転移したては一文無し
「二人を尾行してる間は僕の気配が有ることを無にする」
ノアンはその場を離れたフリをしてレリカとデヒトの二人を尾行していた。
「あいつらどこまで行くんだろう・・・」
あの二人は結構な距離を歩き回っている。今は商店街から離れて城下町と下町を繋ぐシンセイ階段を降りた先の静かな下町に来ている。だがなかなか拠点を建てる場所がきまらないみたいだ。
「はぁ〜、なかなか良いところがないわね。少し疲れてきちゃった」
「少し休憩しますか?」
レリカは長距離を歩き回って疲れたみたいだ。
「この世界の交通手段は徒歩しかないわけ?」
「いえ、先程すれ違った者の記憶を覗いてみたところ、この国には砂漠の魔女と呼ばれる一族がいまして、その一族が経営する教会の魔法陣で魔術を使用し、別の場所にある魔法陣を行き来する方法が存在します。あと簡単なものだとダラクという動物に乗るくらいですかね」
記憶を書き換える能力を使えば対象の人物の記憶を書き換えることができるが書き換えないでただ覗き見ることも可能だ。
「えっ!あるの⁉︎それを早く言ってよ!」
「す、すみません‼︎」
「えっと、なんだっけ?サンドイッチと魔法陣?」
「違います。砂漠の魔女と魔法陣です」
「え?だからサンドイッチと魔法陣でしょ?」
「違います。砂漠の魔女と魔法陣です」
「うん、だからサンドイッチと魔法陣大丈夫だって、わかってるわかってる!」
「レリカ様・・・砂漠の魔女はパンではありません。さっきから記憶を覗いて見てましたけどサンドイッチというパンを強く思い浮かべてましたよね?」
「なんだよ、パンじゃないのかー。それを早く言えよー。って!そうじゃねぇ!何勝手に私の記憶覗いてるんだよ!」
「えっ⁉︎ダメだったのですか!すみません‼︎」
「えっ⁉︎って!普通に考えればわかるだろー‼︎・・・あ、そういえば、お前の記憶を書き換えた時にお前のバカな性格を変えるために色んな記憶をめちゃくちゃいじったわ。そんときに普通に考えればわかる常識のルール・マナーも一緒に書き換えちゃったかな〜」
「なんかよくわかりませんがレリカ様。ミスしたんですか?」
「ま、まあ、記憶を書き換えたの初めてだったし!しょうがないよ。うん」
そう言ってレリカ達とその二人を尾行中のノアンは近くの教会へ向かった。
「ここが教会か〜。結構でかいな」
「さて、レリカ様。拠点の位置を復讐者が現れるであろうあの場所にできるだけ近くにするんですよね?それでしたらまずはここの教会まで移動しましょう」
デヒトは地図を広げて位置を示す。その示した場所はこの世界に転移してきた場所から一番近い教会だ。
「えっ!ここが一番近い教会じゃないの⁉︎私たちどれだけ歩いたのよ⁉︎」
「ええ、ものすごい距離を歩いてきましたよ。ここからここまで」
地図で歩いてきた距離をデヒトが示す。それを確認してみるとそれはそれは結構な距離で、リアルな単位で表すと20㎞だった。この距離を人間の平均的な速度で歩くと4〜5時間くらいかかる。
「そ、そんなに歩いたのか・・・どうりで疲れるわけだ。ちょうど日も落ちてきてるし今日はこの辺で宿でもとって休もうか」
二人は近くにあった宿屋に向かった。
「いらっしゃいませー!」
元気いっぱいな若女将が出迎えてくれた。
「こ、こんにちは。部屋を一人ひと部屋でふた部屋お願いしたいんですけど・・・」
「ふた部屋ですね!わかりました!代金はひと部屋5クレなのでふた部屋で10クレです!」
(えっ、お金の単位が違う・・・どうしよう)
レリカのいた世界とこの世界では使われている通貨が違った。転移してからただ歩いていただけのレリカは当然この世界の通貨など持っているはずがない。なのでレリカは現在、一文無しである。
「お客様?どうなさいました?10クレをお支払い下さい」
「・・・」
「お客様?あの、10クレを」
「・・・えっと」
「お客さん?10クレ」
「・・・あ、あの」
