絶望的な戦力差
現在、乗っ取られた国を救うために星放社は二つに分かれて作戦を決行していた。そして、二つのうちの一つ、レオン隊と王国騎士団の混合部隊は王国騎士団を捕らえたフリをしてレリカの下僕になった砂漠の十二星座達が集まって来ている城に侵入していた。先頭を歩いているのはニーゼだ。
「(最初の作戦は成功だ!後はこのまま俺がみんなを玉座の間に連れて行く)お、遅いぞ!しっかり歩け!」
「なんだあいつ!きゅう に えらそう にしやがって!」
ニーゼ率いるレオン隊が王国騎士団を捕まえた事になっているため、見回りの警備兵にそれらしく見えるようにニーゼは態度を変えた。しかし、そのニーゼに対してザギンが不満をあらわにする。
「落ち着けザギン‼︎あれはニーゼの演技だ‼︎」
「ぁあ?えんぎ?あーそういうことか!」
どうやら納得してくれたみたいだ。
「(おい、もう着くぞ。準備はいいか?)」
玉座の間に近づいてきた。ニーゼは小声でみんなに心の準備をするよう伝えた。そして、ニーゼはゆっくりと全員の目を見た。その姿は目で“絶対に国を取り戻すぞ”と訴えたように見えた。ニーゼは扉を開けた。
「レリカ様、捕らえた王国騎士団を連れて来ました」
「任務にはなかったのにご苦労さまー!疲れたでしょ?」
任務外のことまでしてくれた優秀な下僕をレリカが気遣う。
「いえ、俺にかかれば容易いことですよ!」
「なんだと?おれは てめぇなんかに やられた おぼえはねぇぞ!」
ニーゼの演技にザギンはつい本気になって声を上げてしまう。しかし、これはこれで逆にリアリティがある。
「ザギン、落ち着けって!」
「そうですよ、ザギン団長!」
ノアンと副団長のレオネが必死にザギンのことを落ち着かせようとする。しかし、その声の中にレリカには聞き覚えのある声があった。
「ん?その声はノアン?・・・あら、あなたもいたの」
「え、あ・・・う、うん。(やっば‼︎僕のことがバレた‼︎)」
ノアンはどうやって王国騎士団と自分が一緒に捕まっていることを誤魔化そうかと考えていると。
「レリカ様、知り合いですか?」
「ええ、多少ね」
ニーゼが話に入ってきて、ノアンから注目を逸らした。
「(ナイスカバー‼︎‼︎)」
「ねぇ、ノアン、外にいる焔赤兜とはどう連絡取るつもりなんですか?」
外にいる焔赤兜との連絡方法を聞いていなかったレオネはどうするのか聞いてみた。
「え?・・・あっ、考えてなかった‼︎」
「考えてなかった⁈えっ!考えてないの⁉︎ちょっとどうするんですか!!」
分かれたもう一つの部隊、砂漠の十二星座の蟹座を司る焔赤兜に合図を出し、城内の敵を城門に引きつけてもらう作戦だったのだが、なんと、どうやって合図を出すかノアン達は話し合うのを忘れてしまっていた。
「そこの人うるさいよ!」
「ひゃっ!はっ、はい‼︎すみません!」
“今はレオン隊に捕まっているフリをしている”ということをすっかり忘れてノアンと話していたレオネは急にレリカに注意され、レオネは“ビクッ!”と大きく驚いた。
「さぁて、王国騎士団の皆さん下僕になりましょー!」
レリカがペンを持って近づいてくる。
「こうなったらもうやるしかねぇ!全員武器を構えろ!戦闘態勢!」
城内のニーゼ達と外の焔赤兜が連絡を取り合う方法が無く、このままじっとしているだけでは王国騎士団が下僕にされてしまう、かといって今攻撃を仕掛けても城内の敵を全て相手にすることになる。しかし、下僕になって作戦の“継続が不可能”になるより敵の全軍を相手にして作戦の“継続が困難”になる方が良いと判断したニーゼは仲間に号令をかけた。
「どういうこと?ニーゼ??」
突然、ニーゼが意味不明な事を言ったため、レリカは驚き戸惑っている。
「残念だったなレリカ、俺はもう下僕じゃないぜ!お前の復讐はここで終わりだ!行くぞ星放社ぁあ!」
「「「「おおおお!!!」」」」
その場にいた王国騎士団とレオン隊の全員が演技をやめ、ノアンからもらった洗脳を解除する効果を持つ空気の剣を構えた。
「そうだ!考えて無かったものはもう仕方ない!いくぞー!」
開き直ってノアンも空気の剣を構えた。
「やっとか!よっしゃ!ニーゼに いらいら してたんだ!あばれてやるぜ!」
ニーゼは全く悪くない。作戦行動中のニーゼの言動にザギンが勝手にイライラしていただけである。
「ノアン!レリカをやるぞ!」
「わかった!」
ニーゼが自分と同じ復讐者であるノアンに声をかけ、二人でレリカに攻撃を仕掛けにいった。一方でザギンの目の前には何者かが近づいてきた。
「なんだ、てめぇは」
「僕の名はエリカスだ、アクエリアス団の副団ちょぐぼぉ!!」
ザギンは相手が話している途中だったが、敵なので構わず王邪の槍を無防備な顔面におもいっきり叩き込んだ。
「き、君!まだ僕が話してる途中でっ⁉︎血、血だ‼︎‼︎」
ザギンの攻撃をくらったところから真っ赤な血が垂れてきた。
「あ、ああ、血が、あぁ、もうダメだァ、ぁあ、もう全員死ね!詠唱、創生魔法・・・“高波”」
