断念と遭難
「はあ……」
「……」
二人とも無言になってどれくらい経っただろうか。
考えられる限りあちこち飛び回り、可能な限りレーダーの範囲を広げて捜索したが、どこにも見つからなかった。
ガタッと椅子を鳴らしながらシオンが立ち上がり、扉に手を掛ける。
「……どこへ?」
「……休憩」
「え……」
「探し始めてかれこれ三十時間よ」
「で、でも……」
「……冷たいようだけど、はっきり言うわ。捜索は断念します。リサも少し休んだ方がいいわ。かなりひどい顔してる」
そう言い残し、操縦室を出る。
「あ……」
一人残されたリサはどうすることも出来ず、しばらく残っていたが、やがて肩を落としたまま、ふらふらと部屋に戻り、ベッドに倒れ込んだ。
「う……」
とてもひどい夢を見ていたような気がして、目を覚ましたリサは、あれから二時間しか経っていないことに少しの戸惑いを覚えながらもなんとか立ち上がり、操縦室へ。既にシオンが起きていることに驚いた。
「あ……」
「少しは眠れた?」
「うん……」
操縦室ではシオンがいろいろなスイッチを操作して計器のチェックをしていた。
「あの……さ……」
「言いたいことはわかるよ」
「それなら」
「でもね、私たちの目的は薬を作ることよ」
「う……」
「それに、現在位置もよくわからない状況になっているから、私たちも遭難しているのと変わらない状況なのよ」
「……でも」
「お願い。リサの気持ちはわかる。私だって割り切れないわ。でも……このままナオを探し続けるのは間違ってると思う」
よく見るとシオンの目は赤く腫れぼったい。
「……そう、そうよね」
そんな話をしている間もシオンの手は止まらない。
「えっと……今からどうするの?」
「んー、とりあえずゲートの信号か、他の船の信号を探す」
「他の船?」
「交渉次第になっちゃうと思うけど……現在位置を教えてもらえないかな、と」
「なるほど」
「あわよくばゲートまで連れて行ってもらえるとベスト」
「あははは……」
さすがにそれは無理では、と思う。
「ね、私は何をすればいい?」
「そうね……」
一時間後、宇宙船は動き出した。
「方角は多分こっちであってるから、信号っぽいのを見落とさないようにね」
「わかった」
「とりあえず二時間走らせる。信号が見つかったらそっちへ向かうけど、見つからなかったら停めて休憩。どのくらい休むかはその時考えるけど、基本的にはその繰り返しで」
「はーい」
信号を探しながらと言っても、基本は機械任せ。のんびりとモニターに映る星空を眺めながらの航行となる。
「見たこともない星空ですねぇ」
「んー、もしかしたらアレが「ナントカ座のホニャララ」とかかも知れないけど、全くわからないわね」
「宇宙って広いんですね」
「ホントね」
こんな会話が続いたのは五時間程度である。
「ヒマね……」
「ですね……」
「信号は……」
「……ん……ありません……」
「そう……」
いわゆる女子トークも二人きりだとネタ切れ気味になる。おまけに話をつなげるようなネタ――おいしいお菓子とか、おしゃれなお店とか――もない。しかも、そこそこ打ち解けているとは言え、出会ってまだ数日の二人である。出自こそ日本人ではあるものの、共通の話題がそれほど多くなく、恋バナでもするかと思いきやリサ側が何となくナオのことで気が引けて乗り気でなく……結果、こうなったのである。
そして何よりも……
「信号がないと言うことは……どこか近くのターミナルに行くための道標がないと言うこと。つまり……完全に遭難してるわ」
「はあ……どうしましょう、これから」
「……ちょっと休憩にしましょ」
「はーい……あ、それじゃなんか作りますよ」
「お、いいねぇ。何が出来る?」
「んー、出来てからのお楽しみ、ということで」
期待してるわ、と言い残してシオンが部屋に戻るのを見送ると、リサは一人厨房へ向かう。さて、何を作ろうか。
リサが厨房であれこれ考えている頃、シオンも部屋で一人考え込んでいた。
計算上はとっくにゲートが見つかってもいいはずの位置にいるのだが、見つからないと言うことは……
「最初にゲートに突っ込んで、出てきてからのコースが直線じゃなかった可能性、か」
充分あり得る話だ。そして、もしもそうだった場合、現状のデータでは正確な計算は不可能だ。
「んー、どうしようか……」
船に積み込んだ食料は残り一ヶ月程度あるが、空気をかなり消費してしまっていて二週間くらいしか保たない。一度戻って少し方向を変えて探すか、それともこのまま進むか。何となくだが、このまま進んだ方がいいような気がする。ただのカンだが。
とりあえずそこまで決めるとベッドに横になる。疲れているが、目が冴えて眠れそうにない……と言うパターンに限って眠ってしまうと言うのがありがちだが、今はリサが何を作っているかというのが少し気になる。
ほとんどの携帯食がフルーツ味・チョコ味などのやや甘い味付けなのに、どうやったらソースっぽい味を出せるのだろうか。あまり料理は得意ではないが、職業柄、いろいろな物を混ぜて加工して……というのはよくやっている。しかし、船内にある物でソース味を出そうとしたら……わからん。あとオニオンスープっぽいのも、どこからコンソメ風味を出しているのか。
ビーッ!ビーッ!ビーッ!
「!」
突然の警報に跳ね起き、慌てて部屋から出る。
「何があったんです?」
リサも通路に出てきていた。手に鍋を持ったまま。
「わからない……すぐ確認しないと」
「はい」
「……それ、何?」
「途中ですけど、味は整ってます。食べてみます?」
スプーンに一口もらう。茶色くドロッとしたそれは……
「チャーハン?」
「正解です」
「いや、味はチャーハンだけどさ。何でこんな……いや、いい」
「見た目と食感をチャーハンに近づけるのが難しいんですよ。ここからの加工に期待してください」
打ち切り漫画の煽り文句のようなやりとりをしている場合ではない。操縦室へ飛び込み、警報音の原因を確認する。どれだ、どの機械から音が出ているんだ?
「あ、あった!」
「何です?」
「……通信……?」
「へ?」
「結構強めの電波で通信が入ってる」
「どこから?何て言ってきてるんです?」
「宇宙連合……警備隊??」
「警備?」
「内容は……停船命令?!」