「10クレ」
「ライト・・・ごめんなさい。いつか絶対に払います」
「あれ?すみません、代金はもらっていましたね!ではお部屋に案内させていただきます!」
「は、はい・・・」
レリカは記憶を書き換え、この場を切り抜けたが、レリカ自身はあまりいい気がしないみたいだ。
「こちらがそちらの男性の方のお部屋になります」
「デヒト、お前の部屋だ。明日は朝早くに出る。準備しておけ」
「了解です。レリカ様、おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
デヒトは部屋に入っていった。次はレリカの部屋を案内すると思ったらすぐに止まった。どうやら隣の部屋らしい。
「こちらがお客様のお部屋になります」
「あ、ありがとう」
「では、ごゆっくりどうぞ!何かあれば何なりとお申し付けください!」
そう言って若女将は入り口の方へと帰っていく。だが、若女将の仕事はまだ終わらない。レリカたちの部屋案内が終わったと思ったら宿の入り口にもう一人一文無しの客が来ていた。
「いらっしゃいませー!」
若女将は元気良く客を迎えた。入り口で待っていたのはレリカたち二人を尾行していたノアンだった。
「こんにちは〜。泊まりたいんですけど部屋空いてますか?」
「大丈夫ですよ!空いてます!ひと部屋でよろしいですか?」
「はい!」
「ではひと部屋5クレになります!」
「えっ?」
「ひと部屋5クレになります!」
「5・・・クレ?」
「はい、5クレです!」
「・・・」
「お客様?どうなさいました?」
(なんだ“クレ”って、そんな単位の通貨聞いたことないぞ・・・)
ノアンも転移してから歩いていただけでこの世界の通貨など当然持っていない。
「お客様?あの、5クレを」
「えっと、ちょっと待ってくださいね」
「はい・・・」
「えっと、僕がお金を払う必要が有ることを無にする・・・ごめんなさい。いつか絶対払いに来ます」
「あ、すみません。お客様からは代金はいただきません。お部屋にご案内しますね!」
「あ、はい・・・」
ノアンはお金を払う必要の有無を書き換え、この場を切り抜けたが、ノアンも、あんまりいい気がしないしないらしい。
「こちらがお客様のお部屋になります!」
案内された部屋はなんと、レリカの隣の部屋だった。だがノアンはこの部屋がレリカの部屋の隣だということには気づいていない。
「は、はい!ありがとうございます」
「では、ごゆっくりどうぞ!何かあれば何なりとお申し付けください!」
そう言って若女将は入り口の方へと帰っていった。これで若女将の今日の仕事は終わった。この宿に泊まった三人の復讐者は結構な距離を歩いたせいかかなり疲れており、三人ともすぐに寝たらしい。そして翌朝。
「おはようございます!」
「お、おはよう。必ず返すから・・・」
「・・・えっ?」
レリカとデヒトは早朝に宿を出て行った。
「あ、ありがとうございましたー!・・・えっと、私、何か貸したかな?」
しばらくしてノアンが慌てて起きてきた。
「女将さぁーーん!!」
「えっ?ええっ?ど、どうしました⁉︎」
突然ノアンが起きてきて慌てた様子で呼ばれて若女将はびっくりしている。
「女将さん!あの二人は!金髪の女の子と僕と同じような服をきた男の二人!もうでていった?!」
「え、ええ、少し前に出ていかれましたけど・・・」
「しまった‼︎早く追いかけなきゃ!女将さん!必ず返しに来ます!それじゃ!」
ノアンは急いで宿を出ていった。
「あ、ありがとうございましたー!・・・ま、まただ。私ったら何をそんなに貸したのかしら?」
若女将の貸したものは何なのかそして、ちゃんと返ってくるのか?そのことを若女将は知る由もない。
こんにちは!作者のユウキ ユキです!お金って大事ですよね。私は一文無しにはなりたくないので働きます。頑張ります。皆さんも一文無しにならないように頑張ってください!それではまた次回〜