。危ない、危ない。
「よし、ではまず、トラベラーの登録番号をこちらへ送信せよ」
「登録番号……あ、これか。送信します」
「……確認した」
並んでいる宇宙人達――要するに警備隊の隊員だが、彼らは銃を構えたまま微動だにしない。さっきから聞こえてくる声は全てどこかにあるスピーカーから聞こえてくるのだが、どこにいるのだろうか。スピーカーで話すくらいなら、コンソールで通信してくれてもいいようなものなんだが。
「いくつか確認するが、いいかな」
「はい」
「君たちは、現在荷物の輸送中のはずだが、違うかね?」
「はい、その通りです」
「その目的地となる星への航路ではないが、どういうことだ?」
「えーと……」
「それと、トラベラーの登録としてはその宇宙船の乗員は三名のはずだが、もう一名はどうした?隠れているというのならば、強硬手段も辞さないのだが」
「話せば長くなるのですが」
「手短に言え。あまり長いと時間稼ぎと見なす」
「んーと……荷物輸送の仕事を受けてターミナルを出ようとしたらいきなり爆発が起きて、そのまま外へ放り出されました。宇宙船の推進ユニットが全てロックされていたのでそのままゲートへ突入。その後なんとか推進ユニットのロックを解除して航行可能になりましたが現在地がわからないために彷徨っていたところです。なお、乗員一名はロックを解除するための作業中の事故で行方不明。以上です」
よくもまあここまで短くまとめたものだと、リサは感心していた。だが、この内容で信じてもらえるのだろうか?
「……裏付けを取りたいが、いいか?」
「どうすればいいでしょうか?」
「船内を確認する」
「えーと」
「一名が同行し、内部を案内しろ。どちらかが残れ」
「わかりました。少し待ってください」
翻訳機のスイッチを切って、シオンが振り返る。
「……リサ、ここで待ってて」
「えっと」
「向こうが怪しむのは当然の状況だからね」
「うん」
「そりゃ不安だろうけど、一応は警備隊って事だから、変な扱いは受けない……はず」
「余計に不安なんですけど」
「大丈夫だって。あいつら宇宙服無しじゃこの空気に適応できないみたいだからいきなり襲われたりしないって。それに、全然違う種だから、興奮したりすることも無いと思うよ?」
「そういう心配か!」
大丈夫そうね、と呟いて翻訳機のスイッチを入れる。
「私が船内に同行します」
「わかった。こちらからはその三名だ」
あちらはあちらで指名されたのだろう、三人がこちらへ歩いてくる。銃は腰のホルスターに収めているが、少しでも怪しいと見ればためらわずに撃ちそうだ。
「えーと……無理。ダメ」
「なぜだ?」
「でかすぎ」
「む……そうか」
「三人とも二メートル以上ありますからねぇ」
リサがしみじみと呟く。宇宙船の中の天井は二メートルもない。頭をぶつけるだけだろう。
「じゃ、行きましょうか」
改めて選ばれた三名――それでも百八十以上あるのだが――と共に宇宙船へ向かう。
「っと、その前に。その一名ですけど、こっちの共通言語とかわからないので、その辺は配慮願います」
「了解した」
まず、シオンは三人を操縦室へ案内した。宇宙船の心臓部と行ってもいい場所であり、最初に案内することでやましいことがないことも示したかったのだが……
「おい、本当にこんなところで操縦しているのか?」
「失礼ね。私たちの星の今の状況じゃ、これでも精一杯だったのよ」
「そうか……詳しい事情は知らんが、色々大変なんだな」
「こいつの航行データを引き出したいんだが」
「えーと、ターミナルで受け取った装置のあれですか?」
「そうだ」
「ここにあります。操作は」
「大丈夫だ。データをコピーするがいいな?」
「構いません」
「その間、他の場所を見せて欲しいんだが」
「えーと……居住区画でいいですか?」
「ああ、それでいい」
操縦室に一人残すのはやや不安だが、無茶なことはしないだろう、と判断した。今の状況で「イヤです」とは言いづらい。
その頃、リサはというと――
「……立ったまま、何もしないで待つって結構疲れるわ……」
あちこち飛び回っている間、あまり休むことも出来なかった身体的な疲労に加え、相変わらず二十名ほどが銃を構えたままというこの状況は精神的にもきつい。「ちょっと疲れたんで、座っていいですか?」と聞きたくても言葉が通じないのでそれも出来ない。
「はあ……」
仕方ない、もう少し我慢だ、と項垂れていると隊員の一人がこちらへ歩いてきた。ヤバい、気をつけ!の姿勢じゃないとマズかったか、と思ったのだが、
「¥?<#$%」
何かを言いながら、床を銃で示す。これは……
「座ってもいい、と言うことなのかな?」
恐る恐る腰を下ろしてみると、その隊員は一つうなずいて、元の配置へ戻っていった。思ったよりもいい人のようだ。
なお、座ったあとに『何もすることがなくてヒマ』という状況が強調されたことに気付くのは五分ほど後のことである。
「あとは、こちらが格納庫です。少し階段が急なので足下に気をつけて」
シオンは二人の隊員を連れて居住区をまわり、格納庫へ来ていた。ここ以外に人が入れそうな場所は機関室になる。狭いが大丈夫だろうかと余計な心配をしていると隊員が何かを指し示した。
「これは?」
「ああ、その箱は、さっきも話したターミナルから放り出されたときに推進ユニットについていたアームの部品です」
そう言いながら箱を開け、中身を見せる。
「念のため確認する」
「どうぞ」
「……箱から出してくれ」
「無理です」
「何?」
「これを外したときは無重力だったから平気でしたが、今は無理です。この大きな塊一つで二十キロ以上ありますから」
「そうか、すまない」
隊員に場所をゆずり、隅に移動する。
二人はごそごそと箱の中を探るが、中から出てくるのは当然ながら外した部品ばかり。
「これはあとで回収する。いいな?」
「むしろ持って行ってください」
「他に人が入れる場所は……機関室か」
「あまりお薦めしませんけど」
「いや、全部見せてもらう」
「はい。こっちです」
機関室には格納庫から入るのだが……
「えーと」
「入れんな」
「ですよねー」
体が大きすぎて中に入れないのだ。
「しかし、まあ……この狭さでは……」
「それに、機関室だからな。いいだろう」
「戻るぞ」
「はい」
操縦室に戻ると航行データの回収が終わったらしく、内容の確認をしているようだった。
「船内の確認は終わった。彼女らの言うように誰もいなかった」
「そうか、こっちもデータを見ていたのだが、今のところは問題なしだな」
「外に出るぞ」
一応問題なしで解放されそうだ。




