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惑星の歌

作者: 高嶺

惑星の歌が聞こえる。

そう聞いたことがある。

惑星は喋らないのだから歌うはずがない。

きっと誰かの勘違いだろう。

もしくは宇宙という無限の世界に気を狂わせた誰かの妄言だろう。

はたまた古い映画や本で読んだ話かも知れない。


遠い記憶。

そんなことを思い出していた。

夢を見ていたのかも知れない。


いつの話だか確認するすべはない。

何故なら私は今、宇宙に一人きりなのだから。


詰まるところ、私は遭難しているのだ。

木星への観光ツアーに参加していた私たちの乗った宇宙船は何らかの物体…恐らくスペースデブリに衝突した。

私自身も相当な衝撃を受けた。


そして気付いた時には一人、宇宙を漂っていた。

星のない、真っ暗な空間を。


幸い、宇宙服は壊れていない。

酸素もまだ充分にある。

異常がないことを確認し、救難信号を出した。

私に出来ることなどこの程度だろう。


ずいぶん古い映画で観た宇宙服だったら耐えられなかったかも知れない。

現在市販されている宇宙服は比べ物にならないくらいスマートになったものだ。


何もすることがないせいか、忘れていたことや後回しにしていたことをたくさん思い出す。

ぐるぐると頭をどうでもいいことで巡らせている。

こうして時間を潰すことで、ただただ救助を待つ。

途方も無い時間が過ぎていく気がした。


どのくらいの時間が経っただろうか。

この真っ暗な空間では上も下も左右さえもわからない。

何も聞こえない。

目を開けているのか瞑っているのかさえわからなくなってきた。

誰もいないのがこれほど不安になるとは思いもしなかった。


その時、何処からともなく高い音が聞こえた。

金属音か、口笛か。

モニターを確認したが私以外の生命反応はない。

誰もいるはずがない。

音を出すものもあるはずがない。

でも確かに聞こえる。


あぁ、これが惑星の歌か。

私の胸に、頭に、心臓に。

血液に染み込んで全身を駆け巡るように響く。


私は宇宙の一部になったのだ。

そういう感覚になる。

この暗く広い宇宙に一人だというのに、不思議と不安や恐怖はいつの間にか消えていった。

もはや胎内の中にいるような温かさすら感じる。



救難船が来るまでに私はあと何回この歌を聞くことが出来るだろうか。

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