エリカスが理性を失い、暴走したかのように魔法を唱えた。すると、エリカスを囲うように水が出てきて、その水は次第に巨大な波に変わり、ニーゼ達に襲いかかる。
「おっ、なかなか良い技じゃん!能力を書き写すっと」
“高波”の広範囲を同時に攻撃することができるその攻撃力を見てレリカはすぐにエリカスの技を書き写した。
「ど、どうすんだよ⁉︎こんなのどうしようもないぞ!」
室内に突如現れた巨大な波を見てレオン隊副隊長のレグルは軽くパニック状態になってしまう。
「大丈夫だ。ライト、“高波”を魔力の霧に変更!」
ニーゼが能力を使って魔力で作られた波を元の魔力の状態に書き換えた。
「あらら、水が消えちゃった。ニーゼがやったの?ちょっとしてそれがあなたの能力?」
「・・・そうだ」
「へぇー、あ、そういえば書き写すの忘れてたね!能力を書き写す&“高波”」
なんと、今度はレリカから詠唱無しで“高波”が放たれた。
「んなっ⁉︎またかよ!」
またもやニーゼ達を巨大な波が襲う。
「今度は僕に任せて!この部屋の中央に穴が無いことを有にする!」
これで巨大な波は穴に吸い込まれるように下の階に消えていくとその場にいた皆が思ったが、部屋の中央に穴など一つもできていなかった。
「な、なぜだ⁈この部屋の中央に穴が無いことを有にする!!有にする!!!」
能力を使っているのに穴が無いままの状況にノアンは驚きを隠せないでいる。
「あはは、事象消去。“な、なぜだ⁈”だって!ふふふ、あはははっ!」
「レリカの能力だ!まずい!“高波”を魔力の霧に変更!」
部屋に穴が現れなかったのはレリカがノアンの能力の発動した事象を搔き消していたからだった。しかし、ニーゼがもう一度“高波”を魔力の霧に書き換えたおかげで星放社はなんとかレリカの“高波”をくらわずにすんだ。
「なんとか、たすかったな。くそが!あのおんなっ!くらいやがれ、突進撃槍!」
「ざんねーん、その攻撃は届きませーん!」
「あぁ?なめてんじゃねぇぞ!」
ザギンは全速力でレリカとの距離を詰め、あと一歩のところまでいったその時、レリカはペンを構えていた。
「ライト、敵の立っている床の素材を水に変更」
「なんだこりゃぁぁぁ!」
「うわぁぁぁぁぁ!!!」
レリカが唱えた次の瞬間、ニーゼたち星放社が立っていた床の素材が水に変わり、星放社は全員下の階へ落下してしまった。
「っててて・・・ここは」
玉座の間から下の階へ落下した星放社は落下の衝撃で少しダメージをくらい、水と一緒に落下したので服はびしょ濡れになってしまっていた。
「下にいる十二星座!落ちてきた奴らを始末しなさい」
床の素材が水になって空いた穴からレリカが下僕の十二星座に命令した。そこにはたくさんの十二星座がいて、星放社は周りを囲まれてしまっていた。
「くっそ!(このまま戦ってても国は取り戻せない‼︎なんとかしてレリカを倒さないと‼︎)」
ニーゼは囲まれながら様々な策を考えている。
「ねぇ、デヒト、私達とあいつらの戦力差はどのくらいあるの?」
レリカが突然、デヒトに星放社との戦力差を聞いた。
「そうですねぇ、私達の戦力はざっと八割程度だと思います。それに比べて敵の戦力は二割もあるかどうかって感じですね」
「ふーん、そっか」
“なんだザコか”という風な感じのこもった言い方だった。
「ちくしょう!むかつくぜ、あの くそおんな!」
「気持ちはわかるぜ、ザギンさん!俺もムカついてきた!」
攻撃を当てる前に落下してしまったザギンと、エリカスの魔法“高波”を前にパニックになってしまいどうすることもできなかったレグルが怒りをあらわにしていた。
「みんな!この状況はまずい!とりあえず、この場所から逃げるぞ!」
「「「了解!」」」
ニーゼの言葉を聞いた下僕の十二星座は瞬時に身構えた。しかし、その一瞬、大軍で囲っているという油断によってできた気の緩みで、わずかに空いた隙間をノアンは見逃さなかった。
「そこだ!ザギン、レグル!突っ込め!」
ノアンが自分たちを囲う敵の中に突破口を見つけた。その突破口からノアンの合図で苛立っているザギンとレグルが先頭を走り、わずかな隙間を強引にこじ開け、みんなで一斉に逃げだした。
「現状、俺たちの戦力はレリカ達と比べてどれくらいあるんだ?」
ニーゼは敵との戦力差を改めて確認するため、王国騎士団副団長のレオネに逃げながら質問を問いかける。
「えーと、そうだなぁ、オレらの戦力は全体の二割かな」
レオネは下僕にされてしまった砂漠の十二星座の戦力を思い出し、自分達の戦力と比べて考えた結果、星放社は全体のたったの二割の戦力しかなかった。
「は!?・・・てことは全体の八割が相手の戦力って事か⁈」
「そうですね、残念ながら戦力差はかなり絶望的です」
この戦いの絶望的な戦力差の中で大軍を相手にどうやって国を取り戻し、勝利するのか。それは二人の復讐者がカギを握ることになる。
こんにちは!作者のユウキ ユキです!最近、有名な曲をピアノを弾く動画にハマっています。久々にピアノの音を聴いてみると、とても癒されるんです!「最近聞いてないなぁ」と思った人!是非聴いてみてください!では、また次回〜




