簡単なチュートリアル
意識がスーっとなくなったと思ったら瞼の裏側からでも明るくなったのがわかった。
『転移完了しました』
目を開けると久しぶりの日の光が差し込んできた。
「うゎ・・・眩しいっ」
『この先は自身の力で復讐を果たしてください。それでは・・・また縁があったらお話ししましょう』
声は聞こえなくなった。
「いなくなんの早っ!ほぼ放ったらかしじゃねーか!本当になんだったんだ?」
話し合わせようと頑張ったけどわけわからん。
「つか、ここどこだよ」
人の気配がしない。よくある街の路地裏といったところか、薄暗くゴミ箱などが置いてある。
とりあえず、ひらけた場所に向かった。
「しかし、暑いな。今は夏なのか?」
しらばく歩いて行くと、人の声が聞こえてきた。商店街のようだ。
「ん?砂?マジか・・・ここ砂漠じゃん」
転移先。それは砂漠のど真ん中にある王国の商店街だった。
これからどうすっかなぁ〜、ノープランだぜ。などと考えながら自分の持ち物を確認した。すると、触ったことのない感触がポケットの中にあった。
「なんだ?ペン?いつのまに入ったんだ?」
見覚えのない万年筆のようなペンがポケットに入っていた。
「もしかしてこれが、プレゼントなのか?」
機会提供者からのプレゼントは普通の・・・ごく普通のペンだった。
「ふっざけんな!こんなんで復讐ができるかっての!おい!チャンスの女!応答しろぉぉぉ!」
機会提供者に不満をぶつけつつ、「あー、もうどうすんだよ」とこの先のことが心配になってきた。
「なーに?あの人急に叫びだしたんだけど」
「こわーい」
「ねー、ママあれなーに?」
「見ちゃいけません‼︎」
道端で突然叫び出した男は完全に変人扱いだ・・・。
「お、おい、あれじゃないのか?確認しろ!」
「はっ!黒の帽子に黒のコート、茶色のズボン、そして白い靴!完全に犯人の特徴と一致しています!」
「よ、よし!取り押さえろぉ!」
「「「うおぉぉぉぉーー」」」
「は?なんだ!なんだ!いきなり!」
鎧で武装した騎士団みたいな十数人の集団がこっちへ猛ダッシュしてくる。
「我々は王国騎士団直属の砂漠の十二星座の一つレオン隊!国家最大級の犯罪を犯した凶悪犯め!」
「「「覚悟ぉぉぉぉーー!!」」」
「ちょ、ちょっと待っ、うおっ!あぶねっ!剣を構えるんじゃない!」
これはやばい!逃げなきゃ、殺される!!
「こ、こらー!逃げるなー!!」
女の声⁉︎騎士団なのに女が混ざってるのか?いやいや、そんなことはどうでもい!今はとにかく安全なところへ!
俺は死に物狂いで知りもしない商店街の中を全力疾走で駆け抜けた。そして何もしてないっていうのに騎士団に追いかけ回されること数十分・・・
「はぁはぁ、撒いたか・・・なんで追いかけてくるんだよ!転移してからちょっと歩いただけじゃねーか!全く身に覚えがない!」
(俺はただ復讐をしにきただけだぞ?まてよ?まさか、“あるもの”に感づかれたのか!それだったらやべーな)
「見つけた!」
(やべっ!・・・は?一人?)
視線の先には先ほどの女騎士が一人で立っていた。
「お仲間はどうしたー!忘れ物でもしたのかー?」
「ち、ちがう!私が速すぎてついてきてないだけよ」
(いいのかそれで・・・仮にも騎士団だろ、もっと団結しろよ)
「なんで追いかけてくるんだよ!俺は何もしてないぞ!」
「う、うそをつかないで!目撃証言とほぼ一致しているからお前が犯人なの!逮捕する!大人しくお縄につけぇ!」
「アホか!もう少し証拠を集めろよ!」
「う、うるさい!犯人ったら犯人だぁぁ!」
女騎士が間合いを詰めて斬りかかってくる。
「まてって!俺は犯人じゃないし武装してないぞ!武器なし!武器なし!」
「も、問答無用っ!はぁっ!やぁっ!えやっ!」
「あぶっ!あぶね!死ぬー!死ぬ死ぬ死ぬ!」
(どーすんだ!武器がねーのに!延々と避けるだけか!)
『すみません、忘れてました』
突然どこからか真っ暗の世界で聞こえた女の声が聞こえた。
「うわっ!びっくりした!急にくんのか!お前は!」
「な、急になにを言っている、戦いの間に独り言か⁉︎」
『力の使い方を説明します。ペンは持っていますか?』
「ペン?あるぞ!この状況をどうにかできんなら早くしてくれ!」
『わかりました、簡単に説明します。そのペンを構え、「ライト!」と叫んでください。そして何をどう書き換えるのかを頭の中でイメージし、言葉に変換して唱えてください。そうすればあなたの力が形としてあらわれます』
「さ、叫ぶのか・・・」
(い、いや!恥ずかしがっている場合じゃねぇ!)
「た、戦いに集中しろー!」
女騎士がまたもや斬りかかってくる!
「くそ!ど、どうする!何かいい案は!」
あーっ、もうっ!これしか思いつかねぇ!
「ら、ライト!お前の剣は俺を斬ることができなくなる!」
ペンを構えて唱えた次の瞬間、女騎士の剣が俺の腕にあたった。とてつもなく痛い。がしかし、その痛みは切り傷ではなく打撃による骨折の痛みだった。
「痛っ!腕は斬れてはないけど痛ぇな‼︎」
(骨折れたかな〜、これは)
「な、なにをしたの!」
「俺の力でこのペンを使い、お前の剣で俺を斬れないように設定を書き換えたんだ」
「へっ?な、何を言っているのかさっぱりわからないわ」
まあ、そうだろうな。正直俺もよくわかってない。
「「「副隊長ぉぉぉーー!!」」」
「お、お前たち!やっときた!」
えっ?副隊長?この女騎士が⁉︎
「ご無事ですか!もうこいつは逃げ場がありません!取り押さえましょう!」
「待てって!何もやってねーって言ってるだろ!信じてくれって!」
「う、うん、ちょっと待って、この人は犯人と特徴は一致しているけど、盗んだ物らしきものを持っていないから、人違いだよ」
「しっかりしてくれよ!危うく死ぬところだったぞ!」
「ご、こめん、お詫びは必ずする!た、ただ今は無理だから、ま、また今度ね!」
「なんで?」
「そ、それは、えっーと・・・」
「盗まれたのが副隊長のお財布だからですね!」
「わ、わわわ!!声が大きいってばっ!」
お財布って・・・何が国家最大級だ!そのお財布の所為で死にかけたぞ!
「民間人に聞かれたらどうするの!」
「す、すみません!ですが、こいつが犯人ではないとすると、また捜索のやり直しですかね」
「そ、そうだね・・・ぐずっ」
副隊長の女騎士はそう言い残して立ち去ろうとする。
ったく、しょうがねぇなー。
「おい!待てよ!」
「な、なに⁈どうしたの?お詫びは必ず・・・」
「そうじゃねぇ、俺もさっきの力で一緒に探してやるよ」
「な、なにを・・・」
「財布に決まってんだろ」
「い、いいの⁈本当っ!!」
どうせ副隊長だから頼める人が少ないとか、民間人に聞かれると騎士団全体の印象が悪くなるとか気にしてんだろ。それに俺には行くところがないしこの土地をよく知っているやつと行動した方がいいと思うしな。
「ああ」
「あ、ありがどゔ」
「な、泣くんじゃねぇ!」
「うぅ、ごめん。じゃあ、改めてよろしくね!私はスナハ王国、王国騎士団直属の砂漠の十二星座の一つレオン隊副隊長のクレン」
「お、俺は旅人のニーゼだ。よろしく」
「うん!」
「あー、右手で握手は無理だ左で頼む」
「はっ!腕!ごめん!だ、大丈夫なの?」
めっちゃ心配してんな、それもそうか自分の攻撃だもんな。
「多分大丈夫だ。ライト、俺の体はこの世界では高速再生する」
すると、骨がもとどおりになり、腕の痛みと骨折による腫れも治った!
「す、すごいね、そのペン」
『覚えておいてください、その力は自分以外の生物には通じないということと、一度書き換えたものをあなたの力で取り消すことは不可能だということを』
しばらく聞こえてこないから何も言わずに消えたのかと思っていた真っ暗の世界で聞こえた女の声がまた聞こえた。しかも急に・・・
「うわぁ!まだいたのか!」
「きゃっ!な、なに⁉︎」
「わ、わりぃ、何でもない」
『ペンの使用方法は大丈夫そうですね、それではまたいつの日か・・・』
「ああ、助かった。ただ、急にくんのはやめてほしいな」
「ど、どうしたの?また独り言言って、悩み事があるの?私でよければ相談にのるよ?」
「あ、いやいいんだ、なんでもない。それじゃ、探しに行くか!」
「あ?ああ!そうだね!よし、いくぞー!」
「「「うおぉぉぉぉーー」」」
もしかして忘れてたのか?大事なんだろ‼︎本当にしっかりしろよ!
こうしてお財布探しの旅が始まった。これから先さらに大変な事が起こるのを俺たちはまだ知らない。
こんにちは、作者のユウキ ユキです。二話目の投稿です!結構長くなってしまいましだが、最後まで読んでくださった方ありがとうございます!これからも毎週金曜日に欠かさず投稿するのでよろしくお願いします!それではまた次回〜